孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スウェーデン ロシアの脅威、移民への警戒感で変わる社会 軍備増強・NATO接近、移民排斥政党台頭

2017-10-30 22:27:37 | 欧州情勢

(【10月30日 WEDGE】)

ロシアの脅威に対し、軍事力を強化、NATOと接近
“北欧”諸国の安全保障に関するスタンスは、各国で差異があります。

“北欧諸国はいろいろな歴史的事情から、安全保障・同盟政策について戦後それぞれ異なった政策をとってきました。デンマーク、ノルウェーはNATOに加盟、スウェーデンは中立、フィンランドはいわゆるFinlandizationでソ連、ロシアに配慮する政策をとってきました。”【10月30日 WEDGE】

北欧諸国にとって最大の脅威はロシアの存在ですが、ロシア・プーチン大統領の威圧的な姿勢もあって、近年この地域の緊張が高まっています。

そうした状況にあって、NATO非加盟で中立的な姿勢を維持してきたスウェーデンも軍備強化・NATOへの接近を強めています。

来年1月からは徴兵制を復活させ、男女平等の国らしく、女性もその対象となっています。

****スウェーデン、徴兵制復活へ ロシアに対抗、女性も対象****
スウェーデンのフルトクビスト国防相は2日、7年前に廃止した同国の徴兵制を2018年1月から復活させる方針を明らかにした。兵士に志願する若者が減るなか、近隣の軍事大国であるロシアの武力外交をにらみ軍事力を強化する。
 
国防相の報道官によると、従来から18歳以上の国民に提出が義務づけられてきたウェブ調査票の回答に基づき、1999年以降に生まれた18歳の男女の国民約10万人からまず1万3千人を選び、適性検査を経て当面は年4千人に9~11カ月間の兵役を課す。女性の徴兵は初めてとなる。志願制度時代と異なり、徴兵を拒むと罰則がある。4千人の中には18歳以上の志願兵も含まれるという。
 
同国の徴兵制は1901年から100年以上続いたが、2010年7月に廃止された。しかし、好景気を背景に賃金の低い兵士に志願する若者が減り、年4千人の要員のうち約2500人しか集められていなかった。
 
フルトクビスト氏はAFP通信とのインタビューで、14年のロシアのクリミア併合を挙げ、「彼らは我々のすぐ近くで、より多くの演習を行っている」と危機感をあらわにした。
 
ロシアのクリミア併合を受けて、北大西洋条約機構(NATO)に加盟するバルト諸国では軍事活動が活発化。さらに、NATO非加盟のスウェーデンも米国との軍事協力を強化していた。【3月3日 朝日】
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軍事費も増額し、ロシアの飛び地カリーニングラードに向き合う島に常駐軍を再配備しています。

****スウェーデン、軍備強化へ転換 19世紀から軍事非同盟****
軍事非同盟を貫いて19世紀から他国と戦火を交えずにきたスウェーデンが、ロシアの脅威の高まりを受けて、軍備強化へと方針を一変させた。

島部に常駐軍を再配置し、7年前に廃止した徴兵制を復活させる。北大西洋条約機構(NATO)の加盟申請も現実味を帯び始めた。
 
バルト海に浮かぶスウェーデン領ゴットランド島。夏ともなると大勢の観光客が訪れるリゾート地だ。
 
だが、人口6万人足らずののどかな島は、国土防衛の要衝でもある。
5月中旬、紺碧(こんぺき)のバルト海を見下ろす島西部の高台で、陸軍防空部隊所属の兵士が地対空ミサイルの模擬弾を可動式発射台に載せる演習を行っていた。
 
島の南東約300キロのバルト海対岸には、ロシアの飛び地カリーニングラードがある。近年、ここに核搭載可能な短距離弾道ミサイル「イスカンデル」などが配備されたとされる。
 
ロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合などを受けて、スウェーデン政府は2015年、16~20年の5年間の軍事費をそれまでの5年間に比べて170億クローナ(約2310億円)増やし、総額2240億クローナ(約3兆480億円)とする方針を発表した。ゴットランド島への常駐軍の再配置は目玉施策の一つだ。
 
島は100年以上前から軍の演習地として使われ、冷戦期は数百人規模が駐屯した。だが04年に駐屯部隊は引き揚げた。7月の正規軍の配置を前に、国内各地の中隊が昨年9月から回り持ちで島周辺の防衛を担った。新たに約8億クローナ(約110億円)かけて基地を再建する。
 
同島で軍を統括するマティアス・アーディン陸軍大佐は「バルト地域は戦争突入のリスクは低いが、不安定になっている。軍の再配備でバルト海沿岸の空と海を統制できる」と述べた。

影響は島民にも広がる。政府は今年に入り、島内に約350カ所ある冷戦期の民間シェルターの点検を指示した。
 
シェルターは集合住宅や学校など島の至る所にあり、目印に30センチ四方のパネルが掲げられている。80年代に建てられた教会の地下シェルターを見せてもらった。体重をかけてハンドルを回すと、厚さ10センチ以上の扉がきしみながら動いた。広さは50平方メートルほど。フィルターを備えた換気ダクトがあり、ミサイル攻撃などの際に人々が逃げ込めるようになっているという。
 
信者の女性(71)は、「私たちは西側、ロシアは『あちら側』。ロシアは危険だと島育ちの私たちは子どもの頃から十分認識し、備えてきたのです」と話した。【8月7日 朝日】
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9月には。周辺国、アメリカ、フランスの兵士も参加した、この20年間で最大規模となる軍事演習を実施しています。

****スウェーデン、過去最大規模の軍事演習を実施へ****
スウェーデン軍が発表した情報によると、スウェーデンは今月(9月)11日から29日にかけて、この20年間で最大規模となる軍事演習「オーロラ2017」を実施する。ロシア・スプートニクが11日に伝えた。

スウェーデン政府によると、今回の軍事演習はこの数十年間で最大規模となり、スウェーデンにとって唯一無二の演習となる。演習は陸海空で展開。

スウェーデン軍は「オーロラ2017はスウェーデン軍にとって前例のないものであり、この20数年間で最大規模の演習だ」と発表した。

演習は主にストックホルムと周辺地域、ゴットランド島、ヨーテボリで行われる。スウェーデンの約40の非軍事機構、1万9500人の兵士が参加。

スウェーデン軍のほか、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、エストニア、リトアニア、米国、フランスなどの兵士1500人が参加する。(中略)

スウェーデンメディアは、同演習は非常に必要だと何度も報じている。近年の国際情勢の急激な変化を受け、スウェーデン議会は国防強化の決議を採択している。【9月12日 中国網日本語版】
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ロシアとNATOが互いに高めあう緊張状態
冒頭にも書いたように、スウェーデンは中立・NATO非加盟ですが、上記のようなロシアを意識した軍備増強の流れで、NATO加盟の選択肢も俎上に上がってきています。

****中立かNATO加盟か、スウェーデンの安保政策****
エコノミスト誌が、「おかしな中立:スウェーデンはNATOに参加すべきか」との解説記事を9月21日付けで掲載、スウェーデンが中立政策を変え、NATO加盟を考える可能性がある、と論じています。同記事の概要は次の通りです。
 
9月末までのスウェーデンの「オーロラ・17演習」は、中立国スウェーデンがここ23年で実施する最大の演習である。スウェーデン軍1万9千名(全体の約半分)のほかに、フィンランド、デンマーク、エストニア、ラトビア、リトアニア、フランス、ノルウェー、アメリカの1500名以上の兵士も参加する。

フィンランド以外、皆NATO加盟国である。演習の焦点はバルト海のゴトランド島(ロシアの飛び地カリーニングラードから350キロに位置する)の防衛であるが、スウェーデンが安全でないと感じていることの反映である。

プーチンはクリミアを飲み込み、ウクライナを攻撃し、バルト諸国とスカンディナビアで力を誇示している。最近のロシアの大規模演習Zapad-17に、ロシアは「西側の連合」を撃退する訓練のため、白ロシアとバルト方面に10万の兵士を送り込んだ。NATOの演習とは異なり、外国の観察者は排除された。
 
これ以外にも多くの不安要因がある。2013年3月、ロシアはTu-22M3爆撃機をSu-27戦闘機4機にエスコートさせ、ゴトランド島から40kmまで接近させた。

NATOの分析官はスウェーデンへの核攻撃の練習をしたと信じている。スウェーデンはデンマークのF-16(NATOのバルト海空中監視の一部)に対応を依存せざるを得なかった。2014年にはロシアは潜水艦をストックホルム列島に侵入させた。軍事演習も頻繁である。
 
多くのスウェーデン人が200年の中立をやめ、NATOに加盟すべしと考えるのは不思議ではない。そうすれば、スウェーデンへの攻撃は米国やNATO加盟国への攻撃となる。

スウェーデンの民主党(超国家主義のポピュリスト政党で親プーチン)を除く全野党は、NATO加盟に賛成である。
今年の始めに行われた世論調査では、47%が加盟に賛成、39%が反対であった。

しかし現在の社会民主党と緑の党の連立政権は、NATO加盟はせずにNATOに出来るだけ近づくとの方針である。

ハルトキヴィスト国防相はスウェーデンの自衛力強化を目指している。軍事予算は次の3年、毎年5%増える予定であり、徴兵制も来年導入される。

そのほかに、非NATOのフィンランド、米国、NATO加盟のバルト諸国との防衛協力を進めようとしている。「オーロラ・17」はそれを示すものであった。

今のところ政府はNATO加盟を排除している。スウェーデンの左派には反米主義がまだある。ヴァルストローム外相は、スウェーデンのNATO加盟がプーチンを挑発することを恐れている。それにフィンランドはスウェーデンと一緒にNATO加盟はしないだろう。
 
NATOがスウェーデンの加盟を歓迎する理由はある。バルト3国の防衛はスウェーデンの領土、空域へのアクセスが保証されていないと困難になる。
 
今のところスウェーデンのNATO問題ははっきりしないが、来年の総選挙では大きな争点になる。もしスウェーデンがNATO加盟を決断すれば、プーチンは彼自身を責めるしかない。(後略)【10月30日 WEDGE】
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スウェーデンがNATOに接近し、NATO加盟国との大規模軍事演習を行ったりすることを、ロシア・プーチン大統領は“NATOの拡大主義・ロシアへの圧力”と捉えて反発するのでしょうが、スウェーデンなど欧州側は、そうしたロシアの反発を“ロシアの脅威拡大”と捉えて更に対ロシア戦略を強める・・・・と互いに相手を刺激しながら軍事的緊張が高まる構図にあります。

“ロシアがスウェーデンのNATO加盟を止めさせるためには。スウェーデンのロシアへの不安を解消するのが最も効果的なはずですが、プーチンはそういう発想にはなかなか至らないように思われます”【同上】

プーチン大統領の言動の根底には、NATO拡大への不信感・不安感があることは、これまでも再三取り上げてきたところです。

移民排斥の高まり、寛容な社会に変化も
スウェーデンの内政面では、他の欧州諸国同様に、移民への警戒感が強まる傾向があります。

4月7日には、首都ストックホルム中心部のショッピング街で、トラックが暴走してデパートの入り口に突っ込み、4人が死亡、15人がけがをするテロが起きました。この事件では、ウズベキスタン出身男性が逮捕されています。

国内でイスラム過激派が急増しているとの報告も。

****スウェーデン国内のイスラム過激派が急増、情報機関長官****
スウェーデンの情報機関SAPOは16日、同国内の暴力的なイスラム過激派が2010年の200人から「数千人規模」に急増していると明らかにした。

ただし、テロ攻撃の遂行が可能とみられるのは、そのうちの一握りだという。
 
SAPOのアンデシュ・トーンベルグ長官はスウェーデン通信に対し、この状況は「深刻だ」と語った。
 
同長官によれば、SAPOには現在、テロや過激派に関する情報提供が月に約6000件あるという。2012年は月平均2000件だった。しかし「数千人規模」の過激派のうち襲撃を起こす意図と能力があるのはほんのわずかだと長官は強調した。【6月18日 AFP】
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こうした事件を背景に、移民排斥を主張する政治勢力が台頭しています。
政権与党の移民規制強化で一旦は低下した支持率が、テロ事件などを背景に再び上昇しているようです。

****<スウェーデン暴走>移民に寛容な社会に影 テロ1週間****
スウェーデンの首都ストックホルム中心部で起きた暴走トラックによるテロから14日で1週間となる。事件後、移民排斥を叫ぶ政党が支持率を伸ばし、移民に寛容な社会に大きな影を落としている。
 
世論調査会社「Sentio」によると、事件後の調査で、移民排斥を掲げるスウェーデン民主党の支持率は先月より1.2ポイント高い27.2%と過去最高を更新した。一方、与党で中道左派の社会民主党は1.3ポイント下げ23.3%となった。
 
スウェーデン民主党はシリアなどの紛争地からの難民が急増した2015年の夏以降、急速に支持を伸ばしている。国会(定数349)では社会民主党が113議席、スウェーデン民主党は47議席。来年9月の総選挙では議席の大幅増が見込まれる。
 
移民や難民受け入れに寛容だったロベーン政権は、昨年7月、難民流入を抑制するため審査を厳格化。難民申請件数は15年の16万2877件から、16年は2万8939件に減少。15年の申請のうち約8万件を却下しているが、支持率下落に歯止めはかからない。
 
ロベーン首相はストックホルムで10日に行われた追悼式で「我々の結束は、社会を引き裂こうとする力に勝る。民主主義は原理主義に打ち勝つ」と述べ、スウェーデン民主党を暗に批判。

一方、スウェーデン民主党のオーケソン代表は「テロが起きたことに対する政治的責任を求める」と、テロと寛容な移民政策を関連づけて政権を非難した。【4月13日 毎日】
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スウェーデン民主党は2010年の総選挙で初めて国政議席を獲得し、2014年は13%近い票を集めて第3政党へと躍進しましたが、来年総選挙では更に・・・といった情勢です。

男女平等社会は変わらず
中立の安全保障政策も、寛容な社会も、情勢変化に応じて変化の様相も見せていますが、男女平等の社会は以前と変わりないようです。

****仕事か育児」迷う女性ゼロ=平等支える「イクメン」―スウェーデン****
スウェーデンは1970年代から男女の雇用機会の平等実現に取り組んでいる。9月末に来日したヨハンソン雇用・社会統合相は「仕事か育児かを迷うスウェーデン人女性は一人もいない」と述べた。

日本では女性が職場で十分に能力を発揮できる環境づくりを目的とした女性活躍推進法の施行から1年半が経過した。厚生労働省によると、いまだに妊娠や出産などの理由で女性の半数が離職している。
 
スウェーデンは、世界経済フォーラム(WEF)による男女平等度ランキングで第4位。日本は111位だ。男女平等を支えるのは積極的に育児に参加するスウェーデンの父親たちだ。
 
両親合わせて480日間の出産・育児休暇が与えられるスウェーデンでは、両親間でこの休暇を時間単位で融通できる。ただ、このうち90日間は父親のみに認められている。この結果、男性の育児休業取得率は9割を超える。3%台にとどまっている日本とは対照的だ。
 
さらに、小学校から大学までの学費と19歳未満の医療費は原則無料だ。スウェーデンも一時は日本と同様、少子化に悩まされていた。しかし、20年近い歳月をかけて徐々に回復。2014年の合計特殊出生率は1.88と、日本の目標値1.8をすでに突破している。
 
消費税は25%と日本に比べて高いが、ヨハンソン氏は「全国民が手厚い社会保障制度の恩恵を受けており、不満は少ない」と強調した。(後略)【10月14日 時事】
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ちなみに、隣国ノルウェーでは、20日に発表された内閣改造で首相、財務相、外相の政権トップ3がすべて女性になったとか。【10月21日 AFPより】

考えてみれば、日本を含めてトップ3がすべて男性の国が多いことの方が、“異常”なのでしょう。

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