黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

新会社法ってわかりにくいですね・・・。

2007-01-21 19:36:13 | 弁護士業務
 先日、法制委員会の新年会に出席致しました。せっかく副委員長に抜擢していただいたにもかかわらず、その後間もなく病気療養のため仕事もできなくなり、お役に立てなかったことを委員長の先生に謝りつつ、出席した先輩の先生方と雑談を交わしていたのですが、その中で新会社法の話が出てくると、皆さん本当にブーイングの嵐。「どの条文がどこにあるのか分からない」「何度説明会や勉強会に出席してもいまいちよく理解できない」などなど。
 そもそも、あの会社法の細かい条文というのは、言ってみれば黒猫が作った無意味に長く細かい弁護士法人の定款と性質的には似たようなもので(規模は全く異なりますが)、いわば立法オタクと称してもよいくらい精密な条文作りに執念を燃やす法務官僚たち(おそらくは、ほとんどが裁判官か検察官からの出向組。国Ⅰで法務省に入っても、重要なポストのほとんどは裁判官や検察官からの出向組に奪われ、あまり出世の途は開かれていないと聞いていますから)が心血を注いで作り上げた芸術作品のようなもので、要するに作った人にしか分からないような代物なのです。
 でも、法務官僚たちの仕事は、条文を作った時点で基本的に終わり。そして国会は、その官僚たちの作ったわけの分からない法律案を、おそらくその大半は意味も分からないまま法律として成立させ(ただし、国会審議段階で条文に多少修正が入ったりしているので、国会も決して盲判を押しているわけではないようですが)、そしてその運用は、弁護士や裁判官などの法曹実務家、そして会社の経営者や法務部員たちに丸投げされるわけです。よって、真の意味における「会社法」が何であるかは、これから我々法曹実務家や会社関係者たちの運用によって決まっていくのです。
 特に合同会社なんて、構成員課税が認められなかったので実際にはほとんど使われないかもしれないし(構成員課税にしたいなら、別に作られた有限責任事業組合契約(日本版LLP)を使えばいいですからね)、あるいは合同会社内部の規律は定款でかなり好きなように決められるのを利用して、従来の有限会社に代わる資産流動化などのスキームとして利用されるかもしれないし(なお、その関係に詳しい先生の話によると、従来の有限会社は会社法制定により株式会社の一種ということになり、少なくとも条文の建前上は会社更生法の適用を受けるようになってしまったので、資産流動化のスキームとしては使われなくなったそうです)。

 さて、現行の法曹実務家にとって、会社法の制定によって一番困ることは、せっかく司法試験で覚えた、会社法における重要な条文の番号が、全く役に立たなくなってしまったことです。そこで、旧商法第二編の実務上重要と思われる条文の規定が、どこにあるのかを確認してみましょう(なお、ここでは機関関係の規定に限るものとし、実質的な改正の有無については基本的に触れません)。

<株主総会関係>
旧商法230の10(株主総会の権限)→ 会社法295条
旧商法232条の2(株主提案権)→ 会社法303条
旧商法237条(少数株主による招集)→ 会社法297条及び316条2項
旧商法237条の2(招集手続等に関する検査役の選任)→ 会社法306条
旧商法237条の3(取締役・監査役の説明義務)→ 会社法314条
旧商法238条(総会による検査役の選任)→ 会社法316条1項
旧商法245条(営業の譲渡等)
→会社法309条2項11号、467条1項1号~4号
旧商法245条の5(簡易な営業譲渡)→会社法468条、469条
旧商法246条(事後設立)
→1項は会社法309条2項11号、467条1項5号
 2項以下は廃止
旧商法247条1項・248条1項(総会決議取消の訴え)→会社法831条1項
旧商法249条(提訴株主の担保提供)→会社法836条
旧商法251条(裁量棄却)→会社法831条2項
旧商法252条(決議不存在・無効確認の訴え)→会社法830条

<取締役・取締役会関係>
旧商法254条(取締役の選任等)
→1項は329条1項
 2項は331条2項
 3項は330条
旧商法254条の2(取締役の欠格事由)→会社法331条1項
旧商法254条の3(取締役の忠実義務)→会社法355条
旧商法255条(取締役の員数)→会社法331条4項
旧商法256条(取締役の任期)→会社法332条
旧商法257条(取締役の解任)
→1項は会社法339条
 2項は会社法309条2項7号
 3項は会社法854条
旧商法258条(取締役欠員の場合の処置)→会社法346条
旧商法259条(取締役会の招集権者)→会社法366条
旧商法260条(取締役会の権限等)→会社法362条
旧商法260条の2(取締役会の決議方法)→会社法369条
旧商法260条の3(監査役の取締役会出席等)→会社法383条
旧商法261条(代表取締役)
→1項は会社法362条3項
 2項は廃止
 3項のうち39条2項準用の部分は廃止
      78条準用の部分は会社法349条4項・5項、350条
      258条準用の部分は会社法351条
旧商法262条(表見代表取締役)→会社法354条
旧商法264条(取締役の競業避止義務)
→1項は会社法356条1項1号、365条1項
 2項は365条2項
 3項、4項は廃止(注)
旧商法265条(利益相反取引)
→1項は会社法356条1項2・3号、365条1項
 2項は会社法356条2項
 3項は会社法365条2項
旧商法266条(取締役の会社に対する責任)
→1項は会社法423条1項(一般過失責任化)
 2項、3項は廃止
 4項は会社法423条2項
 5項は会社法424条
 6項は廃止
 7項~11項は会社法425条
 12項~16項は会社法426条
 17項・18項は会社法425条1項1号イ、ハ
 19項~23項は会社法427条
(一応細かく書きましたけど、取締役の対会社責任に関する規定は大幅に実質改正されており、あまり旧法と対照する意味がないので、基本的には「旧商法266条は会社法423条以下」と覚えれば十分だと思います。)
旧商法266条の3(取締役の第三者責任)
→1項、2項は会社法429条
 3項は廃止
旧商法267条(株主代表訴訟)→会社法847条
旧商法269条(取締役の報酬)→会社法361条
旧商法272条(株主の差止請求権)→会社法360条
旧商法273条(監査役の任期)→会社法336条
旧商法274条(監査役の権限)→会社法381条
旧商法277条(監査役の対会社責任)→会社法423条1項

(注)旧商法264条3項及び4項(介入権に関する規定)については、会社法現代化要綱の実質改正部分では一言も触れられていないのですが、会社法にはこれに該当する規定が見当たらず、おそらく旧商法266条4項(会社法423条2項)の損失推定規定に一本化する考え方が採られたと思われるので、ここでは「廃止」としました。

 ・・・もういいや。このくらいにしておきましょう。
 こうしてみると、会社法の規定は旧商法の規定を一旦ばらばらにして一から組み立て直したというもので、従来の条文番号に関する順序の記憶は全くといってよいほど役に立たないことが分かります。はっきり言って、「会社法制定は、一連の司法制度改革における弁護士いじめの一環ですか?」などと勘ぐりたくもなるのですが、その一方で、あまりにも細かく読みにくい旧商法の規定(特に266条や各準用規定など)を読んでいると、一度このような大整理を行うのもやむを得ない措置だったんだろうなあ、とも思います。
 この記事を書くだけでも、実は優に5時間以上かかっていますが、上記の条文番号全部を、しかも弁護士の仕事をやりながら暗記するのは、はっきり言って不可能に近いでしょう。
 当分は、会社法の条文を引くのに何とか慣れていくしかありませんが、最低限の条文番号を覚えておけば、何も知らないよりははるかに引きやすくなるでしょう。
 そこで、黒猫の提唱する覚え方は以下のとおり。

「設立は最初の方、株式は104から、総会決議は309、役員は329から、会社責任は423、第三者責任は429、事業譲渡は467、訴訟関係はみんな828以下!」

 このくらいなら、呪文のように100回くらい唱え続ければ何とか覚えられるでしょう。
 設立は、正確にいうと25条からですが、この程度だったら正確に覚えなくても条文を引くのにさほど支障はないので、「最初の方!」で十分でしょう。
 なお、設立や株式などについて細かい規定がよく問題になるとか、上記の覚え方には出てこない委員会設置会社や、社債、特別清算、持分会社、事業再編などの規定がよく問題になるとかいう人は、必要に応じてアレンジしてください。
 法科大学院生や新司法試験の受験生であれば、最初から新会社法で勉強しているはずなので、この種の苦労はあまりしないと思います。旧試験を何年もまだ頑張り続けているという人は、設立や株式の条文をちょっと付け加えれば、試験にもある程度役に立つと思います。社債やら持分会社やら事業再編やらの問題は、論文試験にはまず出ないと思いますんで。

6 コメント

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有意義な記事ありがとうございました。 (ueyama)
2007-01-22 08:34:53
いつも楽しく読ませていただいております。大変役立つ記事をありがとうございました。活用させて頂きたいと思います。
条文もさりながら (dedeko)
2007-01-22 17:23:13
 あの「公開会社」という用語は何を考えているのでしょうか!現場で経済社会に生きるクライアントに説明する時、そのまま使っているのですか?判決文が実社会の言葉から乖離している点が問題だなどと言う一方で、誤解を生む表現を平気で使用している。司法試験の制度面についてだけでなく、どうも法務官僚たちの感覚は異常だと考えます。
 そういえば、丙案では「合格枠」などというこれまたおかしなネーミングをしていましたよね。合格枠って通常の語感からしたら、合格定員数全体を示すはずですよね。
公開会社の誤解? (黒猫)
2007-01-22 17:33:38
 会社法に「公開会社」という用語があることはもちろん知っていますが,その「公開会社」という用語を聞いて,一般の方が一体どのような誤解をされているのでしょうか。黒猫もそれは初耳の話なので,差し支えなければ教えて頂けませんか?
 なお,丙案については,法務省は「無制限枠」「制限枠」という言い回しを使っていました。似たようなものかもしれませんが。
Unknown (dedeko)
2007-01-23 07:12:41
 株式を上場している会社の意味に受け取とってしまいます。弁護士先生の間でも、この点からやりづらいという批判が結構あるようです。
 丙案の広報用ポスターでは「合格への夢広がる合格枠」とか謳っていました。
合同会社 (合同会社)
2007-01-24 00:35:12
合同会社の情報サイトです。
やっぱりね・・・。 (黒猫)
2007-01-28 01:50:38
> dedekoさんへ
 事務所で、ある事務員さんに「公開会社」と聞いてどんな会社を連想するかと聞いて見たところ、やはり上場会社というような答えが返ってきました。
 まあ、株式の譲渡制限を設けない会社(これが公開会社の正しい意味)というのは、大抵が上場会社か、少なくとも上場を目指す会社ということでしょうから、「公開会社」を上場会社のように考えても「当たらずしも遠からず」といったところだとは思いますが、確かに説明は必要ですね。