大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年06月07日 | 植物

<2710> 大和の花 (814) ノイバラ (野茨)                                          バラ科 バラ属

         

 河原や池辺、原野の草叢、林縁など至るところに生える落葉(ときに半落葉)低木で、高さはおおきいもので2メートルほどになる。樹皮は黒紫色で、新枝は緑色をなし、湾曲する鋭い刺が見られる。葉軸には軟毛と小さな刺が見られる。また、葉柄には柄に合着する托葉があり、縁には長いヒゲ状の部位が多く目につく。部位の先は腺になる。

  葉は長さが10センチほどの奇数羽状複葉で、小葉は長さが2センチから5センチの卵形から長楕円形で、葉柄の軸に7個から9個つき、側小葉より頂小葉がやや大きい。また、小葉には縁に鋭い鋸歯が見られ、光沢はない。

 花期は5月から6月ごろで、枝先の円錐花序に芳香のある直径2センチほどの白い5弁花を多数つけ、花どきには存在感がある。雄しべは多数で、葯は黄色。雌しべは花柱が合着して花の中央に立ち、無毛。実は偽果で、萼筒が肥大して液果状になった直径6ミリから9ミリの大きさ。秋に赤く熟す。熟した実を日干しにしたものを漢方では営実(えいじつ)と称し、煎じて利尿、下剤などに用い、おできや腫れ物にも用いられる。

  また、ノイバラはバラの園芸品の台木に用いられることが多く、赤い実のついた枝は野趣に富み、秋の趣として活け花に活用される。そのほか、花は香りがよいので、香水の原料にされる。なお、ノイバラ(野茨)の名は、野に生えるイバラの意で、イバラは刺のある低木の総称。ノバラ(野薔薇)と呼ばれるのはこのノイバラである。

  北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島に見られるという。大和(奈良県)では全域的に見られ、同属の他種を圧倒している。古くは『万葉集』に「うまら」の名で登場する。所謂、万葉植物である。 写真はノイバラ。左から池水に映す花期の姿、花序ごとにいっぱい咲いた花、枝木いっぱいの実、雪を被り映える赤い実。      野茨の花咲き花の存在感 

<2711> 大和の花 (815) ミヤコイバラ (都茨)                                   バラ科 バラ属

         

 低山や丘陵地のやや乾いた林縁などに生え、他の木に絡んで伸び上がることの多い落葉低木で、長い枝は垂れ下がり、高さは3メートルほどになる。新枝は緑色で、やや鉤状の大きい刺があり、ほかに小さい刺や腺毛がある。葉は長さが5センチから12センチほどの奇数羽状複葉で、互生し、長さが2センチから3センチの小葉が5個から9個。頂小葉と側小葉はほぼ同等で、縁に鋭い鋸歯があり、両面とも無毛。裏面は白色を帯びる。

 花期は6月から7月ごろで、枝先の円錐花序に白い5弁花を多数つける。ノイバラよりやや遅れて開花し、直径2センチから3センチで、ノイバラよりもやや大きい。雄しべは多数で、葯は黄色。雌しべの花柱は合着して太い柱状になり、毛が見られる。葉には変異があり、ノイバラと判別し難いところがあるが、花柱における毛の有無によってわかる。実は直径6、7ミリの卵球形の偽果で、秋に赤く熟す。

 本州の新潟、長野、静岡県以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、西南日本を南北に分ける中央構造線を境にヤブイバラと住み分け、北側の内帯にミヤコイバラが分布し、ヤブイバラ(薮茨)は南側の外帯に分布すると言われ、大和(奈良県)でもその分布の調査報告がなされている。ミヤコイバラの名はミヤコグサ(都草)と同じく、京都周辺に多いことによるという。

 写真はミヤコイバラ。ウメモドキに寄り添って枝を伸ばし、花を咲かせる個体(左)、花のアップ(中)、刺や腺毛や托葉が見られる枝葉(いずれも奈良市の磐之媛命陵外堀の堤)。   トマトトマト花咲き始む期待感

2712> 大和の花 (816) ヤブイバラ (薮茨)                                         バラ科 バラ属

                                              

 山地の林縁などに生える落葉低木で、幹はほかのものに寄りかかって伸び上がり、高さが2メートルほどになる。寄りかかるものがない場合、横に広がり薮状になるのでこの名がある。葉は長さが3センチから5センチの奇数羽状複葉で、小葉は5個から7個つき、頂小葉が側小葉よりやや大きい。頂小葉は長さが1.5センチから3センチの卵状披針形乃至は披針形で、この葉の形状により他種との判別が出来る。托葉は葉柄に合着し、縁に腺毛がある。

 花期は5月から6月ごろで、枝先にわずかに芳香のある白い5弁花を数個ずつ集めてつける。別名のニオイイバラ(匂茨)はこの芳香による。花は直径1.5センチほどで、他種に比べて小さい。雄しべは多数、葯は黄色。雌しべは花柱が合着し、花柱には綿毛が密生する。偽果の実は直径数ミリのほぼ球形で、秋に赤く熟す。

 本州の山梨、神奈川両県以西、四国、九州の中北部に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では吉野川に沿って東西に延びる中央構造線のほぼ南側、外帯に見られ、北側の内帯に分布するミヤコイバラと住み分けている。 写真はヤブイバラ。左から花盛りの枝木、黄色い雄しべが目立つ花のアップ、葉と托葉と刺(大台ヶ原ドライブウエイほか)。      懸命と一途高々揚げ雲雀

<2713> 大和の花 (817) フジイバラ (富士茨)                                        バラ科 バラ属

                

 バラ属の中では標高の高い日当たりのよい疎林内や林縁または岩場に生える落葉(または半落葉)低木で、幹が太く、直径10センチ以上、大きいものでは20センチになり、他物に寄りかかって伸び上がり、よく枝を分け、高さは2メートルから3メートル。枝葉など全体的に毛がなく、他種との判別点になる。

 葉は奇数羽状複葉で、小葉が7個から9個つき互生する。小葉は長さが3センチから5センチの楕円形に近く、頂小葉と側小葉はほぼ同大。表面はやや光沢のある濃緑色で、裏面は白っぽい。葉柄の基部につく托葉は先が細く反り返り、縁に腺毛が鋸歯状につく。

 花期は6月から7月ごろで、枝先に円錐花序を出し、多数の花がつく。花は直径2.5センチほどの白い5弁花で、平開する。花弁は倒心形で、先が凹む。雄しべは多数。葯は黄色。雌しべの花柱は合着して立ち、有毛。偽果の実はほぼ球形で、秋に赤く熟す。 

 本州の中部地方と紀伊山地、四国(北部)に分布する日本の固有変種で、フジイバラ(富士茨)の名は富士山に見られることによるとう。大和(奈良県)では台高山脈並びに大峰山脈の高所部に見られ、本州における南限に当たるが、自生地も個体数も少なく、その上、シカの食害が見られるところから、奈良県のレッドデータブックでは危険レベルの最も高い絶滅寸前種にあげられている。

 写真はフジイバラ。他の木に寄って花を咲かせる個体(左・後方は行者還岳)、花がいっぱいの花期の姿(中)、赤い実をつけた果期の姿(右)。いずれも山上ヶ岳。     一生(いちせい)の在処(ありか)を告げて乞ふごとく深夜未明に鳴くほととぎす

<2714> 大和の花 (818) モリイバラ (森茨)                                  バラ科 バラ属  

                         

 山地の疎林内などに生える落葉低木で、高さが1メートルほどになる。枝は緑色を帯び無毛。葉は長さが4センチから10センチの奇数羽状複葉で、小葉が3個から7個つく。小葉は広卵形のものが多く、楕円形のものも見られ、頂小葉が側小葉よりもやや大きい。両面とも無毛で、縁には鋭い鋸歯が見られ、先は鈍頭。托葉は葉柄と合着し、縁に腺毛がある。

 花期は5月から6月ごろで、枝先に3センチ前後の花柄を伸ばし、直径が2.5センチほどの白い5弁化を普通1、2個つける。花弁の先は窪む。雄しべは多数で、葯は黄色。雌しべの花柱は合着して立ち、有毛。花柄には腺毛があり、果期になると目立つ。実は偽果で、長さが1センチ前後の広楕円形。秋に赤く熟す。ミヤコイバラの亜種とも言われ、よく似るが、本種は花が1個ずつ、ときに2、3個つき、花数が少ない。

 本州の関東地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では散在して見え、個体数も多くなく、出会い難いところがある。 写真はモリイバラ。花と蕾(左)、葉と托葉(中)、長い柄の先につく1果(右・柄には腺毛が見える)。     三山は三山の位置夏来たる

<2715> 大和の花 (819) テリハノイバラ (照葉野薔薇)                                    バラ科 バラ属

       

 日当たりのよい海岸に多く、河原や岩場などにも生え、地を這うように枝を伸ばすのでハイイバラ(這茨)の別名もあるつる性の落葉(または半落葉)低木で、枝は無毛、鉤形の刺が見られる。葉は長さが4センチから9センチの奇数羽状複葉で、小葉は3個から5個つき、互生する。小葉は長さが1センチから2センチの楕円形または広倒卵形で、頂小葉と側小葉はほぼ同大。なお、葉の表面に光沢が見られるのでテリハ(照葉)のこの名がある。縁には腺のある鋸歯が見られる。托葉は緑色で、他種に比べ短くずんぐりとした感じがある。

 花期は6月から7月ごろで、枝先に芳香のある白い5弁花が総状に普通数個集まりつく。花は直径3センチから3.5センチと大きい。雄しべは多数で、葯は黄色。雌しべの花柱は合着して立ち、有毛。実は偽果で、直径6ミリから8ミリほど。秋に赤く熟す。

 本州、四国、九州、沖縄に分布し、国外では朝鮮半島から中国、台湾に見られるという。海を有しない、大和(奈良県)では自生地は多くないが、南部の十津川や北山川で見かける。また、ところによって山地の岩場でも見られ、香芝市の屯鶴坊や曽爾高原で見かけたが、花の乏しい個体が多いような印象を受ける。なお、テリハノイバラは園芸用の台木にされることで知られる。 写真はテリハノイバラ。左から岩壁に這う個体(北山川の瀞峡)、花(曽爾高原)、実(瀞峡)、葉と托葉と刺(瀞峡)。        曇天下大和国中田植時

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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