孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

混乱が拡大する欧州難民問題

2015-08-30 23:24:16 | 難民・移民

(ハンガリーがセルビア国境に設置した有刺鉄線をくぐり抜ける女性 【8月30日 AFP】)

海でも陸でも増え続ける犠牲者
欧州を目指して押し寄せる中東・アフリカなどからの難民・不法移民、海でも陸でも増え続ける犠牲者、対応に苦慮する各国政府の話題が連日報じられています。

****<リビア沖地中海>密航船沈没 200人死亡の恐れ****
リビア西部ズワラ沖の地中海で27日、同国からイタリアを目指していたとみられる密航船が沈没した。

ロイター通信によると、リビアの沿岸警備当局が救助作業に当たっているが、密航者最大200人が死亡した恐れがあるという。

地中海では近年、中東やアフリカから欧州へ向かう密航が活発化しているが、仲介業者が利益を確保するために定員以上の密航者を乗せる例が多く、沈没事故が後を絶たない。

ロイターなどによると、沈没した密航船には、サハラ砂漠以南のアフリカ各国やシリア、パキスタン、モロッコなどの出身者ら約400人が乗っていたとみられる。

リビア当局は約200人を救助したが、ズワラの病院には既に100人の遺体が搬送された。【8月28日 毎日】
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****トラックから71遺体、シリア人か ハンガリーで4人拘束****
オーストリアの高速道路に乗り捨てられていたハンガリーのナンバープレートが付いたトラックの貨物室から移民の遺体が多数見つかった事件で、ハンガリーの警察当局は28日、4人の身柄を拘束したと発表した。
オーストリア警察当局によれば、収容された遺体は71体に上り、シリア人とみられるという。

ハンガリー当局は、拘束されたうちの3人はブルガリア人、1人はアフガニスタン人だとしている。

一方、オーストリア警察当局のハンス・ペーター・ドスコジル氏は、トラックの所有者と運転手2人を拘束したと発表。「ブルガリア人とハンガリー人で構成された人身売買組織の一員」とみられると述べた。

■シリア難民か、幼児も
ドスコジル氏は記者会見で、収容された遺体について「71人のうち男性が59人、女性が8人、子どもが1~2歳とみられる女児と8~10歳とみられる男児3人の計4人だった」と語った。

同氏によると「シリアの渡航文書が発見されたことから、遺体はシリア難民の可能性が高いとみている。アフリカ人ではなかった」という。死亡した時間や死因は現在調査中だが、窒息した可能性があるという。【8月28日 AFP】
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「地中海ルート」より安全とみられている「バルカンルート」ですが、“難民受け入れ態勢の整わないハンガリーなどで警察に拘束されるのを恐れ、闇業者に頼ることが少なくない”【8月29日 朝日】とも。

【「第2次大戦後最大の難民危機に直面している」バルカンルート各国
最近の傾向としては、危険度が高い地中海ルート(政情が混乱しているリビアなどからイタリアなどを目指す)より、バルカンルート(トルコから対岸のギリシャ領の島に渡り、ギリシャ本土からバルカン半島を北上する)が増加しています。バルカンルートにしても危険なことは上記記事のとおりですが。

****<難民移民>地中海渡り欧州入り・・・・今年早くも30万人超*****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報道官は28日、中東やアフリカなどから地中海を渡って欧州入りした難民・移民の数が今年1月からこれまでに30万人を超えたと発表した。昨年1年間の約21万9000人を既に大きく上回っている。

シリア、イラク、アフガニスタンなどを脱出した難民・移民のうち約20万人がギリシャに上陸し、約11万人がイタリアに到着した。

シリア近隣国が難民の受け入れを制限し始めていることから、遭難の危険を冒してでも欧州に向かう人が増えているという。

今年は既に推定約2500人が地中海を渡る途中に海難事故などで死亡・行方不明になっている。昨年は約3500人だった。(後略)【8月29日 毎日】
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最大の玄関口となっているギリシャで難民申請する人は少なく、多くの場合、臨時の短期滞在許可を与えられ、船でギリシャ本土に渡り、ドイツや北欧などの目的地へ向かいます。

こうした急増するバルカンルート難民への対応で、各国からは悲鳴のようなものもあがっています。

****財政難のギリシャに難民や移民流入続く****
・・・・トルコに近いコス島では、内戦が続くシリアからの難民を中心に島の人口の20%以上に当たるおよそ7000人の難民らが海岸にテントを張るなどして島にとどまっています。

このため「難民の島」というイメージから、この夏、島を訪れる観光客が減り、ホテルで宿泊客のキャンセルが相次いだり飲食店でも利用客が例年より大きく落ち込んだりと深刻な影響が出ています。

ギリシャ政府は、専用の船を出して、難民たちを首都アテネ郊外の港に順次、移送していますが、財政難から使える船は1隻だけで、難民が流入するペースに追いついていないのが現状です。(後略)【8月28日 NHK】
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・・・・マケドニアでは20日、南隣ギリシャからの越境増加を受け、非常事態を宣言して国境封鎖を図った。だが、警官隊と移民らが衝突するなどして越境は止められず、移民らをセルビア付近に向かわせる方針に転じた。

その結果、セルビアには先週末だけで約1万人が入国し、移民らはさらに北へと移動。国境沿いにフェンスを建設中のハンガリーは24〜25日、それぞれ2千人超の移民らを拘束したものの、多くが監視などをかいくぐり入国したもようだ。

国連難民高等弁務官事務所は、ギリシャからマケドニアに流入する移民らは1日最大3千人の規模で続くと予測。ハンガリーは国境地帯の警官増員やフェンスの損壊を犯罪とする法整備を検討し、ブルガリアもマケドニアとの国境地帯に軍を派遣する方針を示した。(後略)【8月26日 産経】
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【「シリアで私たちが経験したことに比べたら、大したことじゃありません」】
ハンガリーは越境を防ぐために高さ4メートルのフェンスを国境沿いに建設する作業を行っていますが、第1段階として有刺鉄線を設置する作業を完了しました。

しかし、“毎日のように、爆弾、暗殺、流血、死に直面していた”人々を止める効果は上がっていません。

****シリアでは死に直面・・・有刺鉄線など怖くない」 ハンガリーに入る難民たち****
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は、大量の難民が国内に流入するのを防ぐ唯一の解決策はセルビアとの国境沿いに設置した有刺鉄線のフェンスだと豪語している。

しかし、AFPの取材で明らかになったのは、祖国の内戦や、地中海 を渡る危険な航海、数百キロの徒歩移動で無感覚になった人々を追い返したいなら、オルバン首相は、もっと厳しく当たる必要があるだろうということだった。

「私たちは、ハンガリー警察もフェンスも恐れていません」と、セルビア側からフェンスをよじ登り、安全な欧州連合(EU)圏内に向かっていたシリア人女性のナスリーンさん(29)はAFPに語った。

「シリアで私たちが経験したことに比べたら、大したことじゃありません」とナスリーンさんは言う。「シリアは破壊され、私たちは毎日のように、爆弾、暗殺、流血、死に直面していたのですから」

ハンガリー当局が手続きした移民の入国者は、26日だけで3000人という過去最多を記録し、そのうち、700人が子どもだった。

わずか数日前までの移民の1日当たりの平均入国者数は1000~1500人。今年上半期に手続きをした人数は1日当たり250~500人だったことを考えると、急増している。今年に入ってからすでに14万人以上の移民がハンガリーに入国した。

27日の朝、ハンガリー南部ロスケの近くでは、主にシリアとアフガニスタンからの難民の家族たちが有刺鉄線の下を這って進む姿がはっきりと見て取れた。男性が持ち上げた有刺鉄線の下をくぐる際に髪が引っ掛り泣き声を上げた女児が母親に助けられていた。その若い家族は一目散に近くの森に入って行った。

国境付近には、難民たちが持っていくことを諦めたベビーカーやリュックサック、毛布、衣服までもが散乱していた。

■ハンガリー滞在希望者はゼロ
ハンガリーはEU加盟国だが、AFPの取材に対して同国にとどまりたいと答えた難民は1人もいなかった。西ヨーロッパに行きたいのだという。

「私はドイツに行きたいんです。仕事のチャンスがあるから。医療が充実しているし、知り合いに会いに行きやすい」と、イラク人の男性教師、カシムさん(35)は語った。

カシムさんは、数か月前からずっと移動を続けている。エジプトでは仕事が見つからず、トルコでは敵意をあらわにされただけだったという。「それで、欧州行きを決意したんです」

国境を越えた移民は、ハンガリー警察にトウモロコシ畑そばの道路沿いの合流点まで連れていかれる。そこにはバスが何台も集まっている。北へと蛇行する次の短い行程の行先は、近くの難民センターだ。【8月29日 AFP】
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ハンガリーは今年、セルビアから入国した14万人余りを拘束していますが、拘束した難民らをその後どうしているのかよく知りません。

“首都ブダペストの鉄道駅が難民キャンプのような状態になりつつある。戦争や苦難を逃れてきた難民の家族たちが布などを敷いた上に座り込んでおり、乳児も含まれている。”【8月30日 AFP】

拘束後に解放された人々でしょうか?拘束を逃れた人々でしょうか?

【「EUが答えを出さない限り、問題が解決される幻想を抱いてはならない」】
難民急増に直面した各国は難民資格審査の事務処理が遅滞しており、通過ルート上のEU非加盟国マケドニア・セルビアなどはEUへの支援を求めています。

また、受け入れにについてもEUとしての統一的な対応ができていません。

****EU、移民問題で結束困難=バルカン各国悲鳴、支援要請****
中東から西欧を目指す移民が増え続ける中、移民の通過ルートに当たるバルカン半島のセルビア政府などが「負担に耐え切れない」と悲鳴を上げ、欧州連合(EU)に支援と対策を訴え始めた。

ドイツやフランスは理解を示すが、「それぞれの都合」を主張して譲らないEU加盟国もあり、結束は難しい。

AFP通信などによると、セルビアのダチッチ外相は27日、ウィーンでのバルカン諸国と一部EU加盟国との会合に際し「第2次大戦後最大の難民危機に直面している」と強調。移民が目指すのはあくまでEUであり「これはEUの問題。EUが行動計画を考えないといけない」と訴えた。

同じ会合でマケドニアのポポスキ外相も「EUが答えを出さない限り、問題が解決される幻想を抱いてはならない」とEUに強く対応を迫った。

シリアなどからの移民の多くはEU加盟国のギリシャに入った後、非加盟のマケドニアやセルビアを通り抜け西欧に向かう。マケドニアには1日平均で移民約3000人がギリシャから入国しているもようだ。

EUでは本来、移民の最初の到着国で保護申請処理を行うルールだ。英独仏は、これを盾にしてきた側面があるが、「盾」のギリシャは債務危機で移民にまで手が回らない。独仏両政府はEU主導の移民対応センターをギリシャなどに設置する案を検討中だ。

EUは6月の首脳会議で各加盟国への「移民の分担義務化」を断念した経緯がある。移民受け入れを嫌う東欧諸国の反対は根強い。

ポーランドのドゥダ大統領は、独紙ビルトに「われわれには(隣国の)ウクライナ問題という特殊事情がある」と訴えた。「戦闘が激化すれば、多くの難民がポーランドに来る」と指摘し、ウクライナ問題を理由に移民受け入れを拒む姿勢を示した。【8月28日 時事】
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二分されるドイツ世論
多くの難民らが目指すドイツでは、反発する動きも強まっており、難民受け入れ施設の襲撃事件が相次いでいます。
一方で、難民の受け入れを支援する動きもあり、世論を二分する形となっています。

****<ドイツ>難民急増「申請80万人」ネオナチ反発、先鋭化*****
中東・アフリカ地域を逃れ、ドイツで難民申請する人が急増している。独政府は今年の難民申請者が昨年比4倍の80万人に達すると予想。

収容施設がある東部ザクセン州ハイデナウでは今月下旬、難民受け入れに反対する極右ネオナチらが警官隊と衝突した。それでも欧州一の経済力を誇るドイツを目指す難民は増える一方で、ドイツでは国内の治安悪化や国民の負担増が懸念されている。(中略)

26日にハイデナウの施設を訪問したメルケル独首相は「他人の尊厳を疑問視する人間は断じて容赦しない」と外国人排斥思想を非難した。24日に現地入りしていたガブリエル副首相もデモに参加したネオナチを「ならず者」と異例の強い言葉で批判した。

だがネオナチのデモは続き、一方で難民の受け入れを支援する人たちの反ネオナチ・デモも起きた。小さな町は難民政策で二分されるドイツ世論を象徴する存在として注目されるようになり、メルケル氏は連邦警察の応援部隊を現地に派遣すると表明した。

独政府によると、ドイツを目指す難民の約70%がバルカン半島を陸路北上する「バルカンルート」を利用する。ギリシャ国境からマケドニアに入る難民の多くは「豊かで仕事もあるドイツに行く」と話しているという。

ドイツは憲法で難民申請の権利が認められているなど手厚い保護政策で有名だが、内戦が続くシリアやイラクからの難民申請者は本人確認が難しい。
マケドニアやセルビアなどは難民認定の前提となる政治迫害がないとされ、認定の事務手続きが長期化する要因になっている。

連邦議会(国会)の与党キリスト教社会同盟のシュトラウビンガー議員は毎日新聞の取材に「今後は難民政策が課題だ」と述べ、審査の厳格化や申請対象外の国の追加、申請が却下された人の即時国外退去など、強硬な政策の実現を目指す方針を示した。

だが、与党内でも強硬策への懸念は強く、9月上旬に再開される議会では難民問題を巡る激しい議論が交わされそうだ。

メルケル氏は難民資格審査の効率化などを早急に行う方針だが、ドイツ単独での対応では難民の流入は止められないのも事実だ。ドイツのガウク大統領は「欧州は今、困難な挑戦の時を迎えている」と述べ、欧州連合(EU)全体での包括的な対応が不可欠との認識を強調している。【8月29日 毎日】
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困難な状況のなかで、ドイツ政府はシリア難民の亡命申請を事実上簡略化することを明らかにしています。
このあたりは、最大の受入国としての「責任ある対応」のように思われます。

****独、シリア難民の受け入れ要件緩和 EUで初****
ドイツ政府は25日、シリア人による亡命申請の受け入れ要件を緩和したと発表した。欧州連合(EU)内に入ろうとする難民が殺到している南欧諸国の負担軽減につながることが期待される措置だ。

第2次世界大戦以降最大の難民危機に対するEUの対応に批判が集まる中、ドイツ政府は、シリア人の亡命希望者についてはEU内に最初に到着した国への送還を取りやめたと発表。

EU加盟国の中で、シリア内戦を逃れた人々の亡命申請を事実上簡略化したのはドイツが初めて。

欧州委員会のナターシャ・ベルト報道官は、ドイツの措置は「対外国境に面した加盟国だけに欧州を目指す多数の亡命希望者の対応を任せておくわけにはいかないという事実の認識」を示すものだとしている。【8月26日 AFP】
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日本では、“スリランカ国籍の男性が、難民の認定を求めた裁判で勝訴したにもかかわらず、その後も法務省から認定されないのは不当だとして、再び難民の認定を求める、異例の裁判を起こすことになりました。・・・・去年、申請を行った外国人は過去最多の5000人に上りました。このうち難民と認定された人は11人で、申請者全体の0.2%でした”【8月23日 NHK】とのこと。

もちろん、各国の置かれた状況は異なりますし、個々のケースにおける事情もあります。
単純な比較はできませんが、難民に向き合う姿勢というか、覚悟の度合いには差があるようにも見えます。

まずはシリアを・・・
難民・不法移民増加の原因は戦乱と貧困です。
ここをなんとかしない限り、たとえ「フェンス」で流入を止めたとしても、それは戦乱と貧困の場に追い返したというだけの話であり、問題の解決にはなりませんし、誇るべき話でもありません。

戦乱と貧困も容易に改善できる問題ではありませんが、短期的な視点で言えば、まだ戦乱の方が打つ手はあるでしょう。戦乱がおさまれば、やがて経済状態も回復します。

そういう話でいけば、まずはシリアです。

****シリア、内戦で人口の約20%が国外脱出****
4年半にわたる内戦が続いているシリアで、全人口の約半数が家を離れ、国外に脱出した人は内戦前の人口の20%近くに迫っている。

内戦勃発時の人口が約2300万人だった同国では、少なくとも760万人が国内で避難し、400万人以上が難民化したという。(後略)【8月29日 AFP】
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アサド大統領をどうする云々ではなく、とにかく戦いを止めることをIS以外の各勢力に強制する方向で関係国が働きかければ改善の余地があります。
ただ、和平・停戦を望まない国・勢力があり、シリア国民の苦境より関係国の国益が優先されるのが現実であるとすれば・・・救いがありません。

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