大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2021年05月31日 | 植物

<3423> 奈良県のレッドデータブックの花たち (57)  オタカラコウ(雄宝香)          キク科

                             

[学名] Ligularia fischeri

[奈良県のカテゴリー]     絶滅危惧種

[特徴] 暖温帯上部から冷温帯域の渓谷や渓流岸の湿気のあるところに生えるメタカラコウ(雌宝香)の仲間の多年草で、花茎は直立してメタカラコウより大きく、高さが1~2メートルになる。長い柄を有する根生葉があり、フキの葉に似て、大きく、直径40~60センチの円心形で、縁には鋸歯が見られる。花期は7~10月で、花茎の上部に黄色の頭花を総状につけ、下から順に開花して行く。頭花は舌状花と筒状花からなり、舌状花は普通8個で、メタカラコウより多く、全体にボリュウムがある。

[分布] 本州の福島県以西、四国、九州。国外では東アジア、ヒマラヤ地方などに広く見られる。

[県内分布] 御所市、五條市、野迫川村、東吉野村、御杖村、天川村、上北山村の山地渓谷沿い。

[記事] 大和(奈良県)ではメタカラコウより生育地も個体数も多いが、レッドデータブックには互いに絶滅危惧種としてあげられている。なお、オタカラコウ(雄宝香)はメタカラコウ(雌宝香)の雌に対し、雄の意。タカラコウ(宝香)はリュウノウコウ(龍脳香)のことで、香りがリュウノウコウに似るからと一説にある。 写真は左から金剛山の個体、稲村ヶ岳(稲村ヶ岳と大日山のキレット)の個体、花序のアップ。

   時は万物に公平であり

     分け隔てなく直である

 


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2021年05月30日 | 植物

<3422>「大和の花」追記(1152)  サラサウツギ(更紗空木)                  ユキノシタ科 ウツギ属

                            

 ウツギの八重咲で、花弁の外側が紅紫色、内側が白色の品種のもの。明るい雑木林や林縁に生える落葉低木で、中空の幹や枝は高さが1メートルから2メートルに及んで繁る。葉は卵形から卵状披針形で、柄を有し、対生する。葉や柄など全体的に星状毛が多い。

 花期は5月から6月ごろで、枝先の円錐花序に多数の花をつけ、花は樹冠を被い尽くすほどになる。花は重弁で、普通花弁の外側が紅紫色、内側が白色の更紗に現われるのでこの名がある。別名はヤエウツギ。花弁に紅紫色が入らない純白のものはシロバナヤエウツギという。実は蒴果で、椀形。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島にも見られるというが、大和(奈良県)での自生は見かけない。専ら観賞目的として庭木や生垣、乃至は公園樹として植えられている。花弁の量が多く、散り敷くさまはまさに雪が積もったように見える。 写真は花期のサラサウツギ(左)と花のアップ(右)。大和郡山市の大和民俗公園で。 雨のち晴出かけて見れば花盛り更紗空木の公園通り


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2021年05月29日 | 植物

<3421> 「大和の花」追記(1151)  ペラペラヨメナ(ぺらぺら嫁菜)                  キク科 ヨメナ属

                

 道端の石垣などで見かける中央アメリカ原産の多年草で、観賞用として導入されたものが逸出し野生化したもので、戦後間もないころ京都市内でみつかり、現在では関東以西に分布していると言われる。大和(奈良県)においてもところによって石垣などに繁茂し、花を咲かせているのが見られる。

 細い茎は基部で分岐し、斜上または匍匐して長さが50センチほどになり、群生する。下部の葉は有柄で、3~5裂し、上部の葉は無柄で鋸歯がなく互生する。花期は5月から10月ごろと長く、枝の先に直径2センチほどの頭花をつける。

   頭花は外側に白色から紫色の舌状花を多数密につけ、内側に黄色の筒状花をびっしりつける。実には冠毛がある。 写真は逸出か、植栽起源か、山足の斜面に群生して花を咲かせるペラペラヨメナ(左)と頭花のアップ(右)。御所市で。

   外来植物と外来文化には共通項がある

   出向き発する側と迎え受け入れる側があり

   ともに積極性をもってその展開がなされるということ

   殊に受け入れ側の迎える環境の素地が整っていること

   この条件下の状況にあればスムーズにことは運ぶ

   ときには滲み出し 滲み入るように

   またときには何かのきっかけによって爆発的に展開する

   それは一種の勢いと力関係にあって成り立つ

 


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2021年05月28日 | 植物

<3420> 奈良県のレッドデータブックの花たち (56)  オケラ (朮)                        キク科

                 

[別名] ウケラ(古名)

[学名] Atractylodes ovata

[奈良県のカテゴリー]  絶滅寸前種

[特徴] 山地のやや乾いた林床や草地に生える多年草で、大きいものは高さが1メートルほどになる。茎は細くて堅く、はじめ白い軟毛が見られる。葉は3~5裂し、裂片の縁には刺になった鋸歯がある。葉は長い柄を有し互生する。雌雄異株で、花期は9~10月。茎頂及び茎上部の葉腋に白色、ときに淡紅色のアザミの花に似た筒状花の集まった頭花をつける。頭花は直径2センチ弱。総苞に魚の骨状の総苞片が取り巻く。実は痩果で、冠毛は羽毛状。  写真左からら白花、白花のアップ、紅花。ともに雌花(葛城市の山中)。

[分布] 本州、四国、九州。国外では朝鮮半島。

[県内分布] 香芝市、葛城市、御所市の山中に自生するが、限定的で個体数も少ない。一昔前まではありふれた普通に見られる草本だったが、「松枯れなどによるアカマツ林の消失とともに生育地が減少したことも絶滅の一因である」と奈良県のレッドデータブックは指摘している。

[記事] 『万葉集』にはウケラ(宇家良)と見え、「うけらが花」で巻14の東歌4首の恋歌に詠まれている。根茎は皮のついたままのものを蒼朮(そうじゅつ)、皮を除いたものを白朮(びゃくじゅつ)と称し、蒼朮はこれを焚きくすべて、湿気払いやカビ防止に、白朮は煎じて服用し、利尿、健胃、整腸などに用い、古くから薬用植物で、庶民の間でもよく知られていたのだろう。 また、「山でうまいはおけらにととき」と俚謡に唄われているように若芽は美味。「ととき」はツリガネニンジンのこと。なお、祇園祭りで有名な京都・八坂神社の大晦日から元旦に行われるオケラに関わるおけら詣りや白朮祭(おけらさい)はよく知られる。

   親しさは身近にあって

         触れ合うことによって増す

   山野に繁く足を運んでいると

   そこに生えている草木と

         親しくなり そして また

   出かけて会いたくなる


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2021年05月27日 | 写詩・写歌・写俳

<3419> 野鳥百態 (20)  コサメビタキの子育て

            

      子育てはかくあり 親の細る身の見ゆるに 健やかなる雛の声

 五月。繁殖期を迎えたコサメビタキのカップルがエノキの太い枝の股にウメノキゴケなどを材にお椀型の巣を作り、産卵し抱卵に入った。巣のある股の枝は一方が横に張り出し、他の一方が斜めに立ち上がって葉を繁らせ、少しの雨なら凌げるようになっていて四六時中どちらかが巣に蹲って卵を抱いた。

   巣の近くにはカラスが二羽陣取って虎視眈々と卵を狙っている様子。コサメビタキはそれを先刻承知。目を光らせ巣を空けることはほとんどなかった。結果、抱卵して一週間ほど後、四羽のヒナが前後して姿を現わした。ヒナの誕生後は、メスが付き切りで、オスがエサの運び屋に徹し、ひっきりなしに青虫などのエサを運んだ。

 エサはメスに渡し、メスがヒナに振り分けるというやり方をしていた。メスは常時巣にいてよくわからなかったが、オスは自分の食べ量を我慢して母子五羽にせっせとエサを運び、痩せ細ったスリムな体形になってその涙ぐましい努力を印象づけるところがあった。

 巣立ちするまでの間、一度だけ烈しい風雨に見舞われた日があった。巣に蹲るメスは四羽のヒナを羽毛に包んで凌いだようで、風雨に曝された巣にヒナの姿は見えなかった。雨上がりの翌朝、巣を見に行くと、コサメビタキの親子はみな元気にしていた。

   それから暫くして、四羽は巣立った。巣立ちには残念ながら立ち会えなかったが、無事に巣立ったと聞いた。数日後、出かけてみると、巣の近くの木々で元気よく飛び交う姿が見られた。写真には撮れなかったが、多分、巣だったコサメビタキに違いと思えた。

 写真は大きく口を開けて運ばれて来るエサを待つコサメビタキのヒナたち(左・寄り添うのはメス)、エサの青虫を咥えたオス(中・自分では食べず、巣に運んだ)、痩せ細って枝にとまるオス(右・つかの間の休憩と見えた)。