黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

評議員は「役員」か?

2007-10-15 01:46:53 | 司法一般
 しばらく更新が滞っていたので、本題に入る前に、司法試験関係のニュースについて2つばかり言及します。

1 旧司法試験第二次試験の論文試験の結果
 法務省のHPによると、今年の合格者は250人で、合格基準点は132.00点とのことです。合格基準点の素点としては、合格者数1500人枠だった平成17年度の132.75点をも下回り、合格基準点が公表されて以来最低の数字になっています。
 今年合格された方には冷や水を浴びせるようなコメントになると思いますが、旧試験は合格枠が減った分以上に人気も低下し、もはや旧試験に合格したからといって少数精鋭とは評価できないのが実態になっているのかなあ、という印象を受けます。
 なお、旧試験の合格基準点については、以前コメント欄で「新司法試験の実施により、旧試験の採点基準も改定され、以前のように論証を分厚く書いても得点にならなくなった」というご意見がありましたが、少なくとも黒猫が受験していた時代には、論証を分厚く書いて勝負するなどという時代はとうに終わっており(ベテラン受験生については、むしろ論証が分厚くなりすぎて落ちるケースがあり、早稲田セミナーではコンパクトな答案をまとめる指導が行われていたほどでした)、そのような採点基準の改定により平均得点が伸びなくなったという考え方には説得力が感じられないので、このような見解は採りません。

2 考査委員による答案練習会の実施
 日経の記事によると、10月5日、文部科学省が全国の法科大学院を対象に新司法試験対策の状況を調べた結果を公表し、それによると、答案練習や受験指導などの受験対策を実施していたのは全体の7割にあたる54校で、考査委員が答案練習などに関与していたのも、慶大の元教授を含めて全部で4人いたそうです。
 新司法試験。新しいはずなのにもう腐り果てている。

 一応ここからが本題です。
 10月の「LIBRA」(東京弁護士会の広報誌)で、黒猫の執筆した「公益法人改革三法」という記事が掲載されました。この記事は、民法改正という大テーマの中で、最近民法の法人に関する規定の大部分が削除され、民法法人の制度が一般社団(財団)法人及び公益社団(財団)法人の制度に再編されるという改正があったので、この改正の概要について説明したものです。
 ただ、その記事の中で、一般財団法人の「評議員」について、これを役員であると説明しており、この部分は編集段階で副会長からも物言いが付いて物議を醸したりしたので、このへんの経緯について説明しておこうと思います。

 一般社団・財団法人法は、平成19年12月から施行されることに決まったようですが、この法律に定める一般財団法人では、理事・理事会及び監事とともに、「評議員」と「評議員会」が必置機関として定められています。
 評議員会は、一般社団法人における社員総会に相当する権限を有する機関ですが、一般財団法人では社員に相当する立場の者がいないため、社員と評議員の法的地位は大きく異なり、そのために社員総会と評議員会の位置づけも異なるものになっています。
 一般社団法人における社員は、いわゆる法人のオーナーであり、社員としての権利行使につき、第三者に対し責任を負うなどということはありません。
 これに対し、一般財団法人における評議員は、財団との関係は委任に関する規定に従うものとされ、理事や監事と同様に欠格事由もあり、その報酬等は定款で定められ、その任務を怠ったときは財団に対して損害賠償責任を負い、任務懈怠に悪意重過失があったときは第三者に対しても損害賠償責任を負います。
 なお、評議員は3人以上必要であり、任期は原則として4年(ただし、定款で6年まで伸長可能。任期の区切りは定時評議員会終結時)とされています。評議員の選任及び解任の方法は定款で定められますが、理事や理事会が評議員を選任し、または解任する旨の規定を設けることは出来ません。
 以上のような点をとらえて、黒猫は「評議員は法人の役員である」といった表現を使ったのですが、これに対して評議員が役員だというのはおかしいのではないかという物言いがついたわけです。

 そこで、「役員」とは何かという問題が生ずるわけですが、会社法では取締役・監査役・会計参与(329条)とされている一方、会社法施行規則では「取締役、会計参与、監査役、執行役、理事、監事その他これらに準ずる者」(2条3項3号)となっています。
 そして、ウィキペディアの説明によると、一般的な意味では、役員とは「会社の業務執行や監督を行う幹部職員」のことをいい、上記のほか執行役員まで含む意味であることが多いとされています。
 上記に挙げられている「取締役」は、現行会社法では株式会社の組織形態によってその役割が異なり、取締役会を設置しない会社での取締役は業務執行者、取締役設置会社での取締役は取締役会の構成員(会社の業務を執行するものとするかは各会社の任意)、そして委員会設置会社の取締役は執行役による業務執行の監督を行う役職と位置づけられ、法令に別段の定めがある場合を除くほか、委員会設置会社の業務を執行することができないものとされています。
 さて、一般財団法人の評議員会は、法人の監督機関と位置づけられているわけですが、現行法でこれに最も近い制度は、おそらく委員会設置会社における取締役会でしょう。監督機関というだけでなく、業務執行者である理事(執行役)の選任権があるという点でも似ています。
 そして、委員会設置会社の取締役が役員だというのであれば、一般財団法人の評議員を「役員」と言っても何ら差し支えはないはずです。

 ただ、理屈で押せば以上のとおりで終わりですが、世の中理屈だけでは処理できない問題もあります。従来、評議員会という機関は団体の最高意思決定機関とされている例もありますが(学校法人慶應義塾の評議員会など)、理事や理事長の諮問機関とされ、評議員を理事長などが委嘱している例も少なくありません。特に後者の用例に慣れている人だと、評議員が役員だと言われるのはかなり違和感があるでしょう(もっとも、一般社団・財団法人法における評議員会は、後者の用例で使われているような意味の評議員会とは異質のものです)。
 また、一般社団・財団法人法でも、評議員の法的地位について理事や監事などと同様の規定を置いて置きながら、評議員が「役員」であるかという問題についてはかなり曖昧な態度を取っています。
 まず、「役員」という言葉が使われているのは63条で、理事及び監事をいうものとされています。ただし、これは一般社団法人における「役員等の選任及び解任」について定めた法63条から75条までの定義であり、一般社団・財団法人法全体の定義ではありません。
 次に、「役員等」という言葉が使われているのは111条で、理事、監事又は会計監査人をいうものとされていますが、これも一般社団法人における「役員等の損害賠償責任」について定めた111条から118条まで、及び関連する登記事項について定めた301条に限定された定義です。
 「役員等」という言葉は、一般財団法人の役員等の損害賠償責任について定めた198条にも登場し、同じく理事、監事又は会計監査人をいうものとされていますが、これも198条及び302条限定の定義です。
 しかも、198条は一般社団法人に関する規定の準用条文であり、「役員等」という規定の多くを「役員等又は評議員」と読み替えており、それでも敢えて「役員等」から評議員を外す規定振りにしているのは、単に評議員の責任については責任の免除や責任限定契約に関する規定が適用されないと言いたいだけだと思われます。

 要するに、一般財団法人における評議員の法的地位については、そもそも十分な議論がなされないまま制度だけポンと作られてしまった感があるのですが、これは評議員が「役員」であるかというような哲学めいた問題にとどまるものではなく、そもそも評議員会とは何のためにあるのかという実質的な問題にも波及してきます。
 委員会設置会社と比較してみると問題点が顕著になるのですが、委員会設置会社では、取締役会が執行役の業務執行を監督することになっているため、監査役や監査役会は設けられていません。監査委員会はありますが、監査委員会の委員は取締役会で取締役の中から選任され、いわば取締役会の内部機関のような存在です。
 これに対し、一般財団法人では法人の監督機関として評議員会が存在する一方で、同じく法人の監督機関である監事も置かなければならず、監事は理事と同様評議員会で選任するものの、監事と評議員は兼任禁止・・・
 既に出来てしまった法律の解釈論としても、監事と評議員の役割分担はどのようなものかということは問題になりますが、そもそも立法論として、監督機関として評議員会の設置を義務づけるのであれば、監事の機能は評議員会が担えばよく、別に両方の設置を義務づける必要はなかったのでは・・・。
 然るに、なぜこのように不合理な法規制が、さしたる反対もなしにまかり通ったのか。ここからは完全な下衆の勘ぐりになりますが、一般財団法人に関する規定の適用を受けるのは、新法施行後新たに設立されるものを除いては、天下りの温床などと批判された民法上の財団法人。そういう団体に天下っている元官僚たちにしてみれば、一般財団法人に余計なポストを設けることは、天下り先のポストが増えるので歓迎こそすれ、反対する理由はないですよね・・・。

 このように、副会長からの物言いを受けて、評議員が「役員」かどうかを考えているうちに、自分でも訳がわからないくらい話が複雑になってしまい、なおもクレームがつくようであればこの部分の表現は変えてもよいかと思っていたところ、結局それ以上物言いはつかず、そのまま記事になってしまったわけです。
 結論。評議員が「役員」であるかどうかは、突き詰めて考えていくといろいろ難しい問題はありますが、少なくとも評議員の法的地位は役員である監事などのそれに近く、その任務を怠れば法人や第三者に対する損害賠償責任を負うこともありますので、例えば弁護士として公益法人関係の仕事をしていて「財団の評議員になってください」と頼まれたら、評議員は役員と同じようなものだという覚悟で引き受ける必要があるということです。
 黒猫の書いた記事にある「評議員も法人の役員」であるという表現は、そういう注意を喚起するものであるという趣旨で読んでください。

4 コメント

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法人 (地獄修習生)
2007-10-16 01:28:40
記事執筆お疲れさまでした。このブログでは、こういう実際的な話題も多いので、参考になりますね。
Unknown (Unknown)
2007-10-17 09:12:35
黒猫様。右の件に関してコメントをお願いします。⇒『自民党は16日の司法制度調査会(臼井日出男会長)で、2010年度までに司法試験の合格者数を年間3000人程度に増やすとした政府目標の見直しの是非を検討することを決めた。 政府目標は02年3月に閣議決定。02年度に1183人だった合格者数は06年度に1558人に増え、今年度は約2100人を見込んでいる。しかし、法曹関係者からは「合格者数が多すぎると弁護士の過当競争が起きる」などの反対意見が出ており、鳩山法相も「3000人は多過ぎる」などと発言した経緯がある。(2007年10月16日19時29分 読売新聞)』
Unknown (nov)
2007-10-19 01:31:02
250人というのはえらくきりのいい数字ですね。

これ以上人数増やすとさらに、合格点が下がってしまうので、このあたりにしたとか。(ただの妄想^^;)
Unknown (Unknown)
2007-10-21 19:08:44
先生に質問なんですが、四大とかの場合
30人くらい入社したらどれくらい残れるんですかね??

みな留学から帰ってきたら事務所辞めるんでしょうか?