孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イエメン  近日中にスウェーデン・ストックホルムで内戦当事者間の和平協議開催か

2018-12-04 23:11:02 | 中東情勢

(イエメンの首都サヌアのサヌア空港で、オマーンの首都マスカット行きの便を待つフーシ派の負傷兵(2018年12月3日撮影)【12月4日 AFP】)

サウジ・ムハンマド皇太子は不満? 停戦実施に向けた国際社会の流れ】
イエメンでは、サウジラビアとイランの代理戦争とも評される内戦の長期化で1万人が死亡し、人口2800万人のうち800万人が飢餓状態にあるともいわれる状況にあり、国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」によれば、で2015年以降、8万5000人もの5歳未満の子どもが、飢餓や病気で死亡した可能性があるとも言われています。

そんな泥沼状態のイエメンにあって、ようやく和平協議への動きが見られる・・・という件は、11月23日ブログ“イエメン内戦 国連仲介の和平協議 サウジ人記者カショギ氏殺害事件がサウジ・アメリカに影響か”でも取り上げました。

暫定政府を支援して大規模な空爆による軍事介入を行っているサウジアアラビア、そのサウジの強硬姿勢を主導してきたのがカショギ氏殺害事件の渦中にあるムハンマド皇太子ですが、国連安全保障理事会での停戦決議案内容には“激怒”したとも言われ、現段階での停戦を望んではいないようにも見えます。(アメリカを通じて停戦決議採択を遅らせているとも)

しかし、先のG20でも国際社会での孤立を改めて感じているところでしょうから、ここで強硬な対応をとることのマイナス面は認識していると思われます。

これまでサウジアラビアを支援してきたアメリカも含めて、国際社会の流れは停戦・和平を促す方向にあります。

****イエメン政府、和平協議に出席へ 反政府組織は攻撃停止を表明****
サウジアラビアを後ろ盾とするイエメン政府が、スウェーデンで開かれる国連主導の和平協議に出席すると表明した。イエメンの通信社が19日に伝えた。

和平協議は国連のイエメン担当特使、マーティン・グリフィス氏の主催で開かれる。正式な和平協議は2016年にクウェートで開かれて以来となる。

これに先立ちイエメンの反政府武装組織「フーシ」は、サウジ率いる有志連合に対するミサイル攻撃やドローン攻撃を停止すると表明。19日に発表した声明で、「もしイエメン国民のために真の平和を望むなら、我々は公正かつ栄誉ある和平の達成に向け、軍事作戦を全面的に凍結・停止する用意がある」と表明した。

イエメンに関連して、英国は19日に開かれた国連安全保障理事会で決議案を提出すると見られていたが、この日午前の会合では同決議案には言及しなかった。

クウェートのオタイビ国連大使は同日午後、記者団に対し、イエメンに関する決議案は20日に提出されると説明した。ただし週内に採決が行われるかどうかは疑問だとしている。

サウジアラビアに対しては、3年以上続くイエメンの内戦を終結させるよう、国際的な圧力が強まっている。

英国のハント外相は先週、サウジの首都リヤドでムハンマド皇太子と会談した。複数の関係者は、決議案の文言を見たムハンマド皇太子が激怒したと伝えている。

ハント外相はこれより前、米国のポンペオ国務長官やフランスのルドリアン外相とも対応を協議しており、欧米諸国が決議案を支持していることがうかがえる。

米国もこれまではフーシ掃討を目指すサウジの戦闘を支持してきたが、この数週間は、有志連合によるイエメン爆撃を停止するよう呼びかけていた。

10月30日にはマティス米国防長官と米国務省がイエメン内戦の関係者に対し、30日以内に停戦に合意するよう求めた。

サウジ率いる有志連合と、イランを後ろ盾とするフーシの戦闘により、イエメンでは少なくとも1万人が死亡。サウジが同国の一部を封鎖したことで1800万人が食料供給を断たれ、イエメンはこの100年で最悪の飢餓状態に陥っている。

国連の専門家は、サウジ主導の爆撃で市民が犠牲になっていることについて、戦争犯罪に当たる可能性があると指摘している。【11月20日 CNN】
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アメリカはサウジアラビアへの空中給油を停止するなど停戦に向けた圧力を強めているとも報じられています。【11月30日 WSJより】 そうした国際社会の流れを背景にしての、今回の和平協議です。

【イランは和平協議を歓迎】
反政府勢力フーシ派を支援しているとされるイランの方は、和平協議に乗り気なようです。イラン系メディアは以下のように報じています。

****イラン外相、「スウェーデンでのイエメン人同士の協議を歓迎」****
イランのザリーフ外相が、「イランは、スウェーデンでのイエメン人同士の協議開催を支持する」と強調しました。

ファールス通信によりますと、ザリーフ外相は3日火曜、ツイッター上で「全ての関係勢力が、イエメン危機収束に向けて、責任ある建設的な役割を果たす必要がある」とし、「世界は、対話を支持し、侵略者の武装化を止めさせるという歴史的に重要な責務を担っている」と述べました。

イエメン人同士の和平交渉の新ラウンドは、スウェーデンの首都ストックホルムで開催される予定です。

イラン外務省も3日、声明を発表し、スウェーデンでのイエメン人同士の対話開始への支持を表明するとともに、「イエメンにおける危機や人道上の惨事の収束に向けた努力は、歴史的に重要な努力だ」としました。

また、この声明では、「イエメン国民に対する、4年近くにも及ぶ戦争や破壊・侵略行為は、好戦主義者の政治的、覇権主義的な思惑のどれ1つも達成させることがなかったのみならず、抑圧されながらも抵抗した、女性や子供をはじめとする同国の様々な階層の多数の国民の生命を奪い、同国の経済資本やインフラを破壊し、人道面での全面的な大惨事を引き起こすに至った」とされています。【12月4日 Pars Today】
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【協議に先立ち、傷戦闘員の国外搬送や大規模捕虜交換の話も】
和平協議に先立ち、フーシ派は11月19日、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)へのミサイル攻撃などを停止すると発表していましたが、11月末にはサウジアラビア南部ナジュランを拠点にする攻撃ヘリ「アパッチ」に対してミサイル攻撃を行ったとの発表があり、和平協議への流れが中断するのでは・・・とも懸念されましたが、大事には至っていないようです。

協議は12月3日にスウェーデン・ストックホルムで開催予定とも報じられていましたが、上記【12月4日 Pars Today】は“で開催される予定”という表現ですので、まだこれからのようです。

“和平の仲介役を担っているクウェートのハーリド・ジャーラッラー外務副大臣は記者団に対し、4日午前にもフーシ派の代表団がクウェート大使と共にサヌアからストックホルムへ発つ予定だと明らかにした。”【12月4日 AFP】ともありますので、近日中開催予定なのでしょう。

イエメンの各当事者の協議は、2015年にスイスの都市ビールとジュネーブ、2016年にクウェートで行われた3度目の会議の後に、2年前に途絶えていています。
2年ぶりに今年9月6日にジュネーブで実施が予定されたイエメン問題協議会議は、フーシ派が参加せず当事者間協議は行われませんでした。

協議の行方は不透明ですが、停戦・和平に向けた動きも報じられています。

****イエメン、和平協議控えフーシ派負傷戦闘員を国外搬送****
内戦が続くイエメンで3日、イスラム教シーア派系の反政府武装組織フーシ派の負傷戦闘員が治療のため航空機で隣国オマーンの首都マスカットへ搬送された。

イランが支援するフーシ派と暫定政権側はスウェーデンでの和平協議を控えており、同日には国連特使がイエメン首都のサヌアに到着した。
 
国連の関係者によると、現在サヌア国際空港の再開に向けた取り組みが進められているという。同空港はサウジアラビア率いる連合軍が支援する暫定政権とフーシ派の戦闘により、3年近く閉鎖されている。
 
また国営オマーン通信によると、国連のチャーター機がフーシ派の負傷戦闘員50人を乗せサヌアを出発し、マスカットに到着した。
 
深刻な飢餓を引き起こしている内戦の終結を求める国際社会の声が高まる中、負傷戦闘員の搬送が停滞した和平協議の進展につながるか注目されている。(後略)【12月4日 AFP】
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****イエメン暫定政権と反体制派、数千人規模の捕虜交換に合意****
内戦が続くイエメンで、サウジアラビア率いる連合軍が支援する暫定政権と、イスラム教シーア派系の反政府武装組織フーシ派が、スウェーデンで予定されている和平協議に先立ち、数千人規模の捕虜交換を行うことで合意した。関係筋が4日、明らかにした。
 
政府関係者がAFPに語ったところによると、この合意は国連のイエメン担当特使、マーティン・グリフィス氏の現地訪問中に結ばれたとされ、暫定政権側の1500〜2000人と、フーシ派側の1000〜1500人の捕虜が対象になるという。

これを受けて赤十字国際委員会は、「紛争に関連して拘束された人々の解放と移送、帰還に向けたイエメン当事者間の合意を歓迎する」と述べ、ICRCがこの捕虜交換の監督と調整に当たることを明らかにした。
 
同政府関係者によると、実施の時期はスウェーデンでの和平協議後になる見通しだという。【12月4日 AFP】
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【もうひとつの軍事介入当事者UAEの目論見】
なお、サウジアラビアの影に隠れる形であまり大きく扱われることはありませんが、UAEも「アラブ連合軍」としてイエメンに軍事介入しており、拘束者に対し激しい拷問を加えているとも報じられています。

****湾岸産油国「人権蹂躙」の鬼畜ぶり***
(中略)国際ニュースでは「シーア派イランとスンニ派サウジの代理戦争」とされる。
 
だが、UAE当局者が被拘束者を、スンニ派のテロ組織所属容疑で痛めつけている。UAEには独白の戦争目的がありそうだ。
 
ホデイダ、ソコトラ島、ムッカラーなどUAEの攻撃は港湾都市、海上拠点に集中している。ベルシヤ湾~アラビア海~紅海の海洋利権構築の野心が浮かび上がる。
 
本誌で以前にも紹介したように、現在のUAEを動かしているのは、アブダビ首長国のムハンマド・ビン・ザーイド皇太子。五十七歳の皇太子は弁舌も巧みな野心家で、UAEを海洋地域大国、国際金融センターにしようという構想を持つ。

今回の記者殺害事件で悪名をとどろかせた、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(三十三歳)には、年上の指南役として臨んでいた。

両皇太子は、ドナルド・トランプ米大統領が昨年、サウジを訪問した際には、終始両わきを固めて、追従と投資、賭け話で大統領を龍絡した。(後略)【「選択」11月号】
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【サウジアラビア等の軍事介入を容認・黙認したオバマ前政権の責任】
また、アメリカについては、そもそも多大な市民犠牲を生んだサウジアラビアの悪評高い空爆を容認したのは、オバマ政権の責任だとの指摘もあります。

****イエメン泥沼化はオバマに責任あり****
オバマ前政権の高官らがイエメン内戦に絡んでトランプ政権によるサウジ支援を批判したが、現在の問題の発端はオバマ時代にある

11月11日、オバマ前米政権の元高官30が声明を発表した。ドナルド・トランプ大統領の現政権に対し、イエメン内戦でサウジアラビアに提供している支援を打ち切るよう呼び掛けたものだ。
 
アメリカの関与がイエメン国民に悲惨な状況をもたらしてきたことを考えれば、前向きで思慮に富んだ要求ではある。

だがそもそもの問題は、オバマ政権にあったはずだ。イエメン内戦において、サウジ主導のアラブ連合軍を支援するリスクを読み違えたことが発端だった。(中略)

オバマ政権は、数力月以内にホーシー派を掃討するというサジアラビアによる根拠なき口車に乗ってしまった。60年代にイエメンに軍事介入して抜け出せなくなったエジプトの例から、十分な教訓を学んでいなかった。

無差別空爆は当時から
(中略)ヒューマン・ライツ・ウォッチはオバマ政権に、空爆の証拠を何度も示した。しかし政権側はアメリカの支援にはサウジ軍による空爆を抑制する効果があり、さらにはサウジ側か戦時国際法を遵守するのに役立っているとかたくなに主張するだけだった。(中略)

一方、オバマ政権はサウジ政府を軍事支援しただけでなく、外交的にも黙認した。

国連が15年の報告書で、イエメンの子供たちを攻撃したサウジ主導の連合軍を、子供の人権を侵害する組織や国を列挙した「恥のリスト」に入れたとき、アメリカは静観を決め込み、サウジアラビアはリストからの削除を強硬に要求した。

当時の潘基文国連事務総長はしばらく抵抗したが、ついに屈してリストから外した。(後略)【12月4日号 Newsweek日本語版】
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現在のイエメンの惨状に対する責任問題はいろいろありますが、まずは和平に向けた合意がとにもかくにも成立することを強く期待します。

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