イギリス映画「生きる LIVING」が3月31日に公開される。黒澤明監督の名作「生きる」(1952年)のリメーク版だ。脚本を担当したのは5歳のときからイギリスに住み日本語はほとんど話せないカズオ・イシグロだ。さいわい近くの立川で上映されるようだ。映画館に行くのは何年ぶりだろう。
イシグロはノーベル賞授賞の際に「作家としては日本文学より50年代の日本映画に影響を受けた」と語っている。とくに「生きる」は子供のころテレビで見て強い感銘を受けたという。そんなおりにイギリスの国民的俳優で親交のあるビル・ナイを主演にリメークすれば完全な映画になるとひらめいたという。
イシグロは「10代の時、ロンドンの学校に電車で通いました。プラットホームには山高帽にブリーフケースと新聞を持った人々でいっぱい。みんな制服のようでした。卒業したら私も同じ制服を着て通勤するのかと思うと、暗い気分になりました」とふりかえる。リメーク版は1953年第二次世界大戦後いまだ復興途上の朝の通勤風景から始まる。
黒澤版で主人公が歌う「ゴンドラの歌」は、スコットランド民謡「ナナカマドの木」に替わった。これはスコットランド出身のイシグロの妻が好きでいつもいつも歌っている歌と種明かししている。「主人公は妻の死で自分の一部を失っていた。最後にそれを取り戻し人生を100%生き抜くことができた」イシグロは、この歌に主人公の亡くなった妻への思いという隠れた意味を込めたという。