黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

弁護士に対するヒアリングの結果は?

2012-02-09 23:42:04 | 弁護士業務
 たしか以前の記事で,専門職大学院には法科大学院のほか会計大学院と公共政策大学院があるといったことを書きましたが,後で調べて見ると他の種類の大学院もあるようです。法科大学院の問題については後日改めて触れますが,それ以前の記事については,黒猫の勘違いや事実誤認に基づく記述があってもチェックが追いつかないので,特に記事の訂正等は考えておりません。もし,記事に誤り等があった場合には適宜コメント欄などでご指摘頂ければ幸いです。

 本題に入ります。2月7日に開催された「法曹の養成に関するフォーラム」では,5人の現役弁護士からヒアリングが行われました。法務省のHPで公開されているのは弁護士の作成したレジュメだけで,残念ながらどのようなやり取りが行われたかまでは公開されないようですが,それでもどのようなヒアリングが行われたかは,レジュメの内容からある程度推測できます。以下,5人の弁護士が作成したレジュメに関し,黒猫の感想を述べることにします。

1 伊東 卓 弁護士(新四谷法律事務所,40期)
 伊東弁護士は,昭和63年に弁護士登録をし,平成14年に現在の事務所を立ち上げたという,業界では中堅ないしベテランの領域に属する人物です。レジュメを見ると,法律事務所の経営と新人弁護士の採用に関する実情が率直に語られています。
 伊東弁護士によると,まず事務所で受任している業務自体は特に減少していないが,事件の単価が下がっているため売上が伸びる展望は立たず,しかも依頼者がインターネットを通じて他の弁護士にセカンドオピニオンを求めたりするなど,弁護士に対し見る目が厳しくなっているため,新人採用といっても多数を採用するほどの余裕はないそうです。
 新人採用については,以前は司法修習で配属された修習生をそのまま採用することが多かったものの,最近はぜひ欲しいという人材はすでに就職先が決まっているため,公募による採用を検討しているそうです。ただ,インターネットで公募すると応募が殺到するため,面接をするのは10名くらいに絞らざるを得ず,他の事務所も似たような状況であるため,就職希望者に対するアドバイスとしては,ツテを積極的に利用して何とか弁護士に会うところまでこぎ着けろと指導しているそうです。
 修習生の就職状況については,年齢の高い者や女性はなかなか就職が決まらず厳しいと聞いており,既存の事務所に就職せず即独しようとする人も,最近は就職できないから即独しようとする人(消極的即独)が増えており,中には登録予定地のリサーチも出来ていない人がいることから,安易な即独を戒めることもあるそうです。特に東京では,国選弁護や弁護士会の法律相談員も供給過剰であり,新人では破産管財人にもなれないことからこれらの収入を得ることは難しく,即独してやっていける人は少数ではないかという趣旨のことを述べられています。
 また,弁護士に対する求人アンケートの結果を見れば,弁護士の求人数は減少しており現状は明らかに修習生の供給過剰,弁護士会による採用の働きかけもそろそろ限界ではないかということです。
 この記事ではレジュメの全文を取り上げることはしませんでしたが,修習生の就職についても有益なことが述べられているので,これから就職を考える修習生には一読の価値があると思われます。

2 武井 一浩 弁護士(西村あさひ法律事務所,43期)
 いわずと知れた大手渉外事務所の弁護士で,現状の報告ではなく将来の展望に関する持論を説く姿勢のようです。
 武井弁護士によると,法曹有資格者が社会に供給できる付加価値は「利害調整力」であり,日本企業のグローバル化,IFRS(国際会計基準),上場企業の独立役員など,法曹が力を発揮できる「利害調整」が必要な場面は山ほどあるそうです。
 そして,これからの弁護士には環境適応能力を身に付け,社会のニーズに積極的にチャレンジしていく精神が必要であり,法科大学院教育においても①社会における付加価値の付け方、②既存業務に視野を固定しない多様なキャリアパスの提示・教育を行っていくべきであるとしています。
 ただし,社会的インフラを全て競争原理で律することにはデメリットもあるので,バランス論も重要であるとしています。たとえば法律意見形成は,①精密機械並みの分析・創造力が必要なときがある,②家内制手工業的プロダクツであるため一つつくったら大量生産というわけにいかない,③日本ではアドバイスにお金を払う文化が少ないといった特徴があり,社会に対する付加価値を提供する高品質を保つためには,「悪貨(適当に調べて安価で)が良貨を駆逐しない」よう,競争状況の適度なモニタリングも必要であるとしています。
 要するに,利害調整の専門家である法曹に対する潜在的需要はあるが,競争原理ですべてを律するのは問題もあるので,むやみに弁護士の数を増やすのは良くないとも言っているわけです。もっとも,自分に都合の良いことしか耳に入らない法科大学院出身の委員達は,おそらく武井先生の意見の前半部分だけを強調して,さらなる増員路線を主張する気ではないかという気がします。

3 山川 幸生 弁護士(63期)
 山川弁護士はの事務所は,東京弁護士会の弁護士有志が「里親」になって,事件の共同受任といった形で新人を育成指導し,3年以内の独立を目指すところのようです。外部の事務所の弁護士が共同受任という形で指導してくれるのでOJTは上手く行っていますが,収入の保証はなく,昨年の夏頃までは経済的にも厳しかったそうです。最近は被災者支援やホームレス問題の活動,会務活動にも取り組んでおり,最近の新人としては上手く行っている人のようです,

4 青野 博晃 弁護士(63期)
 青野弁護士の属する桜上水法律事務所は,外部の先輩弁護士の支援・指導を受けつつ,若手が各自独立して活動し,事務所の経費のみを分担する共同事務所で,先輩弁護士の支援・指導によるOJTの中で研鑽を積み,自分の事務所を設立して独立を果たすと
いうのが設立趣旨だそうです。要するに,一人で即独をするのは大変なので,新人弁護士が数名で共同して事務所を立ち上げたということのようですね。
 開業当初は受任件数も少なく,修習時代の貯金を食い潰して生活していたものの,最近はようやく収入も安定してきたそうです。なお,山川弁護士と共通の問題意識として,若手弁護士に対するOJTの機会を確保する方策の必要性を説いています。

5 浦崎 寛泰 弁護士(58期)
 法テラスの壱岐法律事務所,千葉法律事務所で経験を積んできた若手弁護士です。壱岐では3年間で850件もの法律相談があり,法的ニーズはまだ埋もれているものの,それらの多くは経済的裏付けのない法的ニーズであり,自営の弁護士がそのような仕事をしてもお金にならない,高齢者や障害者などはそもそもトラブルと認識できない場合が多いため福祉職とのネットワークも必要だがそれが可能なのは(採算性を気にしなくて良い)法テラスの弁護士だからという実情があると説明しています。
 その解決策としては,国費で成年後見人を付ける制度の創設,民事法律扶助の拡充,福祉職が無償で弁護士に相談できる制度の創設などを提言しています。

 ヒアリングの対象者はどうせ官僚が選んでいるので,実情を無視した大政翼賛的なヒアリングが行われるのではないかと想像していましたが,少なくとも今回行われた5名については,比較的現実的な意見の持ち主が多かったように感じています。若手弁護士2名については,今時の新人としてはましな環境にあるとはいえ,それでも既存の法律事務所には雇ってもらえず,新人時代から独立採算で仕事をすることを余儀なくされており,非常に厳しい状況に置かれていると言えるでしょう。
 特に,法科大学院側が熱心に主張している合格者3000人といった路線に賛同しているような弁護士は一人もいなかったことに注意する必要があります。
 フォーラムにおける関係者のヒアリングは,全4回にわたって行われることが予定されていますが,何とかして法科大学院の既得権益を守りたい文部官僚と大学関係者,そしてそれに追随するマスコミが実権を握っているような会議ですので,こうしたヒアリングの結果も強引に歪曲されるおそれがあります。フォーラムがヒアリングの結果を歪曲し強引な結論を出そうとしたときには直ちにこれを糾弾できるよう,ヒアリングの内容については今後も注目していく必要があるでしょう。

1 コメント

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Unknown (通りすがり)
2012-02-10 09:06:09
法科大学院サイドはともかくとして新たなロースクールはもう新設されない=天下り先は発生しないということだから、官庁側にとってLSも司法試験も三振も就職もどうでも良くなってるんじゃないでしょうかね。

元判事・元検事にとって法科大学院教授は魅力だったでしょうが、今ポストにある人が私立なら75歳まで粘るわけで、現職の人々にはノーチャンスでしょうし。