孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  イスラム保守派による女子教育妨害

2012-04-21 00:48:56 | アフガン・パキスタン

(写真は旅行中の中国新彊ウイグル自治区・トルファンのバザール ウイグル族はイスラム教徒ですが、アジア世界の市場同様、売り手も買い手も女性が目立ちます。男性は何をしているかといえば、バザールの片隅でゲームに興じています。)

【「女子教育に反対する者の犯行だと思う」】
中国旅行中ですが、国際面のニュースにざっと目をとおしたところ、シリア情勢の膠着など、あまり大きな変化はないようです。
そんななかで一番気になったのは、アフガニスタンの女子教育に関する下記の記事でした。

****給水器に毒物? 女子生徒100人が中毒症状 アフガン*****
アフガニスタンからの報道によると、北部タカール州の女子学校で17日、給水器の水を飲んだ生徒100人以上が中毒症状を訴えて入院した。地元知事はAFP通信に対し、毒物が混入されていたとの見方を示し、「女子教育に反対する者の犯行だと思う」と述べた。

地元保健当局者によると、女子生徒らは頭痛や吐き気を訴え、多くは回復して退院したものの、重い症状の生徒もいるという。学校には10~18歳の生徒が通っていた。

アフガンでは、女子教育を禁じたタリバーン政権が2001年に崩壊した後、女子教育は再開された。しかしその後も、女子教育を嫌う保守派や過激派による女子生徒や学校に対する嫌がらせや攻撃が相次いでいる。【4月19日 朝日】
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アフガニスタンの15歳以上の女性の識字率は2割程度とみられており、女性の地位向上に直結する識字教育は急務とされています。
しかし、そうした社会変革を好まないタリバン支持勢力などによる毒物や酸を使った女子教育妨害は、これまでも頻繁に報じられています。

タリバンの方針は?】
昨年夏には、タリバンも女子教育に関して方針を変更したとの報道もありましたが、実情は変わっていないようでいささか落胆しました。

*****アフガン東部 女子教育推進に方針転換 タリバン、政治力誇示*****
パキスタンに隣接するアフガニスタン東部クナール州で、イスラム原理主義勢力タリバンが女子教育も含めた学校の再開や、外国政府の支援も入った開発計画を支持するだけでなく、積極的に推進していることがわかった。
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女子教育を否定してきたタリバンが方針を転換したことが具体的に確認されたケースは珍しい。外国部隊撤退やアフガン政府との和解が実現すれば、タリバンの政権参加もありうることから、政治的な“力量”を住民に見せる狙いもあるようだ。

「ここの子供たちはちゃんとした教育を受けている。いま、目の前で子供たちが遊んでいるよ」。タリバンのメンバーで、クナール州の“影の政府”に勤めるラフマトゥラ・カシミ氏は、電話の向こうで声を弾ませた。
“影の政府”は、ほぼ全州に設置されているタリバンによる非合法政府。汚職や機能しない行政府にかわって、税金を徴収したり裁判所や警察署を運営したりすることもある。最近はタリバンの拠点であるアフガン南部にかわって、影響力が強まっている同国東部の“影の政府”が力を持つ傾向が広がっている。

カシミ氏によると、クナール州の“影の政府”は今年に入ってから、州内14地区にある州政府の教育担当者に学校再開を“通達”。以降、女子教育に反発する武装勢力が学校運営を妨害しないよう、タリバン兵による警備を行うだけでなく、教師の質や勤務態度も監視しているという。
州知事報道官のワシフラ・ワシフィ氏に確認したところ、「タリバンから女学校も含めて学校の再開のお墨付きを得たおかげで、州内の全419校で授業を行っている」と述べ、タリバンの方針転換を歓迎した。

1990年代後半から2001年までアフガンのほぼ全土を支配したタリバンは女子教育を否定してきた。各地で女子学校だけでなくさまざまな教育施設の爆破や、教員の殺害を行ってきたタリバンが、まだ全土的な動きにはなっていないとはいえ、なぜ方針を変えたのか。

カシミ氏は「人々に奉仕するのはタリバン指導層(パキスタンにある最高機関クエッタ評議会)の指示」で、新たなものでないと強調。これまで指示を実行できなかったのは「タリバン政権は国家を運営していくには未熟で、政権がアフガン国民のためになる政策を行うことを(タリバンを支援する)パキスタン当局の一部が良しとしなかったからだ」と説明する。

クナール州の政治アナリスト、シュジャ・ウル・ムルク氏は「この州のタリバンのメンバーは地元住民が多いだけに、自分の子供たちの教育の重要性に気づいたのだろう。また、外国部隊の撤退後、タリバンが住民のために奉仕できるというアピールの意味もあるのでは」と解説している。【11年7月14日 産経】
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援助は治安作戦に地元の協力を取り付ける手段の側面が強かった
実際、“まだ全土的な動きにはなっていない”ようです。
タリバンの女子教育に対する無理解の他、民生面への支出を担ってきた米軍などの撤退後に、国際支援が先細りすることも懸念されています。

****細るアフガン援助 「米軍撤退後」巡り、独で国際会議*****
アフガニスタンに対する国際社会の長期的支援について話し合う国際会議が5日、ドイツのボンで開かれる。7月に始まった米軍の撤退に伴い援助も大幅に減り、経済や財政が行き詰まる可能性があるとの懸念の高まりが背景にある。
国際治安支援部隊(ISAF)からアフガン側への治安権限移譲は2014年末の完了を目標に進められ、同時に外国部隊の撤退も進む見通しだ。

だが、部隊撤退で援助も減少すると見られている。最大援助国・米国などにとって、援助は治安作戦に地元の協力を取り付ける手段の側面が強かったからだ。道路や学校などの小規模インフラ整備もかなりの部分を、司令官の裁量で行う軍予算や軍民一体型の地域復興チーム(PRT)を通して実施してきたとされる。

世界銀行の報告書によると、昨年度のアフガンへの各国の援助総額は国内総生産(GDP)に匹敵する157億ドル(1ドル=約78円)で公共支出の9割に上る。世銀は「援助額は極めて大きく、持続は困難だ」と指摘する。米国の開発援助機関、国際開発局(USAID)を通じた援助も昨年度の34億ドルがピークで、今年度は21億ドルにとどまった。
世銀の試算では、治安確保のため計35万2千人までの増員を目指す軍・警察の支出が負担となり、10年後でも72億ドルの財政赤字が見込まれる。世銀は「急激な援助の減少は国の破綻(はたん)を招きかねない」と警告する。

そのためアフガン側はボン会議で「14年以降の長期的な国際社会からの支援を取り付けたい」(ムサザイ外務省報道官)考えだ。だが、欧州や米国は債務危機や経済停滞に見舞われており、具体的な議論が深まるかどうかは不透明だ。

第2位の援助国日本は09年に5年間で最大50億ドルの支援を表明。最貧国への援助としては異例の額で、米国への協力の意味合いが強い。だが、欧米のアフガンへの関与が低下しつつある中で、15年以降の日本の立ち位置も定まっていない。

会議は01年12月にタリバーン政権後の新生アフガン国家の枠組みを決めたボン合意から10年の節目にドイツ政府が準備。カルザイ大統領が議長を務め、クリントン米国務長官など約90カ国の外相らや潘基文(パン・ギムン)国連事務総長が参加する。
当初は反政府武装勢力タリバーンの代表を出席させる案もあったとされるが、実現しなかった。(後略)【11年12月4日 朝日】
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米国の開発援助機関、国際開発局(USAID)の現地代表、S・ケン・ヤマシタ氏は、この10年間の成果について、「灌漑(かんがい)面積や女子の生徒数、保健サービスを受けられる女性の数など進展は顕著だ。ただ継続する戦争の陰に隠れてしまっている。一方でアフガンが必要とする支援は多い」と語っています。
今後については、「軍の撤収は始まるが、開発支援は続ける。米国の財政危機から予算面で何かを犠牲にすることはやむを得ないが、アフガンへの関与が薄まるわけではない。アフガン政府を通じた支援の割合を増やすなどして影響を最小限にとどめたい」とも。

【「自分たちの経験を役立てようと考えた」】
国家支援だけでなく、NGOによる教育支援活動も行われていますが、以前もこのブログで取り上げたように、その中にはアフガニスタン同様の途上国バングラデシュのNGOもあります。

****途上国NGO、海外支援〈アジアンパワー*****
■バングラデシュ発
積もった雪と泥が混じった坂道を上がり、周囲の家々と変わらない一軒家に入ると、小さな教室で少女たちが並んで迎えてくれた。クラスは一つだけだが、身長も年齢もまちまちだ。
アフガニスタンの首都カブール西郊の丘陵地。貧しい家族が多く暮らす住宅地にバングラデシュのNGO「BRAC(ブラック)」が運営する小学校がある。近くに通える小学校がないなどの理由で、入学機会を逸した10歳から18歳までの女子25人が通う。

マスマさん(18)は女子教育を禁じたタリバーン政権が2001年に崩壊した頃に就学年齢になったが、家から歩いて30分かかる小学校に通うのは危ないとの理由で両親が入学させず、代わりにじゅうたん織りの内職を手伝っていた。だが、3年前にNGOが女子学校をつくると友達から聞きつけ、親を説得。年下の子に交じって学んできた。

BRACの学校では、夏休みや冬休みなど長期休暇がなく、3年間で5年生までの課程を一気に教える。アフガンの教育省と連携し、卒業後は能力と年齢に応じて公立学校の6年生以上に編入できる。マスマさんは「勉強を続けて医者になりたい」と夢を語った。

BRACはアフガンでこうした小規模の小学校を約2300校運営し、少女を中心に約7万人が通う。
BRACはバングラデシュが内戦を経てパキスタンから独立した翌年の1972年に設立された。貧困の削減を目的に活動し、現在、バングラデシュ国内だけでスタッフが10万人、全国に事務所があり、国民の75%に当たる1億1千万人をカバーする。年間の支出は4億9500万ドル(約411億円)で、銀行や大学も経営する世界最大規模のNGOだとされる。

BRACが初の海外支援先として、アフガンでの活動を始めたのは02年。事務局長のマハブブ・ホサインさん(66)は「戦乱後の復興という部分は私たちの歴史と似通っていた。自分たちの経験を役立てようと考えた」と説明する。

実際、アフガンでの活動はバングラデシュで培った手法を主に使っている。小規模の学校は85年に始めた活動。教師を1人とすることでコストを抑え、きめ細かな指導ができるよう生徒を30人程度に絞る。こうした学校はバングラデシュ国内に約3万校ある。(後略)【3月19日 朝日】
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国家的な支援、NGO活動なども期待されますが、当然ながら今後のアフガニスタン情勢次第でもあります。
そのうえで、タリバンの女子教育に対する姿勢、アフガニスタン政府の取り組みが、アフガニスタン女性の地位向上を左右します。

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