孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドイツ  東西統一から20年 克服しつつある「心の壁」 しかし、新たな「壁」も

2010-10-04 21:03:27 | 世相

(ベルリンのトルコ系住民の市場 “flickr”より By bejnar
http://www.flickr.com/photos/bej/1541598113/ )

【「花咲き誇る風景」は?】
第1次世界大戦と言うと個人的には完全に歴史の教科書の中の話題ですが、ドイツにとっては必ずしもそうではなかったようで、第2次世界大戦へ導くことにもなった巨額の賠償金支払いがようやく完済したとか。

****ドイツ:第一次大戦の賠償金を完済 92年かけ****
ドイツ財務当局は3日、第一次大戦(1914~18年)の敗戦を受けたベルサイユ条約(1919年)で負った賠償金を大戦終結から92年ぶりに完済した。ドイツの東西分断時代、国際協定で賠償金の返済が猶予されていたため、支払いが長期に及んでいた。
今回、返済されたのは、東西統一から20年にあたる3日に支払期限を迎えた総額7500万ユーロ(約86億円)分。賠償金の公債を保有する債権者にこの残債分が送金された。ドイツが第一次大戦の敗戦で多額の賠償金を負ったことは、ナチスが台頭する理由にもなった。ドイツは第二次大戦の敗戦でも賠償金を負ったが、1988年に完済している。【10月4日 毎日】
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“賠償金の公債を保有する債権者”とは?対フランスなど国家間の支払いではないのでしょうか?よくわかりません。

もう少し現代に近い話としては、東西ドイツ統一20年の話題があります。
こちらは、個人的にはついこの前の出来事のような気もするのですが、すでに20年ということで、次第に“歴史”の中にはいりつつあります。
ただ、多くの記事が取り上げているように、東西間の格差については、現在進行形の問題でもあります。

****ドイツ:東西統一から20年 格差改善も不満くすぶる*****
東西ドイツ統一(90年)から3日で20年になる。旧東独の産業解体などに一部不満は残るものの、旧東西地域の生活水準の格差改善など社会統合は大きく進んだ。デメジエール内相は先月22日、記者会見で「20年は大成功の歴史だった」と総括した。
連邦統計局が発表したドイツ統一20年のまとめによると、91年に対旧西独比でわずか46.5%だった旧東独地域の所得は09年に76.5%に改善した。連邦政府は旧東独の格差改善に90年から財政支出を続け、19年まで総額3432億ユーロ(約39兆円)を払い続ける方針。

デメジエール氏によると、旧東独地域の交通、健康保険、教育、住宅などインフラ整備が大きく改善した。だが、経済力格差や失業率の東西格差は十分には克服できていない。さらに90年代、東から西に人口流出が起き、旧東独全体ではなお人口減が続く見通しだ。
8月下旬、旧東独ブランデンブルク州のプラツェック首相は「統合過程に失敗があった」と週刊誌のインタビューで発言し、統一20年の祝祭ムードに水を差した。プラツェック氏は9月27日、毎日新聞などと会見し「東西統合は旧東独の既存産業や社会制度を生かしたものでなかった」と真意を明かした。
プラツェック氏によると、旧東独には先進的な集約的外来医療機関があったほか、3歳未満を対象にした公的託児施設も存在した。これらは東西統一で全廃されたが、最近は再導入が進む。統一前に競争力のあった旧東独の工場地帯も競争相手の西独企業に買収され、多くはつぶされた。プラツェック氏は「維持する方法があったはず」と旧東独の「産業解体」を疑問視する。

ただし、こうした批判はあるものの、ここ数年の好景気もあって東西統合の成果はおおむね前向きに評価されている。政府は3日、北部ブレーメンや首都ベルリンで祝典を開催する。ウルフ大統領やメルケル首相が出席を予定している。【10月1日 毎日】
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記事にもある旧東のプラツェック・ブランデンブルク州首相は「西側の『東を併合したという態度』が社会のゆがみを生んだ」と旧東の不満を代弁しています。
統一当時、コール首相は「東独地域も花咲き誇る風景になる」とバラ色の将来像を語っていますが、“91年に対旧西独比でわずか46.5%だった旧東独地域の所得は09年に76.5%に改善した”現況(旧東の失業率は12%と旧西の倍近くあります)を、「大成功の歴史だった」と考えるか、「統合過程に失敗があった」と考えるかは、立場の違いにもよります。

【「いまだ東西の違いを言い続けることに意味はない」】
ドイツ世論・国民は概ね肯定的にとらえているそうです。
****ドイツ統一20年、世論は評価 消えゆく「心の壁」****
・・・・約40年の分断後に統一されたドイツ。共産主義体制下で発展が大きく遅れた旧東地域の復興のため膨大な費用がつぎ込まれた。旧西の人は「旧東のせいで自分たちの負担が重くなった」と感じ、大量失業に苦しんだ旧東の人は、旧西のそうした態度に「高慢」と不満を抱いた。
統一後に生じた東西の人々の「心の壁」はベルリンの壁のようには崩れず、コール元首相の「花咲き誇る風景」発言も統一の困難さを過小評価していた象徴ととらえられるようになった。
統一20年を前に旧東のプラツェック・ブランデンブルク州首相は「西側の『東を併合したという態度』が社会のゆがみを生んだ」と不満を代弁し、議論を呼んだ。

しかし、相次いで公表された世論調査は統一ドイツを評価する国民が予想以上に多いことを示し、関係者を驚かせた。アレンスバッハ世論調査研究所によると、「『花咲き誇る風景』は旧東に存在するか」という質問に旧東で39%、旧西で40%が「存在する」と答え、ともに「存在しない」を上回った。また、64%が「いまだ東西の違いを言い続けることに意味はない」と答えた。旧東で人気のあるズーパー・イリュ誌の調査でも、旧東の75%が「統一ドイツに暮らすことができてうれしい」と答え、「旧東独のほうが良い国だった」と答えた13%を大きく上回った。
最近のドイツはユーロ危機への対処やイスラム系移民の社会への統合、原発延命などの課題が山積。東西格差は残るものの、社会保障や移民といった問題のほうが多くの国民にとって現実の課題と感じられていると見られる。
統一時の外相ハンス・ディートリヒ・ゲンシャー氏は「東の40年の重荷を乗り越えるのに時間はかかるが、かなりの部分は成し遂げられた。『心の壁』を過大評価すべきではない」と話した。【10月4日 朝日】
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【ドイツの新しい連帯】
“統合”という点では、東西の統合以上に、イスラム系移民の社会への統合が焦眉の課題となりつつあり、ウルフ大統領の東西ドイツ統一20周年記念式典演説もこの問題を指摘しています。

****独大統領、「イスラムもドイツの一部」 統一20周年式典で****
ドイツのクリスチャン・ウルフ大統領は3日、北部ブレーメンで行われた東西ドイツ統一20周年の記念式典で演説し、イスラム系住民のドイツ社会への融合を目指す努力を訴えた。7月の就任以来、ウルフ大統領が主要演説を行うのは初めて。

ウルフ大統領は演説で、統一ドイツが現在、抱える約400万人のイスラム人口問題にふれ、「統一から20年を経た今、われわれは目覚しく変遷する世界のなかで、ドイツの新しい連帯の形を見出すという大きな課題に直面している」と呼びかけた。
また、ドイツは歴史的にキリスト教とユダヤ教の融合社会であるとしたうえで、現在はイスラム教もドイツの一部だとの認識を示した。
さらに、ウルフ大統領は、ドイツ国民にイスラム系の人びとに対する寛容さを求めると同時に、イスラム系移民に対してもドイツ社会に真に溶け込む努力が必要だと語った。

約8200万の全人口のうち400万のイスラム系人口を抱えるドイツでは、ここ数か月、イスラム系住民のドイツ社会への融合問題がメディアをにぎわせている。
前月にはドイツ連邦銀行(中央銀行)の理事だったティロ・ザラツィン氏が、「教育レベルも低く勤労意欲に欠けるイスラム系移民のせいで、ドイツは劣化している」と発言し、理事職を解任されている。【10月4日 AFP】
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同じドイツ民族間の「心の壁」を消していくのも困難な課題ですから、まして、異民族・異文化のイスラムとの共存・統合ははるかに困難な課題です。しかし、避けて通れない問題です。


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