温泉の湯上りに 窓を開け
遠く山の上の 青い空を眺める
そこに少年の日の 青い空がある
空想冒険小説に熱中した 青い空が
その青い空の向こうに 大海原が
未開のジャングルが 広がっている
そして はるか宇宙の彼方へと 続いている
そこには光輝く 魅惑の惑星がある
限りない夢と 可能性を秘めて
そんな少年の心が 老いた我が心に
今もなお 息づいている
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朝 家のカーテンを開ける
朝の光が 家の隅々に差し込む
我が心にも
ちっぽけな 我が心が
大いなる 大自然の中に
生かされているのを 感じる
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どんなに 歳を重ねようと
心の暗い部分の燃えかすが
ひょっとした拍子に 頭をもたげ
ふたたび 燻ぶりはじめる
どんなに 悟りきった顔をして
生きたところで
どうにもならずに
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正宗白鳥が 小林秀雄との対談の中で
次のように言う
「僕は文学なんかどうでもいい。
人間の生きる悩み、どうして生きるか。
この世に人類というものが発生した苦労だな。
そういうようなところに、いつも惹かれるんだな。」
この言葉に 深く同感する
人間として この世に生きている限り
生きるということの本当の意味を 追い求める
より確かなものを より真実の光を
心が 魂が常に
そのような方向に働いて 止まないのだ
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花を見て 素直に美しいと思う
そこに 何よりも信じるに足る
詩が生まれる
こうして生きている 人間にとって
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人は己の内で
すべてを成就するほど 偉くはない
ただ己の外に向かって 心を開き
他者と心を 通わせる
そうすることによって 心はより大きく成長する
そのように思う
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山間の 五月の新緑の中に
大いなる 平安の中に
田の代を 掻く
そのトラクターの上で 思った
私という名前を背負った 私は
最早 無用となり
魂だけが 新緑の中にとけていく
私は 私から解放され
大自然の大いなるものと 一体化していく
そうして魂は 最後に行き着くであろう
幸福というものを 微かに感じている
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山間の 新緑の風景は
どこを 切り取っても
美しい 一幅の絵になる
自然の すべてが
生き生きと 息づいている
草木の ひとつひとつが
命の 喜びの中に
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心の凹凸が 世間の風に晒され
あちこち 擦れて痛む
薄皮に覆われた 弱い部分が
心の急所とも いうべきところが
その急所のありかは 人によって
それぞれ 違うのだろう
他人から見れば 何でもないようなところが
するどく 擦れて痛む
それが我が存在をも ふるわせる
老いて なお
どうすることもできずに
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己の心さえ よくわからないのに
他人の心など わかるはずがない
ただ 心の外の
夜空に輝く 美しい星を
誰もが 追い求めるのなら
その心の ありようにおいて
我々は互いに 心を通わすことができる
それが 人と人がこの世に
共に生きる ということに違いない
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どんなに世界が 揺れ動こうとも
我々の心は 平安を求める
荒れ地に 一輪の花を求めるように
どんなに世界に
暗雲が 垂れこめようとも
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