大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2012年02月12日 | 祭り

<163> おんだ祭り (御田植祭) (4)
           少子化を 問はれて久しき この国は 何処へ向かひ ゆくのであらう
  最近、民俗的な祭りに興味を持ち、よく見学に出かけている。おんだ祭りもその一つで、既に何箇所か見学している。おんだ祭りは稲作に関わる御田植祭のことで、 正月から田植えの始まるころ、 大体、 一月から六月ごろの間に行なわれ、 特に農閑期の二月に集中的に見られる。最近は、会社勤めの人が多くなった関係もあって、休日を祭りの日に当てるところが増え、昨日の建国記念の日には大和でも八箇所の神社でおんだ祭りの御田植祭が行われた。
 大和は山に囲まれた水源の地であるとともに、国家発祥の地として歴史が古く、古社寺の多い土地柄にある関係で、古式に則った民俗的な祭りが各地に見られ、 収穫時に行なわれる感謝を込めた秋祭りとともに豊作の祈願を込めた春のおんだ祭り(御田植祭)も盛んに行なわれ、今もその数は六十以上に及ぶ。
  この六十以上は、他の都道府県に比べ、 ずば抜けて多い数であると思われるが、紀伊半島の山間地にはほとんど見られない。これは、この祭りが稲作に関わる農耕儀礼であり、農耕文化の一面を表しているということを示すものである。そして、この農耕文化こそ我が国の文化を代表して来たもので、我が国が有する精神の根幹をなして来たものであることが言える。
  それが、近年、欧米化の影響や国政の方針によって、我が国は農林水産業の第一次産業から製造業などの第二次産業やサービス業などの第三次産業へのシフト移行がなされ、人口も都市への集中が著しく進み、五穀豊饒による子孫繁栄、それに伴う国家の安泰という第一次産業に伴い育まれて来た農耕文化に基づく精神的基盤が徐々に崩れ、今に至っているのである。
  それは、 都市への人口集中の反面である過疎化による限界集落の出現状況を物語るものであるが、それだけに止まらず、地域社会の崩壊にも繋がっていることが示されており、これには、前述したように文化の欧米化乃至はグローバル化に加え、国の方針が大きく関わっていることが言える。
 今や我が国は少子高齢化が深刻な悩みになっているが、 これは生産優先の第一、第二次産業から消費優先の第三次産業への方向づけと軌を一にしており、これは五穀豊穣と子孫繁栄を基にしてある農耕文化が有する精神の衰退に一致するものであって、現在の少子高齢化問題もこの点においてみれば、必然的に生じて来ったことがわかる。
  大和に見られるおんだ祭り(御田植祭)の中でも地域の氏子らによって細々ながら支えられている祭りでは、やはり、少子化の問題は直に影響していて、現場に立ち会うとその深刻さが聞えて来るのであるが、大和には我が国の精神の根幹を貫いている農耕文化の象徴であるおんだ祭りの御田植祭がよく残っており、この民俗的祭りが私たち日本人の精神上の最後の砦のように見え、グローバル化する文化的時代の流れの中でよく踏ん張っていると思え、見学していて何か涙ぐましいような気分になることもある。
  本当に、 私たち日本人は どこを目指して 進もうとしているのだろうか。ここには 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の 問題なども 関わりのあるところで、おんだ祭り(御田植祭)は村や町の片隅で行われている小さな祭りであるけれども、日本の精神の行方を思わせるところが見られるのである。で、この先、私たちがどのような文化を築き、やって行こうとしているのか、頑張っているおんだ祭り(御田植祭)の古式の催しはこの点も大いに考えさせるところがある。
  よく見ると、 おんだ祭り(御田植祭)は田植えに伴う一連の所作だけでなく、いろんな趣向を試みているのがうかがえ、見学する者を楽しませてくれるが、中には子供の参加を促しているところも見られ、農耕による昔からの文化をこれからも伝えて行きたいという意志が見え、この試みが祭りの継承にも関わる重要なことであることが主催者にも自覚されているのがわかる。はっきり言って、岐路に立つ日本において、 おんだ祭り(御田植祭)は小さな祭りながら重要な精神的意味を持って行われていると言えるのである。
                                 
  今日は、大和におけるおんだ祭り(御田植祭)に対する印象を述べるに行数を取ってしまったので、昨日の夜見学した磯城郡川西町の六縣(むつがた)神社の「子出来おんだ」の御田植祭については、 写真のみ一部採り上げ、明日の<164>に記したいと思う。右の写真はツバキの葉を早苗に見立てて田植えの所作を行なう農夫役の青年。右は弁当を頭に載せて歩く妊婦役。子供たちとの掛け合いによって祭りは盛り上がった。