大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2012年05月04日 | 祭り

<245> 地黄 (じお) のススツケ祭り

        変遷は世の常である

    人も然り 行事も然り

    これみな 生の仕儀

 野神行事の一つとして知られる橿原市地黄町のススツケ祭りは、東日本大震災のあった昨年、裸の子供たちに墨汁を塗って五穀豊穣と子供たちの成長を願う墨付けが中止になって、今年も行なわれなかった。近年、地黄の集落では、祭りを主催する当屋の巡り来る家々で高齢化が進み、子供が少なくなって来た。この状況下にあって東日本大震災が起こり、これがきっかけとなって中止に至ったという。

 野神信仰は大和の平野部一帯に見られるもので、塚や祠や樹木(エノキやクスノキ)などを依り代に農耕の守護神を祀り、田植え前の五月から六月にかけて五穀豊穣と子孫繁栄の祈願を込めて祭りの行事を行なう。この野神の行事は極めて習俗的なもので、「大和の野神行事」として国選定の無形民俗文化財になっている。

 奈良盆地の北部と中南部で野神の行事は形態が異なり、地黄のような中南部では子供を中心に行なわれ、藁で作った大蛇(とぐろを巻く蛇巻き)の見られるのが特徴としてあり、地黄の墨付けはかまどを使用していた当時の煤によったススツケがもとで、大和では地黄のススツケ祭り一箇所だけだった関係もあって、この中止を惜しむ声もあると聞く。

                                        

 今のところ復活の見通しはなく、これからは蛇巻きを野神さんへ持参して祀ることのみが行なわれる。子供たちの墨付けの写真は十年ほど前に撮影したもの。合理主義に沿う現代社会は野神行事のような精神性に富んだ行事には与さないところがあり、このような中止という仕儀になったわけであるが、残念ながら、これに対し、私には惜別の念をもって写真掲載に当たるくらいしか出来ない。

 藁で作った蛇巻き、牛馬の農耕絵馬一対、ブリ一尾が四日の夜、みんなで作り、揃えられ、端午の節句の五日早朝、集会所に泊り込んだ子供たちによって一キロほど離れたクスノキに被われた野神のへ運ばれ、祀られる。写真の左二枚は四日夜の撮影。左が絵馬の準備、右が準備の整った蛇巻きと絵馬とブリ(人麿神社境内の集会所で)。