孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  ウクライナ侵攻で現実味を増す中国の台湾侵攻 有事の米軍関与には悲観的 経済は絶好調

2022-07-25 23:44:26 | 東アジア
(25日、台北で行われた防空演習で、地下駐車場に避難した住民ら【7月25日 時事】)

【例年以上に緊張感を伴う軍事演習・防空訓練】
台湾では中国の軍事進攻を警戒して例年訓練が行われていますが、ロシアのウクライナ侵攻という事態を踏まえて、「次は台湾」という指摘もあり、今年は例年以上に緊張感が強いものになっています。

****台湾 中国軍上陸を想定した軍事演習を開始 ロシアからの侵攻受けたウクライナ軍の防衛方法も反映****
台湾で中国本土からの攻撃を想定した大規模な軍事演習が25日から開始されました。ロシアによるウクライナ侵攻も演習内容に反映されたとみられます。

銃を持った兵士たちが次々と塹壕に進入します。
25日から始まった台湾の大規模な軍事演習は、中国軍の上陸を想定し、毎年行われているものです。

台湾メディアによると、5月に行われた図上演習ではロシア軍の侵攻を受けるウクライナ軍の防衛方法などを参考にしたといい、25日始まった演習にもその内容が反映されているとみられます。

26日は海軍と空軍による統合演習が予定されていて、蔡英文総統が駆逐艦に搭乗して視察するとみられています。【7月25日 TBS NEWS DIG】
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訓練は軍事演習だけでなく、各地の自治体による防空演習も行われます。防空訓練は対象地域を変えながら各地で29日まで行われます。

25日に行われた台北市では、国防部が訓練を知らせる警報を市民の携帯電話に発信。同市は演習内容を強化した理由を、「中台関係の緊張とウクライナ情勢を鑑み、戦争には準備が必要だということを市民に理解してもらう必要がある」としたとのこと。

****台湾 中国のミサイル攻撃想定の防空訓練 例年より強化し始まる****
台湾で、中国のミサイル攻撃を想定して通行人などを退避させる年に一度の防空訓練が25日から始まり、台北ではロシアによるウクライナ侵攻を受けて、市民の意識をより高めようと例年より強化した形で行われました。

台湾のことしの防空訓練は、今月28日まで4つの地域に分けて行われることになっていて、25日は北部で行われました。

中国のミサイル攻撃を想定した空襲警報のサイレンが鳴ると、解除されるまでの30分間、市民は必ず屋内で待機することになっていて、屋外にいた通行人たちは警察官や憲兵の誘導で近くにある建物の中や地下に入りました。

例年の訓練では、道路を通行中の車は路肩に停止させるだけですが、今回、台北市当局は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、市民の意識をより高めようと、市の全域で訓練を強化し、車やバスを止めるだけでなく乗っている人を降ろして退避させました。

地下鉄の駅の構内には、地上から退避してきた人のほか、電車から降りたものの外に出ることができない人の姿が大勢見られました。

訓練の空襲警報は、スマートフォンにも送信され、外出の途中で受信して地下鉄の駅の構内に入ったという60代の女性は「少々不便ですが、受け入れられます。皆の安全のためですから合わせないといけません」と話していました。

台湾では今週、この防空訓練と並行して、年に一度の大規模な軍事演習も行われています。【7月25日 NHK】
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【アメリカの「あいまい戦略」】
1972年2月のニクソン米大統領(当時)訪中時の「上海コミュニケ」では「台湾は中国の一部」という中国側の主張を米国が「認識(acknowledge)する」と記し(「認める」ではありません)、互いが自分に都合よく解釈する外交的テクニックで79年の米中国交正常化につながりましたが、台湾の地位に関しては曖昧なまま現在に至っており、依然として米中関係緊張の火種でもあります。

日本も基本的にアメリカと同じで、日本政府は「中国政府の(台湾に関する)立場を十分理解し、尊重し・・・」とはしていますが、「同意」「承認」はしていないという立場です。

アメリカは、中国が武力で台湾統一を図ろうとした場合の対応について、あいまいにしておくいわゆる「あいまい戦略」をとっています。軍事介入について明確にしないことで、中国による台湾侵攻を抑止する一方、台湾が一方的に独立向け緊張を高める事態を防ぐ意図も込めているとされています。

バイデン大統領は折に触れこの「あいまい戦略」を否定するかのように、台湾有事の際のアメリカの軍事的関与に言及していますが、ホワイトハウスはその都度「台湾政策に変更はない」と大統領発言を訂正しています。

****米、台湾政策変えず 「あいまい」が安定維持****
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は22日、中国が統一のため台湾に武力介入する事態への対応を事前に明確にしない米政府の「あいまい戦略」を維持すると改めて表明した。

この政策が台湾海峡の平和と安定に貢献してきたと説明した。シンクタンク、アスペン研究所が西部コロラド州で開いたフォーラムで語った。

バイデン大統領は5月に東京で、台湾が攻撃された場合に米国は軍事的に関与するのか問われ「そうだ。そういう誓約だ」と明言した。歴代米政権が踏襲してきたあいまい戦略を意図的に踏み越えたとの見方もあり、中国は猛反発した。【7月23日 共同】
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【台湾では有事の米軍関与に悲観的】
従来からの「あいまい戦略」、更には最近の踏み込んだバイデン発言を踏まえて、台湾側が有事の際のアメリカの軍事的関与をどのように考えているかが注目されますが、世論調査によると、バイデン米大統領が5月下旬、台湾防衛に軍事的に関与する意思があるとした発言に対し、50.9%が「信じられない」と回答したとのこと。

****台湾人の51%「中国に侵攻されたら100日持たない」―世論調査****
台湾の民間シンクタンク「台湾民意基金会」が行った世論調査で、回答者の51%が「中国が武力侵攻すれば台湾軍は100日も持たない」と考えていることが分かった。独メディアのドイチェ・ヴェレが伝えた。

同調査では「ロシアとウクライナの戦争が始まって100日を超えたが、ウクライナは今も苦しい戦いの中にある。もし中国が台湾に武力侵攻した場合、台湾もウクライナと同じように100日以上持つと信じていますか?」との質問に、17.2%が「とても信じている」、20.6%が「どちらかと言えば信じている」、28.6%が「あまり信じていない」、22.4%が「まったく信じていない」と回答した。11.2%は「分からない/答えたくない」だった。

同調査の報告書では「簡単に言えば、台湾人の半数上は、台湾はウクライナほど長く持ちこたえられないと考えている。ウクライナと同じくらい耐えられると考えているのは少数(37.8%)だった」としている。同報告書によると、教育水準が高い人ほど100日も持ちこたえられないと回答する割合が高かったという。

また、5月に訪日したバイデン米大統領が「米軍は台湾を防衛する」と発言したことについて「この言葉を信じますか?」との質問には、10.5%が「とても信じている」、29.9%が「どちらかと言えば信じている」と回答。「あまり信じていない」が28.8%、「まったく信じていない」が22.1%、「どちらともいえない」が8.7%だった。

報告書は「米大統領の明確かつ断固とした発言にもかかわらず、信じていない人の方が多かった」とする一方、「今年3月の同様の質問と比較すると、米国の台湾防衛協力を信じる人の割合は4.1ポイント増加し、信じない人はの割合は2.9ポイント減少した」とも指摘した。

このほか、台湾の呉釗燮外相が5月に米メディアの取材に「戦争回避のため現状を維持し、正式な独立を求めることはしない」との趣旨の発言をしたことについては、「大いに賛成」が8.1%、「どちらかと言えば賛成」が23.3%だったのに対し、「あまり賛成しない」が29.7%、「まったく賛成しない」が18.0%と、否定的な意見が大きく上回った。

この回答には年齢層や教育レベル、地域に差はなかったといい、報告書は「今回の調査が映し出した重要なメッセージは、多くの台湾人が蔡英文政権の『戦争を避けるために独立を求めない』という立場に賛成していないことだ」と指摘している。【6月27日 レコードチャイナ】
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最後の「独立」に関しては、質問の仕方によって数字は大きくことなるでしょう。
上記調査では、現状維持政策に対し否定的な回答が過半数を超えたとのことですが、独立を求めないことに“不満”ではあるが、さりとて、今すぐに“独立”を打ち出すことは現実的でない・・・という考えを多く含んでの数字ではないでしょうか。

いずれにしても、アメリカの軍事的関与が期待できないなかで、中国が本気で軍事侵攻してきた場合、長期間防衛するのは困難・・・という悲観的な見方です。

【ペロシ下院議長の8月訪台に中国が激しく反発】
一方、アメリカは厳しさを増す米中対立の最前線として台湾への関与を強めています。
民主・共和が対立する連邦議会も台湾関与の強化には超党派で支持しています。

トランプ前大統領は2018年3月、米台の高官の相互訪問を促す「台湾旅行法」に署名し成立させ、米台で高官の相互往来を積極的にできるようにしました。

これを受けてアメリカ高官の台湾訪問が相次いでいますが、現在、ペロシ米下院議長による台湾訪問の可能性が物議を醸しています。正副大統領に次ぐ要職(現実的には大統領に次ぐナンバー2でしょう)でもある下院議長の訪台については、中国側がこれまで以上に強く反発しています。“軍事的な対応の可能性も示唆”とも。

****中国、米への警告強める ペロシ氏の訪台計画巡り=FT****
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は23日、ペロシ米下院議長による台湾訪問の可能性について中国がバイデン政権に厳しい警告をひそかに発したと報じた。

FTが事情に詳しい複数の関係者の話として伝えたところによると、今回の警告は中国が過去に米国の台湾政策に不満を示した際よりかなり強い内容で、軍事的な対応の可能性も示唆したという。

ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)と米国務省は報道についてコメントを控えた。中国外務省はロイターのコメント要請に返答していない。

FTは18日、ペロシ氏が8月に台湾訪問を計画していると報道。中国外務省は翌日、同氏が台湾を訪問すれば中国の主権と領土の一体性を深刻に侵害することになるとし、米国は全ての結果に完全に責任を負うと述べていた。【7月24日 ロイター】
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ペロシ下院議長の8月訪台は、共産党大会直前という時期的リスクも大きいとの懸念が米軍内にもあるようです。

****米軍トップ、台湾訪問リスク伝達 下院議長に、中国刺激を懸念****
24日付の米紙ワシントン・ポストは、軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長が、8月に台湾訪問を計画しているとされるペロシ下院議長に対し、訪台は時期的にリスクがあるとの見解を伝えたと報じた。米当局者の話としている。米軍は秋ごろに共産党大会を開く中国政府を刺激することを懸念しているという。

下院議長は大統領が執務不能になった際の継承順位が副大統領に次ぐ要職。中国は、人権問題などを厳しく批判するペロシ氏の訪台の可能性に強く反発している。実際に訪台すれば現職下院議長としては1997年のギングリッチ氏以来で25年ぶりとなる。【7月25日 共同】
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【経済的には絶好調 ただし、格差問題あり】
やや不思議にも思えるのは、台湾の置かれている上記のような不安定さ、危うさの一方で、台湾経済は非常に好調であるということです。

1人あたり名目GDPで見ると、日本は27年に韓国に抜かれ、28年には台湾にも抜かれるとという予測がなされていますが(日本経済研究センター予測 2021年12月15日 日経より)、下記記事によれば台湾の躍進はもっと早まりそうです。

しかしながら、その内実を見ると、「格差」という問題もあるようです。

****台湾経済絶好調 それでも所得格差が広がるのはなぜ?****
台湾経済が絶好調だ。台湾政府で経済政策の策定などに当たる、国家発展委員会(国発会)によると、2021年の経済成長率は6.57%で11年ぶりに過去最高を更新。1人当たり国内総生産(GDP)が初めて3万ドルを超えた。

行政院(内閣)やシンクタンクの予測では、今年も3.2%〜4.1%の成長が見込まれ、1人当たりGDPが、長年のライバルである韓国を超えるのはほぼ確実とみられる。

世界通貨基金(IMF)が購買力平価で計算したところ、台湾の1人当たりGDPは、21年にはスイス、米国に次いで3位で、日韓を含む経済協力機構(OECD)加盟38カ国の大半を上回っている。全体の経済規模でも23年には、世界20位以内に返り咲く見通しだ。

輸出と投資好調、物価と雇用も安定
(中略)

総統自賛も所得格差で白けムード
台湾経済は、データ上は日本人の目には、まぶしいほどだが、社会からは高揚感がまるで感じられない。蔡英文総統は5月に「今年は台湾の1人当たりのGDPが、19年ぶりに韓国を追い抜く」と胸を張ったのだが、やけに白けた空気が広がった。

台湾の多くの庶民にとって、豊かさの実感が乏しいためだろう。一部メディアが形容したように「最近2年間、輸出関連や証券投資家、不動産オーナーなら天国。飲食店のオーナー、賃貸マンション住み、副業ゼロの給与生活者は地獄」。好景気の恩恵を受けた人々が一部に偏っていて、しかも、ますますひどくなっている。

台湾人の圧倒的な多数派が、所得格差を深刻に感じていることは、世論調査の結果も明らかだ。
超党派の非営利団体である、台湾民意基金会が今年1月末に発表した世論調査によると、「台湾の貧富格差問題を深刻と思うか」の問いに対し「非常に深刻」が40.8%、「深刻」が38.4%で、合わせて79.2%に上った。「あまり深刻でない」、「少しも深刻でない」を合わせても16.7%。台湾人にとって所得格差はもはや常識といってよい。

国発会のデータでは、所得格差はゆるやかではあるが、年々悪化している。所得階層別に最高の20%と最低の20%の層を比べると、20年は世帯が6.13倍、個人が3.84倍。1976年は、世帯所得では4.18倍で、格差は大きくなっている。

不平等を示すジニ係数は、1に近づくほど所得格差が拡大する。0.5を超えると是正が必要とされるが、台湾は既に0.35。しかも、緩やかながら悪化が続いている。

産業の「M字化」で格差固定化
台湾の所得格差の背景と指摘されるのが、台湾産業と賃金の「M字化」だ。半導体、自転車、インターネット、サイバーセキュリティは海外からの受注が相次ぎ、投資も拡大する一方、伝統的な製造業やサービス業は景気も賃金も低迷したまま。「M」のように両極端がそそり立つ構造が固定化している。
 
行政院主計総署によれば、21年の台湾人1人当たりの平均月給は5万5754台湾元(25万4100円)で悪くないが、台湾庶民の実感とかなり隔たる。求人求職サイトの1111人力銀行によれば、半導体産業など、台湾のトップクラスの賃金に引きずられているため。

同行によると、20年現在、全雇用者の月給の中央値は約4万2000台湾元(約19万円)で、全雇用者の半数は年収が51万台湾元(233万円)に届いていない。この方が台湾庶民の実感に近いという。

しかも台湾の賃金は地域差も大きい。台湾各市・県で、平均年収が最高なのは新竹市で97万2000元(443万円)、2位は台北市で86万3000元(393万円)。3位は新竹県の85万8000元(391万円)。他の県市の平均年収は70万元(317万円)に届かず、10県市は60万元(272万円)以下だ。

賃金で台湾首位の新竹市は、TSMCの本社所在地だ。首都の台北市と並んで平均年収が他を遥かに上回るのは、産業構造が関連しているのは明らか。ハイテク製造業に偏った産業構造の「M字化」が、地域格差をもたらしている。

産業構造の「M字化」は、労働時間の差にも現れている。20年1~3月期には、製造業がサービス業より労働時間にすると2倍近く仕事があった。21年の平均でも、製造業と毎月の労働時間に15時間近い差がみられた。

しかも、台湾のハイテク製造業偏重は加速している。米中貿易戦争や新型コロナウイルスの感染拡大で、世界のサプライチェーンに占める台湾ハイテク製造業の地位が向上しているためで、さらに多くの人と資金を飲み込んでいる。

台湾政府も、TSMCなど半導体産業を「護国の神山」と呼んで、特別扱いだ。だが、このような偏りは、所得格差のみならず台湾経済の脆さにつながりかねない。(後略)【7月5日 WEDGE】
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まあ、それでも低迷から抜け出せない日本からすれば、台湾の経済好調は“まぶしいほど”ではあります。
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