孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

バチカン  中国との関係改善で近日中に“歴史的合意”か? 「寝返った」との批判も

2018-02-07 21:40:13 | 中国

(中国山西省臨汾市で当局に取り壊された金灯台教会の建物。米人権団体チャイナエイド・アソシエーションの動画より(撮影日不明)【1月14日 AFP】)

宗教の国家統制を図る中国当局とバチカンの対立 双方に関係改善のメリットも
中国におけるキリスト教徒及びカトリック信者の人数については定かでない部分がありますが、以下のようにも推察されています。

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2011年の米調査会社ピュー・リサーチ・センターの推計では、中国のカトリック信者は約900万人。政府公認のカトリック組織に570万人が所属するほか、300万人以上が非公認の地下教会で信仰を守っているとされる。キリスト教徒全体では約6700万人で、8割以上をプロテスタント信者が占める。【2月5日 産経】
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カトリックについては、国際的には当然ながらバチカンのローマ法王が精神的にも、制度的にも、その頂点に位置しています。

しかし、中国はローマ法王の司教任命権を認めず、中国当局のコントロール下にある独自の司教を任命しています。
それが、上記記事にある“政府公認のカトリック組織”「天主教愛国会」であり、中国当局公認司教によらない教区が“非公認の地下教会”となります。

バチカンと中国は、関係改善のメリットは強く意識しています。

バチカンにとっては、中国のカトリック信者がバチカン主導の枠組みの外に置かれた状況は当然解消したいところですが、それ以外にも、“地下教会”というような、信徒の不安定な環境の改善を図りたい思いもあります。

また、法王が重視する紛争や貧困、環境などの国際的な課題の解消には中国の関与が必要となる面が多々あります。

一方、中国にとっては、西欧精神世界のトップであり、国際政治のいろんな場面で大きな影響力を有するバチカン・ローマ法王との関係を正常化することで、世界における「大国」としての立場をより確実なものに発展させることが可能になります。

また、バチカンは台湾にとって外交関係を有する残されたわずかな国のひとつ、と言うより、国際的に力を有する唯一の国であり、これを奪い取ることは台湾を強く揺さぶることになります。

ただ、中国・共産党政権は、社会的な不満が宗教に結びついて政権にとって大きな力を持つようになる事態を大きな脅威として恐れており、非公認教会への圧力が強まっています。

****中国当局、キリスト教会取り壊す 「違法建築」理由に****
中国北部の山西省臨汾市で9日、キリスト教会「金灯台教会」の大きな建物が当局によって取り壊された。
 
金灯台教会の建物は外壁が灰色で、小塔と大きな赤い十字架が付いていた。(中略)

この当局者は「地元のキリスト教団体に信徒が自身の農地を提供し、団体は倉庫建築を装ってひそかに教会を建てた」と話し、地元当局の住宅部局は2009年に建築を差し止めたが、それまでに建物はほぼ完成していたと説明した。その後、このキリスト教団体の複数の関係者が有罪判決を受けたという。
 
中国の信教の自由ために活動している米人権団体チャイナエイド・アソシエーションのボブ・フー会長は13日AFPに対し、「取り壊し作業には武装警察が動員され、教会の建物の下に埋める形で大量の爆発物を仕掛けた」と述べ、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンやイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が穏健派の教会を迫害するようなやり方だと指摘した。

また、この教会の信徒は約5万人だったと付け加え、建物が取り壊された主な理由は教会が共産党当局への登録を拒否したためだと語った。
 
AFPは臨汾の警察と市当局にも電話取材を試みたが、誰も電話に出なかった。
 
無神論の立場を取る中国共産党は、宗教を含め党の統制の範囲外にある組織的活動を非常に警戒している。中国の憲法は信教の自由を認めているが当局は宗教団体や教会を厳しく統制し、宗教を通じて外国が影響力を行使しないよう国家の統制下にある「愛国的な」団体への忠誠を誓わせている。【1月14日 AFP】
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中国としては、バチカンとの関係改善で、法王の権威も利用する形でこうした非公認地下教会全体へのコントロールが可能になるなら、大きなメリットとなるでしょう。そのためには司教任命権は譲れないところです。

もちろん、人権問題とも結びつきやすいきわめて敏感な部分で、ローマ法王という国外の巨大な力が介入してくる可能性への強い警戒もあります。

たびたび浮上する関係改善の動き、しかし・・・
現在のフランシスコ法王は中国との関係改善を重視しており、これまでも時折、関係改善の動きが報じられれてきました。

2016年10月にも、“バチカンと中国が近く和解か 司教任命権で外交断絶 法王が歩み寄り”【10月26日 産経】、“司教任命権問題で合意か=バチカンと中国―米紙”【2016年11月1日 時事】といった報道がありました。

しかし、司教任命権をめぐる調整がうまくいかず、“<バチカン外相>中国との早期国交回復 難しいとの見解示す”【2017年2月2日 毎日】と後退。

更には、2017年6月には、バチカン任命司教を中国側が拘束した・・・という事態も。

****中国、カトリックの司教を拘束か バチカン「深刻な懸念*****
ローマ法王庁(バチカン)は26日、中国・浙江省温州市の教区司教が「無理やり連れ出され」た後、拘束されているとして「深刻な懸念」を表明した。
 
行方が分からなくなっているのはピーター・シャオ・シュミン司教。バチカンのグレッグ・バーク報道官によると、フランシスコ法王は司教の状態を「深く悲しんでいる」という。

ミラノ外国宣教会(P.I.M.E.)が運営するウェブサイト「Asianews.it」によると、司教は5月18日から拘束されている。拘束されている場所は不明。
 
友人らは、中国当局が司教をバチカンの認めた地下教会から脱退させ、政府公認の中国天主教愛国会(CPCA)に加わらせようとしているのではないかと心配しているという。
 
バチカンと中国政府は長らく、中国国内での司教の任命権限をめぐって対立してきた。ただ最近は関係改善に向けて協議を続けており、今回のようにあつれきが表面化するのはまれだ。
 
天主教愛国会の司教は中国政府によって任命され、バチカンが同意する場合もある。一方、バチカンの任命は中国政府には認められていないが、一部は黙認されている。
 
中国国内には公認・地下を合わせて約1200万人のカトリック教徒がいると推定されている。【2017年6月27日 AFP】
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【「中国のエルサレム」温州の状況
上記事件の起きた浙江省温州は、中国でもとりわけキリスト教徒が多い地域で、「中国のエルサレム」とも呼ばれているとか。

****中国のエルサレム」で統制と闘うキリスト教徒***
キリスト教徒コミュニティーを多く抱え「中国のエルサレム」とも呼ばれる中国南東部浙江省の都市・温州は、子ども向けの宗教教育を巡る中国指導部と敬虔(けいけん)な信者たちの対立激化の最前線となっている。

公式には無神論の立場をとる中国共産党は、キリスト教の影響力を抑制するための取り組みを強めており、信仰教育に対する制限を強化し、キリスト教の「欧米風」な思想に警告を発している。

とはいえ、温州のキリスト教社会の決意の固さから見て、国内6000万人に上る信者の子どもたちに対して共産党が統制を及ぼそうとしても苦労するだろう、と同教徒らは語る。

温州では、今年に入って、キリスト教会の日曜学校が当局により禁止された。だが、子どもたちにイエス・キリストや聖書について学ばせようという親たちの決意は固い。

温州の各教会は、個人宅やその他の場所を使って子どもたちを教育するようになった。現地の信者らがロイターに語ったところでは、日曜学校は教育ではなく託児サービスと称するところもあれば、毎週土曜日に変更したところもあるという。(中略)

状況を直接知る情報提供者3人によれば、温州の一部地区では、8月以来、公式の命令により日曜学校が禁止されているという。

キリスト教系のニュースサイト「ワールド・ウオッチ・モニター」が9月報じたところでは、浙江・福建・江蘇・河南の各省、そして内蒙古自治区では、子どもたちがサマーキャンプなどの信仰活動に参加することが禁止されているという。

こうした政策が地方政府主導なのか、中央政府の指令によるものかも定かではない、とロイターの取材に応じた情報提供者は話す。また中国国内で他の宗教についても同様の禁止措置があるかどうかも分からないという。

9月には、宗教教育に対する国家の監督を全国規模に拡大する新たな規則が発表された。当局者によれば、党に忠実な新世代の宗教指導者を生み出す試みだという。
中国の国家宗教事務局と温州市政府広報部に対してコメントを求めるファクスを送ったが、回答は得られなかった。

<信仰の爆発的拡大>
過去40年に及ぶ経済的繁栄のなかで、中国のキリスト教徒は急速に増加した。公式データによれば信者数は現在約3000万人だが、外部の試算では約6000万人とされており、その大半がプロテスタントである。

温州では、19世紀の宣教師らが創設した小規模な信者コミュニティーが、今や100万人を超える規模に開花している。住民によれば、近年までは地元当局との関係は比較的穏やかだったという。

その後2014年になって、「違法」な教会を取り壊し、そこに飾られていた十字架を引きはがす政府キャンペーンが行われ、信者コミュニティーからの激しい抗議を引き起こし、彼らのあいだに当局への不信感の種がまかれた。

このキャンペーンは、かつて2002─2007年に浙江省の共産党トップだった習近平氏が党総書記に任命された直後に行われた。

だが、信者の急速な増加を抑えようという試みは、温州では難航している。多くは敬虔な地元企業のオーナーからの寄付で支えられている教会が至るところに存在するからだ。

温州にある教会の牧師は、「温州市政府は、数があまりにも多すぎることを理由に、教会を登録制にしていない。だから家庭教会も多く、政府がこれらを管理することは困難だ」と語る。

温州での取り締まりで特に問題になっているのが、日曜学校で用いられる教科書だと教師たちは言う。政府は宗教関係の出版物を制限しており、教会では海外の教科書を翻訳して用いることが多い。

ある教師は、未認可教科書の使用をやめ、「日曜学校」という名称を避けたところ、授業が再開されたと明かした。

<信教の自由>
中国の法律は、公式には子どもを含めたすべての人に信教の自由を認めている。だが同時に、教育と年少者の保護に関する規則では、国家による教育を妨害するため、あるいは子どもたちに信仰を「強要」するために宗教が用いられてはならないとされている。

最西端にある新疆地域など中国国内でも不安定な地域の地方政府は、子どもが宗教行事に参列することを禁じている。だがそれ以外の地域のキリスト教徒コミュニティーが全面的な制約に直面することはめったにない。

共産党は2017年、大学の学生、国有企業の従業員、そしてお膝元の政府当局者がクリスマスを祝うことに対し、国営メディアの報道によれば「西側の宗教文化による腐敗に抵抗する」といった文言を用いた、尋常ならざる厳しい警告を発した。

温州の親たちは子どもたちの教育を自身の手で管理したいと考えているが、政府は、党に忠実な新世代の宗教指導者を生み出そうとしている。

中国の国家宗教事務局を率いる王作安局長は10月にロイターに対して文書でコメントを寄せ、愛国的な宗教指導者を求める中国の「切迫したニーズ」に応えるためには、今回政府が公布し、2月に施行される予定の宗教学校に関する新たな規則が必要だと述べている。(中略)

だが、国際人権NGOフリーダム・ハウスでアナリストを務めるニューヨークのサラ・クック氏によれば、多くのキリスト教徒にとって、党が宗教教育を統制することを容認すれば、神よりも党を優先せざるを得なくなり、受け入れがたいと語る。(後略)【1月1日 ロイター】
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環球時報「バチカン、まもなく中国と歴史的協議で合意」 香港枢機卿「バチカンが寝返った」】
こうした問題をはらんだバチカン・中国の関係ですが、ここにきて再び改善方向で大きく動いていると報じられています。

そうした“バチカン側の妥協”に対し、「一国二制度」のもとで中国当局と対峙する香港教区枢機卿は“バチカンが中国に「寝返った」”と強く批判しています。

****ローマ法王、中国任命の司教承認か 関係改善に向けて譲歩 香港枢機卿が抗議表明 米欧メディア報道**** 
ローマ法王フランシスコは対中関係改善のため、中国政府が任命した司教の正統性を認める方針だと、5日までに米欧メディアが報じた。

事実とすれば、中国と対立してきた司教任命問題で大きく譲歩することになり、香港カトリック教会の前最高指導者が抗議表明する異例の事態となっている。
 
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は1日、関係者の話として、法王が中国任命の司教7人の破門を解除し、教区指導者として承認することを決めたと報じた。決定はすでに中国側に伝えられたとしている。

ロイター通信によると、バチカンと中国は数カ月内に司教任命をめぐる枠組み合意を結ぶ予定。中国の任命ではバチカンが一定の発言権を持つことになったという。バチカンはコメントしていない。
 
香港カトリック教区名誉司教の陳日君・枢機卿は1月末、法王あての書簡を発表。「中国のカトリック教会を売り渡そうというのか。習近平政権による宗教対策の強化は明らか。私は悪い合意を喜んで妨害する」として、対中譲歩を強く批判した。

香港の中国返還後も、香港教区は「一国二制度」により中国公認の司教会に入らず、法王庁の管轄下にある。
 
バチカンと中国は1951年に国交を断絶。司教の任命権は法王にあるとするバチカンの主張に対し、中国は「内政干渉」と反発してきた。

中国が法王の反対を押し切って独自に司教を任命すると、バチカンは破門宣告で対抗した。司教任命問題は、国交樹立の最大の関門となっている。
 
法王フランシスコは即位後、対中関係の改善に意欲を示し、双方の作業グループを設置して対話を進めてきた。昨年には、スペイン紙とのインタビューで中国訪問の可能性について「彼ら(中国)が招待状を出せば、すぐに分かる」と述べ、前向きな姿勢を見せた。

カトリック系メディアによると、バチカン代表団は昨年12月に訪中し、法王が任命した司教2人に対し、中国が受け入れ可能な司教と交代するよう求めたという。(後略)【2月5日 産経】
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詳しいい合意内容はわかりませんが、最後の“法王が任命した司教2人に対し、中国が受け入れ可能な司教と交代するよう求めた”という件については、“中国が受け入れ可能な司教”の1名は、2011年にバチカンが破門した人物だそうで【2月13日号 Newsweek日本語版より】、相当にバチカン側が譲った感もあります。

これまでの経緯から、このまますんなりと進まないこともあり得ますが、“2018年2月3日、環球時報は記事「バチカン、まもなく中国と歴史的協議で合意」を掲載した。”【2月5日 Record china】と、中国政府に近い環球時報も報じていますので、かなり確度は高そうです。

****バチカンと北京の接近で深まる台湾の憂鬱****
中国との「外交休戦」が崩れた台湾 欧州の唯一のパートナーを失うリスクは

また1つ外交パートナーを失うかもしれない・・・・そんな不安が台湾に広がっている。原因は、ヨーロッパで唯一、台湾と国交のあるローマ法王庁(バチカン)と中国との関係だ。(中略)

台湾外交部は、バチカンと中国の関係はかなり複雑で、今すぐ大きな変化が起きる可能性は低いとみている。これは希望的観測かもしれないが、確かに両者の関係が大きく前進するという話は数年前からたびたび浮上するが、具体的な出来事はない。
 
米カトリック系ウェブサイト、グラックスのジョンーアレン編集長は、中国とバチカンの関係は雪解けと冷え込みを繰り返してきたと指摘する。
 
「バチカンは心から関係を前進させたいと願っている。一方で、中国の指導者の問では長年にわたり、西洋随一の精神的象徴との関係を歓迎する穏健派と、外国の影響を恐れるイデオロギー的な強硬派が対立している」
 
外国の影響への警戒と、台湾から同盟国を奪い取る利益。中国はどちらを優先するのか。【2月13日号 Newsweek日本語版】
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実現すれば、中国は「大国」としての資格・権威をまた一つ手に入れることにもなります。
ただ、国内人権問題に関して、中国とバチカンの間でもめる局面もあるでしょう。(もめないようなら、バチカンの宗教者としての信念が疑われます。)




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