黒猫のつぶやき

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法解釈の素人に内閣法制局長官が務まるのか?

2013-08-08 22:47:37 | 時事
法制局長官に小松氏、閣議決定 集団的自衛権の解釈変更加速(産経新聞) - goo ニュース
 上記のニュースにもあるとおり,政府は8月8日の閣議決定で,内閣法制局長官に小松一郎氏を任命しました。小松氏は,一橋大学を中退した後,昭和47年に外務省へ入省し,欧州局長や国際法局長などを経て,平成23年から駐仏大使を務めてきた外務官僚ですが,これまで内閣法制局における勤務経験は全くありません。
 小松氏は,第1次安倍政権下で発足した有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」がまとめた行使容認の報告書の作成作業に関わるなど,集団的自衛権行使容認派とみなされていることから,それだけの理由で内閣法制局長官に任命されたことになります。

 内閣法制局は,法律案や政令案,条約案の審査を所管する役所であり,内閣法制局長官は,法制局を統率する立場にあります。それだけでなく,閣議で法令解釈等についての質問・照会に答えるのも内閣法制局長官の役割であり,国会で政府特別補佐人として憲法や法令解釈の質問に答弁するのも,内閣法制局長官の役割とされています。内閣法制局長官は,法解釈のプロでなければ到底務まらない仕事なのです。
 以下に,歴代内閣法制局長官の就任前における経歴を挙げてみます(ウィキペディアより抜粋)。


● 大出 峻郎(第57代,任期:1993~1996)
 東大法卒。内閣法制局第一部長,内閣法制次長を歴任。国語審議会委員も務めた。内閣法制局に移るまでの経歴は不詳。

● 大森 政輔(第58代,任期:1996~1999)
 京大法卒。司法試験第二次試験に合格し,司法修習を経て裁判官に任官。1983年から内閣法制局総務主幹,第二部長,第一部長,内閣法制次長を歴任。

● 津野 修(第59代,任期:1999~2002)
 京大法卒。国家公務員上級試験及び司法試験第二次試験に合格し,大蔵省に入省。1978年から1983年まで内閣法制局参事官。1986年から内閣法制局第三部長,第一部長,内閣法制次長を歴任。

● 秋山 収(第60代,任期:2002年8月8日 - 2004年8月31日)
 東大法卒。通産省に入省し,1979年から1984年まで内閣法制局第四部参事官,1986年から内閣法制局総務主幹,第四部長,第二部長,第一部長,内閣法制次長を歴任。

● 阪田 雅裕(第61代,任期:2004年8月31日 - 2006年9月26日)
 東大法卒。 国家公務員採用上級甲種試験(法律)と司法試験第二次試験に合格し,大蔵省に入省。1981年から1986年まで内閣法制局第一部参事官を務め,1992年から内閣法制局総務主幹併任第一部参事官,第三部長,第一部長,内閣法制次長を歴任。

● 宮崎 礼壹(第62代,任期:2006年9月26日 - 2010年1月15日)
 東大法卒。在学中に司法試験第二次試験に合格し,司法修習生を経て検察官に任官。東京地方検察庁などで検事を務め,法務省刑事局では参事官も務めた。のちに内閣法制局に移り,第二部長,第一部長,内閣法制次長を歴任した後,2006年9月の第1次安倍内閣にて内閣法制局長官に就任。
 なお,法制局長官時には,安倍晋三内閣総理大臣から,集団的自衛権の行使は違憲であるとの日本国憲法第9条に関する法制局解釈について解釈変更の指示を受けたが,職員の総辞職の可能性を示唆し抵抗し,阻止したことがある。

● 梶田 信一郎(第63代,任期:2010年1月15日 - 2011年12月22日)
 東大法卒。熊本県東京事務所の職員として採用され,その後熊本県庁に異動。1973年に自治省へ移った後は、自治省と地方公共団体を交互に異動する。1996年4月に内閣法制局に異動となり,総務主幹,法制第三部長,第一部長を経て,2006年10月,内閣法制次長に就任。

● 山本 庸幸(第64代,任期:2011年12月22日 - 2013年8月20日)
 京大法卒。国家公務員上級甲(法律)試験と通産省上級甲種(事務)試験に合格し,通産省に入省。
 1989年から1994年まで内閣法制局第四部参事官。1998年から内閣法制局へ再び異動となり,第一部中央省庁等改革法制室長,第四部長,第二部長,第三部長,第一部長を歴任し,2010年1月,内閣法制次長に就任。


 以上を見れば大体分かるように,歴代の内閣法制局長官は,内閣法制局で長年にわたってキャリアを積み,第一部長や内閣法制次長を経て長官に就任していることが分かります。キャリア官僚として内閣法制局に直接任官することはできず,他の省庁または裁判所・検察庁から参事官以上のキャリア官僚を出向で受け容れています。また,必須ではないにしても,歴代の法制局長官には,裁判官・検察官出身者や旧司法試験合格者が相当多くを占めていることが分かります。
 これに対し,小松氏は外務官僚としての経験は豊富であっても,内閣法制局に勤務したことは一度もありません。外務省の所管する法令や条約のことは知っていても,内閣法制局が行う法令の審査事務や意見事務については,おそらく素人と称して差し支えないレベルでしょう。そのような人が,突如として内閣法制局長官に抜擢されたのです。
 安倍総理は,以前に憲法の解釈変更を指示して内閣法制局に阻止されたことがあり,小松氏の起用がその報復人事であることは明らかですが,内閣法制局長官は官僚の中でもトップクラスの権威ある役職であり,このような人事は,下手をすれば官僚すべてを敵に回す可能性があります。
 民主党時代,内閣法制局長官による国会答弁を廃止し,弁護士資格を有する枝野氏や仙谷氏が法令解釈に関する答弁を担当するようになったこともありますが,いずれも実際は内閣法制局の官僚が示したとおりに答弁するしかなく,野田政権下では内閣法制局長官による国会答弁が復活しました。
 このような経緯から考えると,小松氏は持論とする憲法9条の解釈以外では,おそらく内閣法制次長やその部下達に全面的に依存せざるを得ないでしょう。部下達からは,「名ばかりの長官」などと揶揄されることもほぼ確実です。こんな役所へ落下傘的に乗り込んでいって内閣法制局長官の仕事を見事にこなし,かつ憲法9条の解釈を変更させることが出来るとすれば,小松氏はよほどの天才だと思います。

 大手メディアはこの人事について,「集団的自衛権の解釈変更加速」「行使容認へ布石」などと報じていますが,黒猫はそうは思いません。憲法と法解釈の伝統を軽んじ,あまりにも短絡的な発想で内閣法制局の人事をねじ曲げた末に待っているのは,民主党の政治家たちと同様,官僚の助けがなければ政権運営も国会対応もできないことに気付き,最後は官僚に土下座して謝る結果ではないでしょうか。
 とりあえず,今年末の臨時国会は,小松氏が内閣法制局長官の仕事を無事にこなせるかどうかが見物ですね。



2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
盗作されていますよ (kurolove)
2013-08-15 12:51:36

貴ブログ「法解釈の素人に内閣法制局長官が務まるのか?」と全く内容の同じ文章が別名(渡部亮次郎名)で盗用されています。

盗用先 頂門の一針 2012・8・15号
http://melma.com/backnumber_108241_5876400/

盗作、無断転載、wikipediaからのまる写し文章、の常習者で、氏のブログのコメント欄でも頻繁に指摘を受けています。

確認の上、謝罪を求めるべきです。
ネット界の正義のためでもあります。

私からも氏のブログのコメント欄で告発しますので、広く告知されますが、彼は無視するはずですので、行動をお願いします。
Unknown (Unknown)
2013-08-15 15:20:36

上記のコメントのブログ「頂門の一針」は渡部亮次郎氏のブログですが、渡部氏は他人のブログへも同分を投稿している事が判りましたのでお知らせします。
杜父魚文庫ブログ 8月15日

http://blog.kajika.net/?cid=43322
 
こちらの管理者にもその旨連絡しておきます。