頭によって 様々な知識を得る
自然の成り立ちを
木々の枝葉が 生い茂るように
そうして 様々な技術を得 様々な機器を発明する
そうして 社会は豊かになり 便利になる
物質的に
我々は このようなことのために 生きているのだろうか
木々の枝葉をささえるには 幹が必要だろう
太い幹が
豊かな心が
永遠なる心が
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アイスクライミングで 氷壁を登る
アイスアックスとアイゼンを 氷に食い込ませながら
それらがしっかりと 氷をとらえる
それは 正直な心
それが 身体をささえてくれる
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いくら 言葉が増えたところで
その言葉によって 真実に近づけはしない
かえって 迷うばかりだ
ひとつの 確かな言葉
地中に深く根をはった
そのような言葉が いくつかあればいい
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江藤淳の絶筆となった 「幼年時代」
幼くして母を亡くした彼が 母の手紙を読んで書く
自分のことを他人事のように、へえ、そうか、やっぱりそうだったのかと、
はじめて生みの母の筆で知らされるという驚ろきと喜びと哀しさが、胸に
溢れないはずはない。しかし、それにも増して意外だったのは、この手紙
の行間から、母の声が聴こえて来たという事実である。
何度読み返しても、いや、読み返すたびに、その声は、私の耳の奥に聴こ
えてきた。それは落ち着いていて、知的で優しく、明かるい張りのある声で
あった。私はもう、母の声をよく覚えていないなどとはいえない。手紙を
読み返すたびに、それは甦って来る。読み返さなくとも、私はその声を忘れ
ることなどできない。私は、母の声を知らない子ではなかったのである。
江藤淳が 母の手紙に感動したように この文章に感動する
江藤淳は 最早この世にいないけれど、この文章の中にいきいきと生きている
文学とは こういうものに違いない
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