孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  予想通り難航するEU離脱交渉 「離脱からの離脱」を本気で考える必要も

2017-09-02 22:37:19 | 欧州情勢

(画像は【8月28日 ZUUonline】より
「単一市場」や「関税同盟」の変更を控えて、イギリスに進出する約1千社の日本企業も、離脱への対応を迫られています。)

【“手切れ金問題”等で難航する離脱交渉 10月の貿易協議入りは困難
昨日まで訪日していたイギリス・メイ首相、先の総選挙で想定外の敗北を喫し、ただでさえ難航必至のEU離脱に向けて交渉を維持する求心力も低下していると見られていますが、ご本人はまだまだやる気のようです。

もちろん、そうした強気の姿勢を敢えて見せていないと、求心力は崩壊し、政権を運営していけないという現実的背景もあるのでしょうが。

****メイ英首相、2022年まで続投意向を表明 党内に波紋****
英国のメイ首相は2日までに英メディアの取材に対し、任期満了となる2022年の次期総選挙まで首相を続ける意向を示した。

与党保守党内では、政権基盤の強化を目指して総選挙の前倒しを決断した結果、過半数割れに追い込まれた首相の責任を問う声が根強い。あえての発言に波紋が広がっている。
 
メイ首相は訪日中、BBCに次期総選挙まで政権を担うか尋ねられ、「そうだ。私は長期政権のためにここにいる」と回答。「私や私の政府がするのは(欧州連合からの)離脱だけでなく、英国のより明るい未来を開くことだ」と述べた。
 
この発言に保守党のモーガン前教育相は「次の選挙に向けて我々を率いていくのは難しいと思う」と発言。シャップス元幹事長も「驚きがあるのは確かだ」と述べた。
 
保守党は10月に党大会を開く。「メイ首相を完全にサポートする」(ジョンソン外相)との声もあるが、メイ首相の責任論をめぐる議論が盛り上がる可能性がある。【9月2日 朝日】
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問題の“難航必至”のブレグジットは、やはり難航しています。
その大きな原因は、当事者イギリスの方針が定まっていないことにもあります。

現在は、いわゆる“手切れ金問題”、イギリス在住のEU加盟国出身者の権利保障、アイルランドとの国境管理などをめぐって交渉が行われていますが、イギリス・EU間の溝は深く、交渉がずれこみそうな状況であることは各種報道のとおりです。

****<英離脱交渉>「清算金義務なし」 EU側は反発****
離脱交渉での英国とEUの立場の違い

英国の欧州連合(EU)離脱を巡る第3回交渉会合は8月31日、大きな進展なく4日間の日程を終了した。

焦点の手切れの清算金問題について、英側は、離脱決定前に拠出を約束したEUの中期予算のうち、2019年3月末の離脱日以降分は支払う義務はないと主張。EU側の強い反発を招いており、貿易協議前に交渉が行き詰まるのは必至だ。
 
「秩序ある離脱をとげるのか、何の合意もなくEUを離脱するのか。根本的な問いだ」。EUのバルニエ首席交渉官は31日、英国のデービスEU離脱担当相も同席した会合終了後の記者会見で、交渉の決裂も示唆して不満をあらわにした。
 
デービス氏は今回、英企業の不安に配慮して「一時的な関税同盟」の維持を求めるなど、離脱後のEUとの関係について初めて詳細な提案をまとめて交渉に臨んだ。

だが、EU側にとって多くは「後回し」と位置付ける課題だ。ユンケル欧州委員長は、英側の提案内容についても「一つとして十分なものはない」と突き放していた。
 
EUにとって、焦眉(しょうび)の問題は▽1000億ユーロ(約13兆円)ともされる手切れ金▽英在住のEU加盟国出身者の権利保障▽アイルランドとの国境管理−−など離脱の条件を巡る合意だ。

記者会見で双方は、国境問題では有意義な議論が行われたことを強調したが、手切れ金では隔たりの大きさが表面化した。
 
手切れ金に含まれるのは中期のEU予算や途上国支援の基金などだ。英側はこれまで、「義務に相当するものは1ペンスたりとも多く、あるいは少なく支払うべきでない」(ジョンソン英外相)と最低限の支払いには応じる姿勢をみせていた。

だが、バルニエ氏によると、英国は今回、離脱日以降のEU予算に相当する金額は払わないとの方針を初めて説明。EU側には「到底受け入れられない」(EU筋)内容だった。
 
残る交渉期間は1年7カ月で、双方は時間との闘いを迫られている。EUは今年10月半ばの第5回交渉までに手切れ金問題に見通しをつけ、直後の首脳会議で貿易協議入りを政治判断すると見通しをたてていたが、目算は崩れつつある。

欧州議会の交渉責任者を務めるフェルホフスタット議員(元ベルギー首相)は10月の貿易協議入りは「非常に難しい」との見方を示す。
 
一方、デービス氏は31日の会見で「離脱(の条件)と将来の関係の議論が重なることは避けられない」として、改めて早期の貿易協議入りを催促。

英国はEU加盟(1973年)後、他国と貿易協定を結んだことがない。交渉は細かな法律にも影響するため、国内での調整に膨大な作業と時間がかかる。元駐日英大使のデビッド・ウォレン氏は「貿易交渉に精通する官僚が英国にはほとんどいないため、交渉は長期化する」と指摘する。【8月31日 毎日】
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交渉中のいずれの問題も難題ではありますが、非常にわかりやすいカネの話“手切れ金”が大きな制約になっているようです。

****EUから「脅されるべきでない」 離脱交渉めぐり英閣僚****
英国とEUは今週、ブリュッセルで第3回目の離脱交渉を行い、新たな貿易協定を始める前提とされている清算金やEU市民の権利、アイルランドと北アイルランドとの国境管理をめぐる問題について協議したが、清算金をめぐる意見の対立で交渉は暗礁に乗り上げた。
英国とEU双方が、交渉の進み具合に不満を表明している。

フォックス国際貿易相は、悪い合意は英国と欧州両方の企業にとって損害になると述べ、企業は離脱交渉の進展がゆっくりであることに不満を募らせていると付け加えた。

英国は貿易協定の交渉をできるだけ早く始めたい考えだが、EUは「手切れ金」を含む離脱の取り決めで「十分な進展」があった場合のみ、将来の関係について協議を開始できると主張している。

EUのミシェル・バルニエ首席交渉官は、現在のペースで交渉が進むのであれば、将来の貿易関係に関する並行協議の開始を勧告するには程遠いと語った。

清算金の額が公に示されたことはまだないが、ジャンクロード・ユンケル欧州委員長は、約600億ユーロ(約7兆8500億円)になる可能性があると示唆した、一方、1000億ユーロに上るとする未確認の情報もある。

フォックス氏は訪問先の日本で、英ITVニュースの取材に対し、EU離脱の結果が関税のない自由貿易であれば全員の利益になると述べた。

英国として清算金の額を提示すべき時期にあると思うかとの質問に対してフォックス氏は、「最初の部分(清算金)で、一定額を脅されて支払うようなことがあってはならない」と語った。

「最終的な決着に向けた対話を始めるべきだと思う。経済活動にとって良いことで、英国の人々や残りの欧州連合の人々の繁栄にとって良いことだからだ」(後略)【9月1日 BBC】
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“一定額を脅されて支払うようなことがあってはならない”云々はイギリス側の言い分であり、EU側からすれば、イギリスがいくらなら支払う気があるのか明確にしていないことへの苛立ちがあります。

基本的な問題への方針を整理せず行われた国民投票の意味合いは?】
“手切れ金問題”に関しては、イギリス政府は方針すら公表できていません。それは、“与党・保守党の離脱派は、「離脱すれば財政負担が減る」と訴えてきただけに簡単に応じられないためだ。”【8月30日 朝日】という事情があり、閣僚によっても発言内容が異なります。

しかし、このあたりの話は、そもそも離脱をめぐる国民投票がまともな議論の上でなされたものだったのか?・・・という基本的な疑問にもつながります。

イギリス在住のEU加盟国出身者の権利保障については、イギリス側がやや譲歩する姿勢も見せています。もちろん、与党内の強硬離脱派からは“後退”との批判を受けています。

“英政府は今のところ、EU移民規制を優先し、EU単一市場から完全撤退する「強硬離脱」の方針を保っている。ただトーンダウンした課題もある。メイ首相はEUから主権を取り戻す象徴として、EU司法裁判所からの撤退を掲げてきた。だが8月に公表した提案では、EU司法裁の「直接の司法権」からは外れるとしつつ、司法分野でEUと連携する方針も示した。”【8月30日 朝日】

アイルランド国境問題に関しては、アイルランドと北アイルランドの国境で人の行き来が自由にできる共通通行地域を維持し、税関など物理的な境界を設けないことをイギリス側が提案しています。

素人考え的には、それでは人も物もアイルランドから北アイルランドを経てイギリス内に流れ込むのではないか? それのどこが“離脱によって支配を取り戻す”ことになるのか? という素朴な疑問も感じます。

もちろん、アイルランドと北アイルランドは現在すでに生活・経済が1日約3万人が行き来する自由な往来を前提に構築されており、国境検問を再開するとなったら、北アイルランド住民、特にアイルランドとの統合すら望んでいるカトリック系住民の大きな反発を招き、アイルランド紛争再燃にもつながりかねません。

この一点を考えるだけでも、そもそもブレグジットは無理があるのでは・・・・との印象もあります。

イギリス経済にとって肝心の貿易関係については、“2年程度の移行期間を設けて新たに暫定的な関税協定を締結する”という方針が発表されていますが、EU側の対抗は厳しいものが予想されます。

****英、移行期間の関税協定要求 EU側は「いいとこ取り」批判も****
英政府は15日、欧州連合(EU)からの離脱に伴い、加盟国間の関税を撤廃し域外との貿易に共通関税を設ける「関税同盟」から抜けた上で、2年程度の移行期間を設けて新たに暫定的な関税協定を締結するとの交渉方針を発表した。その間に第三国との自由貿易協定(FTA)の協議をまとめたい考えだ。
 
デービスEU離脱担当相が明らかにした。離脱で最大の貿易相手であるEUとの間で関税や通関手続きが生じることを回避するのが狙い。今月末のEUとの離脱交渉で正式提案する。
 
英国はEUとの新たな通商関係について「円滑で秩序ある移行」を目指すと説明。デービス氏は英BBC放送で、「可能な限り現状に近い取り決めにしたい」と述べており、移行期間中も関税ゼロの継続を求めるとみられる。
 
英国が目指す新たな関税協定は、離脱に伴う激変緩和措置の一環。関税協定失効後の他国とのFTA締結を視野に入れているが、EU側は、英国に都合の良い”いいとこ取り”だとして反発を強める可能性が高く、未払い分担金清算などで一定の進展がない限り、応じない意向だ。【8月16日 産経】
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与党・保守党内が残留希望派から強硬離脱派まで議論が割れ、統一がとれていないのは先述のとおりですが、野党・労働党は、経済や雇用を優先すべきだとして、少なくとも離脱後の数年間は単一市場や関税同盟にとどまるという「穏健離脱」路線を打ち出し、政府・与党に揺さぶりをかけています。

****英野党労働党、ソフトブレグジット目指すと表明 メイ首相に対抗****
英国の最大野党・労働党は27日、欧州連合(EU)離脱後の移行期間に英国を欧州単一市場と関税同盟にとどまらせる「ソフトブレグジット」を目指す方針を示し、「ハードブレグジット」を唱えるメイ首相と正反対の政策を提示した。

労働党の影の内閣でEU離脱担当相を務めるスターマー氏が英紙オブザーバーに明らかにした。

同相によると、労働党は、英国がEU離脱交渉期限の2019年3月以降も、人の自由な移動を含め、EU加盟国と「同じ基本条件」を維持できるよう求める考え。突然のEU離脱により、経済に悪影響が及ぶのを避ける狙いがある。

労働党はまた、EUとの関税同盟の維持を目指すほか、交渉次第で欧州単一市場と新たな関係を結ぶ可能性を示した。

メイ首相率いる保守党政権の閣僚は、EU離脱後の移行期間に英国が単一市場や関税同盟に残留する可能性を排除している。

スターマー氏は、2019年3月以降もEUのルールに従うことでEUと英国間の貿易が関税や税関検査、追加の行政手続きなしに続けられると説明。ただ、既存の枠組みに残留する期間は特定しなかった。

同氏はまた、労働党はいかなる交渉においても雇用と経済を優先するとした。【8月28日 ロイター】
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イギリス政府側の対応も、「ハードブレグジット」とは言いつつも、妥協・譲歩で「ソフトブレグジット」に近づくようにも見えます。しかし、そうなると今度は強硬離脱派が反発して・・・と混乱が拡大する事態も。

ただ、手切れ金問題もそうだったように、本来はこのあたりの議論は整理したうえで、どのような形の離脱を目指すのか明示したうえで、国民の判断をあおぐべきだったもので、めいめいが勝手に都合のいい形を想像して行った国民投票が本当に“まともなもの”だったのかという疑問にもつながります。

また、「ソフトブレグジット」に近づくほどに、「支配を取り戻せ!」という形で主張された、“EU加盟諸国から労働者が流入すること、そして英国内の規定にまでEU本部から口出しされる”とのEU加盟のデメリットの解消が、次第にあいまいなものになっていき、“EUからの影響は受けるが、口はだせない”関係にもなっていきます。

一体何のための離脱なのか?・・・というそもそも論にもなります。

ブレグジッテキジット「離脱からの離脱」】
なんだかんだ考えると、離脱そのものに無理があるし、そこに向けた交渉・調整は非生産的な苦労のようにも思えます。

****EU離脱をやめそうな英国 謝罪と「騒動の代償」をどう払うか****
「なぜこんなことになったのか」(二十代男性)
「欧州連合(EU)離脱に賛成票を投じた自分が情けない」(五十代女性)
 
ロンドンの街頭で市民に聞くと、怨嗟と怒り、後悔ばかりが返ってくる。ブレグジット(Brexit)の国民投票から一年余りで、英国はEUのつまはじき者になり、国際的地位は劇的に低下した。そしてその上、国民の過半数が「EU離脱をやめたい」と心底望んでいる。
 
舌を嚙みそうな「ブレグジッテキジット(Brexitexit=EU離脱からの離脱)」を主導する一人は、悪名高いEU条約第五十条(EU離脱の手続き)を起草した英国の元外交官、ジョン・カー卿だ。
 
彼は七月中旬、ジョージ・ロバートソン元北大西洋条約機構(NATO)事務総長ら郷里のスコットランドの顕官、知識人と共同で公開書簡を発表し、「ブレグジットは破滅的結果をもたらす」として離脱交渉の中止を求めた。(中略)

英国民を変心させた「メイの迷走」
六月末に世論調査会社「サーベイション」が行った聞き取り調査では、五四%が「EUに残りたい」と答え、「EU離脱支持」の四六%を明確に上回った。昨年六月のブレグジット投票では、離脱賛成が五二%、反対が四八%だったから、一年で逆転してしまった。
 
七月に別の世論調査会社が行った「国民投票をもう一度やり直したいですか?」の問いには、四一%が「やり直したい」と答え、「不要」とする四八%に迫った。同じ質問には昨年十二月の調査で、「やり直したい」が三三%、「不要」が五二%だった。ここ半年余りで「離脱やめたい」派が急増した。
 
英国民の変心をもたらしたのは、テリーザ・メイ首相の迷走である。その根底には、英国の保守政治家に特有の思い込みがあった。
 
メイ首相は、ブレグジットのプロセスを「交渉」ととらえ、手持ちの札でアンゲラ・メルケル独首相ら大陸の政治家を揺さぶれば、有利な条件を取り付けた上でEU離脱ができると考えた。かつてのネビル・チェンバレン首相がアドルフ・ヒトラーを「手なずけられる」と誤解したように、保守党の政治家は交渉を過信しがちだ。
 
英ケンブリッジ大学のキャサリン・バーナード教授は、「英国のゴリ押しを少しでも認めたら、EU加盟国のあちこちで、『わが国にも特例を認めて』という声が出る。EUにとって、英国に譲歩するのは不利益だ」と喝破する。
 
メイ首相が切った札は三つ。通商相手としての英国の魅力、ロンドン金融街シティの金力、そして英国諜報機関と英軍の対テロ戦争遂行能力だ。昨夏以降、どれも順次却下されていった。(中略)
 
誰が「ごめんなさい」を言うか
メイ政権は「交渉」で何の成果も出せずに、今年六月の総選挙で惨敗。EUに何も言えなくなったばかりか、国内や党内から「そのうち辞める人」扱いを受ける。(中略)
 
保守党が迷走し、ジェレミー・コービン党首率いる労働党も、自分たちからは「国民投票やり直し」のイニシアチブをとるつもりはない。

ただし、国民の「反ブレグジット」意識がさらに高まれば、総選挙でお灸をすえられたばかりの英議会のムードが激変する可能性は残っている。(中略)

英国民はすでに、昨年六月の国民投票を後悔している。「離脱からの離脱」の旗振り役は目下、政界を離れたトニー・ブレア、ジョン・メイジャー両元首相だ。

「ごめんなさい」と言い出せる政治家がいるか、ウェストミンスター(英議会)全体が針の筵にすわらされた思いで、事態の推移を呆然と眺めている。【「選択」8月号】
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