孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ジンバブエ  高齢ムガベ大統領に“自発的な退陣”を求める軍の“クーデター”が進行

2017-11-18 22:15:51 | アフリカ

(ジンバブエの首都ハラレの大統領公邸で軍将校や南アフリカ特使らと会合を開くロバート・ムガベ大統領(中央右)。国営放送局ZBCが放送した映像より(2017年11月16日取得)【11月17日 AFP】 一応、ムガベ大統領をはじめ、みなにこやかな表情です。

大統領は17日には首都ハラレの大学の式典に出席し、公の場でのスピーチを行っています。“ムガベ氏が姿を現した背景には、物事が通常通りに進行しているという雰囲気を伝えたい軍などの狙いがあったとみられる。”【11月18日 CNN】)

軍はクーデターを否定 「ムガべ氏周辺の、社会や経済に打撃を与えている犯罪者を法で裁くのが目的だ」】
南アフリカのジンバブエでは、かつての独立の英雄にして黒人解放の闘士・ムガベ大統領の強引な黒人化政策で経済が崩壊して記録的なハイパーインフレーションによって国民生活は疲弊しました。

インフレは現在収束してはいますが、“一部調査によると、ジンバブエでは失業率が90%以上にも上っている。”【10月18日 AFP】とも。

ムガベ大統領は政治的には野党を弾圧する強権支配を強め、“現在の国名となった1980年以降は、黒人解放運動の同志を閣外に追いやり、北朝鮮による訓練を受けた軍事部隊を使って2万人ともいわれる反体制派の大量殺害を行ったとされる。”【11月15日 産経】とも。

敗色濃厚だった前々回2008年選挙では暴力で野党候補ツァンギライ氏から大統領職を奪い取る形に。

その後、前回2013年選挙では圧勝、現在93歳ながら来年の次回大統領選挙でも出馬の意向を示している・・・・という話は、7月4日ブログ“ジンバブエ「止まった国」 来年大統領選挙で7選を目指すムガベ大統領、93歳”でも取り上げたところです。

気力・体力も限界に近づきつつあるとも思われる93歳の本人が続投を希望しているのか、野心に溢れた若いグレース夫人が、周辺既得権益層を含めて、そのように仕向けているのか・・・そこらはわかりませんが。

そのジンバブエで軍によるクーデターが進行していることは報道のとおりです。
軍が動くことになった直接のきっかけは、後継者争いでグレース夫人がライバルを排除したことにあるとも言われています。

****ジンバブエ副大統領、解任される ムガベ夫人が次期大統領の最有力候補に****
ジンバブエのロバート・ムガベ大統領(93)は6日、副大統領だったエマーソン・ムナンガグワ氏を同職から解任した。同国政府が発表した。

ムガベ氏の後継をめぐって与党内で緊張が高まる中、5日にはグレース大統領夫人(52)が大統領職を引き継ぐ準備ができていると表明。ムナンガグワ氏の解任により、グレース夫人が次期大統領の最有力候補になったとみられている。
 
同国のサイモン・カヤ・モヨ情報相は首都ハラレで記者会見を開き、副大統領の更迭を発表。「副大統領は一貫して、かつ永続的に不忠、無礼、不実、そして信頼性の欠如という性向を示してきた」と述べた。
 
ムナンガグワ氏はムガベ氏の後継者と目されていたが、最近になって両者の間には不和が生じていた。
 
またムガベ氏は4日、ムナンガグワ氏が12月に予定されている与党の特別総会を前に、派閥争いをあおったと非難。ムナンガグワ氏を更迭すると警告していた。
 
一方、ムガベ氏後任の最有力候補とみられるグレース夫人は5日、ハラレのスタジアムに集まった地元教会の信者数千人を前に演説を行い、「ムガベ氏に対し、私にあなたの職を引き継がせるべきだと言った」と語った。また、ムガベ氏には「恐れないで。あなたが私に大統領職を与えたいのなら、気兼ねなく私に渡しなさい」とも告げたという。【11月7日 AFP】
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このグレース夫人は、豪奢な生活ぶりから、高級ブランドにちなんで「グッチ・グレース」などと呼ばれており、あまり“いい噂”は聞きません。

****独裁者」夫人、女性モデルに暴行? 海外で騒動に****
「独裁者」として欧米の批判を浴びるジンバブエのムガベ大統領(93)のグレース・ムガベ夫人(52)が、南アフリカのホテルで女性モデルに暴行したとして騒ぎになっている。南ア政府は外交特権を認めて夫人を帰国させたが、政府の決定に批判の声が上がるなど、問題は収まりそうにない。
 
AFP通信などによると、グレース夫人は今月中旬、息子2人が宿泊していたヨハネスブルクの高級ホテルで、一緒にいた20歳のモデルの女性を延長コードでたたき、額や後頭部に切り傷を負わせた疑いがある。(後略)【8月22日 朝日】
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新大統領に第1副大統領職を解任されたムナンガグワ氏、首相に野党のツァンギライ氏?】
軍は“武力による権力奪取”のイメージを回避する思惑もあってか、ムガベ大統領に近い将来の穏便な辞任を求めているようで、グレース夫人の勢力を排除したうえで、6日に第1副大統領職を解任されたムナンガグワ氏を新大統領に、また、最大野党党首で長年のムガベ氏の政敵ツァンギライ氏を首相に・・・との構想が報じられてもいます。

****<ジンバブエ政変>野党ら暫定政権発足を協議か****
アフリカ南部ジンバブエで事実上のクーデターを起こした国軍は15日に放送局を占拠して声明を発表した後、沈黙を保っている。

ムガベ大統領(93)は自宅軟禁状態のままで、水面下では軍とムガベ氏側などとがムガベ氏の処遇を巡る交渉を続けている模様だ。

地元紙は16日、野党を含めた暫定政権の発足が協議されていると伝えた。
 
国軍はムガベ氏の妻グレース氏(52)に近い閣僚や政治家らを拘束するなどして影響力を排除しようとしているが、ムガベ氏の即時退陣は求めていないとされる。
 
このためムガベ氏が当面は大統領の座にとどまるのを容認した上で、近い将来の権限移譲を受け入れるようムガベ氏側に圧力をかけているとの見方が出ている。
 
最大野党「民主変革運動(MDC)」の関係者らによると、6日に第1副大統領職を解任されたムナンガグワ氏を中心とした暫定政権構想が浮上。MDCも暫定政権に参加するよう求められているという。

専門家は「新体制に野党を加えることで、軍事力による政権奪取との批判を和らげる狙いがあるのでは」と指摘している。
 
ロイター通信によると、ムガベ氏とグレース氏は依然として自宅軟禁状態が続いている。ムガベ氏は大統領の任期(18年8月まで)の全うを主張しているという。

暫定政権となった場合に首相就任がうわさされるMDCトップのツァンギライ議長は15日夜、入院先の南アフリカから帰国した。
 
首都ハラレでは国軍が政府の中枢施設を包囲したが、軍内の分裂などによる衝突は起きておらず、平穏が保たれているという。【11月16日 毎日】
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退陣を拒否する大統領 与党にも離反の流れ
クーデターでの政権交代は周辺国との関係を悪化させる恐れがあり、また新政権の正統性を確保するためにも、国軍はムガベ大統領に自発的な辞任を求めているようですが、軟禁状態のムガベ大統領は退陣を拒否しているとも。

しかし、複数閣僚の拘束に加え、与党内でもムガベ氏の退陣は不可避との空気が広がっており、流れは“ムガベ後”に傾いています。

****ムガベ氏退陣へ動き加速=不信任案準備、与党で離反も―ジンバブエ****
政情不安が続くアフリカ・ジンバブエで、国軍の軟禁下にあるムガベ大統領(93)の退陣に向けた動きが加速している。議会で大統領不信任案提出の準備が進んでいるほか、与党内でも大統領支持派が相次ぎ離反。

追い詰められたムガベ氏は「(クーデターによる)非立憲的な権力移行を避け、自発的に辞めようとしている」(英紙デーリー・テレグラフ)とみられる。
 
同紙によると、不信任案可決には過半数の賛成が必要だが、野党のほか、与党の大統領支持派の多くも軍を恐れて賛成に回る見込み。ロイター通信によると、与党指導部からも大統領解任を求める声が上がっており、うち1人は「もう引き返せないところまで来た」と述べた。
 
一方、国軍は17日、国営テレビで声明を出し、「大統領周辺の犯罪者を除去する作戦で重要な進展があった」と述べ、複数の関係者を拘束したことを確認。大統領との協議結果について「できるだけ速やかに国民に通知する」と強調した。

AFP通信は、大統領に先週解任され国外にいたムナンガグワ前副大統領(75)が16日に帰国したと報道。ムナンガグワ氏は後継大統領として有力視されている。【11月17日 時事】
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いつまでも大統領が退陣を拒めば、不信任案や、あるいはもっと直接的な方法で強制的に退陣させる・・・ということにも。

結局、力でしか実現しなかった政権交代
国民の間でも、ムガベ退陣を求める動きが加速しています。

****与党、大統領辞任を要求=首都に市民ら数万人―ジンバブエ****
軍による事実上の反乱が起きたアフリカ南部ジンバブエの与党「ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線(ZANU―PF)」は18日までに全支部が会合を開き、国軍が軟禁下に置いているムガベ大統領(93)に対し、党首辞任を求める決定を行った。政府系紙ヘラルドが伝えた。グレース夫人(52)にも党の要職を退くよう要求している。
 
英BBC放送によると、首都ハラレでは18日、市民ら数万人がムガベ氏退陣を求めて軍公認の下、通りに繰り出した。

ハラレからの報道では、集まった市民らは「うれしくて涙が止まらない」「この日を待っていた」「ついに自由になった」と既に退陣が実現したかのようなお祭りムード。軍の介入への感謝の言葉が聞かれ、1週間前までの盤石のムガベ独裁体制がうそのような光景が広がった。【11月18日 時事】
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“ヨハネスブルクで記者会見したダベングワ元内相は、ムガベ氏がすんなりと辞任を受け入れることはないとの見方を示したが「99%の国民は退陣を望んでいる」と語った。”とも。

軍に加えて与党も離反しては、ムガベ大統領に抵抗する力は残っていないでしょう。

それにしても、“1週間前までの盤石のムガベ独裁体制がうそのような光景が広がった”ということで、これまでのムガベ支持は何だったのか?という感も。力で奪い取った前々回選挙でも半数に近い支持はあり、前回選挙では圧勝しています。

“野党陣営によれば、与党ZANU-PFは各地で行われるムガベ派の集会に参加しなければ死が待ち受けていると有権者を威嚇している。「極度の恐怖と脅迫」のせいで自由かつ公正な選挙が行われない恐れがある”【7月4日号 Newsweek】という政治状況ではありましたが。

夫人や取り巻きの“操り人形”に化すことも危惧される高齢強権支配者が退くことは歓迎すべきことですが、民主的な政権交代ではなく、軍によるクーデターという形でしか実現しなかった(まだ終わった訳ではありませんが)ということは、残念なことでもあります。

なお、ノーベル平和賞に対抗して中国の大学教授らが創設した「孔子平和賞」の2015年の受賞者に、ムガベ大統領が選ばれましたが、ムガベ氏は受賞を辞退しています。

また、最近では、世界保健機関(WHO)事務局長(かつてエチオピアの保健相を務めていたテドロス氏 アフリカ出身で初のWHO事務局長)がムガベ大統領(93)をアフリカ全土における心臓まひや脳卒中、ぜんそくなどの非伝染性疾病との闘いを支援する親善大使に指名しようとしたところ、世界中から非難が殺到、この判断を「再考する」と発表する・・・・といったこともありました。

ジンバブエの医療制度は他の公共サービスと同様、ムガベ政権下で破綻していると言われています。

「孔子平和賞」やWHOテドロス氏がどういう判断でムガベ氏を選んだかは知りませんが、欧米世界では「独裁者」として嫌悪されるムガベ大統領の強硬な黒人化政策は、現在も格差に苦しむ南アフリカなどの黒人層には人気があるとも言われています。

強権支配が軍部クーデターで終わろうとしているジンバブエに続いては、政権交代を目指す再選挙で揺れるケニア、強権支配がそれでも続く南米ベネズエラ、強権支配を加速するカンボジアなどの話がありますが、冗長になりますのでまた別機会に。

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