大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2022年05月31日 | 植物

<3785>奈良県のレッドデータブックの花たち(223)ヒノキバヤドリギ(檜葉寄生木)       ビャクダン科

                   

[学名] Korthalsella japonica

[奈良県のカテゴリー]  希少種

[特徴] ツバキ科、モチノキ科、モクセイ科、ツツジ科などの常緑樹に着生する半寄生の常緑小低木で、高さは20センチ前後、節のある緑色の扁平な枝が2~3股に伸びる。葉は退化し鱗片状になってつく。雌雄同株で、花期は春秋2季に見られ、直径1ミリほどの小さな黄色の花が枝の先や節の腋に1~5個つく。

 液果の実は長さが2ミリほどの広楕円形乃至円形に近く、淡緑色から橙黄色に熟す。種子は粘着力があり、他物に付着するようになっている。ヒノキバヤドリギ(檜葉寄生木)の名は緑色の枝がヒノキの葉に似て、半寄生することによる。

[分布] 本州の関東地方以西、四国、九州、沖縄。国外では中国、台湾、東南アジア、オーストラリア。

[県内分布] 奈良市、葛城市、十津川村。

[記事] 現在確認あれているものは極めて少ない。常緑樹の樹上着生のため見つかり難く、レッドデータブックは「実態がよく分かっていない」としている。今後の調査次第では増える可能性もある。  写真はツバキに着生して枝を伸ばすヒノキバヤドリギ(右)、花(中)、液果(右)。

   植物にとって

         花の実質は

         実境において

         目立つか

         目立たないか

         ではなく

   花の役割として

         機能しているか

         どうかである


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2022年05月30日 | 創作

<3784> 作歌ノート  雑纂 回顧

                宴会果てひとり家路に向かふとき定家の一首月影よりぞ    宴会(うたげ)

 酒も飲めず、話もまずく、唄などもうたう気になれず、どうも、宴会というやつは好きになれない。けれども、付き合いとあれば、仕方なく出る。そんな宴会が果てて家路に向かうとき、何と言ったらいいか、解放感がある。その解放感の中で、不思議にいつも現れ出て来るのが王朝末期中世の歌人藤原定家である。

 定家はなぜか「私も飲めなかった。宴席ではいつも片隅でひとりちびりちびりやっていた」と私に話しかけて来る。処世に長けた連中の傍らにあって、「いつも孤独であった」と。私はそんな定家を想起し、「歌に没入する姿も、後に後鳥羽院と袂を分かつに至ったこともよくわかる」と応え返すのであった。

 世渡り下手であることと歌に没入する姿とは気脈の通じるところがある。世渡り下手であるという資質ゆえに、後の世までも歌詠みの名手としてその名を残すことが出来たのではないか。その資質は処世においてマイナスであったかも知れないが、歌人としての人生にはプラスに働いた。

                                                         

 日記『明月記』の治承四年(一一八〇年)、十九歳、九月の条の「紅旗征戎ハ吾ガ事二非ズ」の記事には、実生活における強がりとも思えるようなところなきにしもあらず。で、その感も拭い切れないが、この言い据えた決意のような文言には、若い定家の歌に対する思い入れ、意欲のようなものが感じられ、時代背景とともに、彼の評価に繋がっている。しかし、これは定家の資質を言うものにほかならず、私は歌人定家を思い巡らすとき、いつもこの十九歳のときの日記の記述に思いが巡る。

 晴れもせず、曇りも果てぬ朧な今宵。ことのほかの月ではある。宴席は末座が常であった。その宴席の後の解放感も手伝って気分は上々。少し遠回りをしてこの月の情緒を味わいながら帰ろう。そう決めて脇道に逸れたとき、ふと、次の一首が思い浮かんだ。

  大空は梅のにほひにかすみつつくもりもはてぬ春の夜の月                                         藤原定家

 冴え渡る秋の月もよいけれど、朧に霞む春の月もまた秋の月に劣らない。「梅のにほひにかすみつつ」「くもりもはてぬ」と、眺める春の夜の月は、定家とともにあって、魅了した。写真はイメージで、少し朧な印象の春の月。

  春の月宴会の後の帰る道おぼろなりしが我が歩の頭上       宴会(うたげ)

  朧夜のおぼろの月のおぼろなる一睡の夢ほどの温もり


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2022年05月29日 | 植物

<3783>「大和の花」追記(1169) オオキンケイギク(大錦鶏菊)         キク科 ハルシャギク属

                       

 北アメリカ中南部原産の多年草で、茎は束生し、高さが30センチから70センチほどになる。葉は長い柄を有して根生し、3から5小葉に裂ける。小葉には両面に粗い毛がある。

   花期は5月から7月ごろで、明るく鮮やかな黄色の頭花を枝先に開く。花は直径5センチから7センチほどで、外側に舌状花が1列に並び、舌状花の先の縁は不揃いである。花の中心部は筒状花が固まって密生する。実は暗褐色で扁平。

   明治時代の中ごろ観賞用に導入され、栽植されたものが、旺盛な繁殖力によって逸出し、各地で野生化し、道端や空地などを占有するようになった。 写真は群生して黄色の花を咲かせるオオキンケイギク(左)と花のアップ(コガネムシの仲間のコアオハナムグリの姿があった)。

  ホトトギス今年は五月二十九日


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2022年05月28日 | 植物

<3782>奈良県のレッドデータブックの花たち(222) ヒッツキアザミ(引っ付き薊)         キク科

                            

[学名] Cirsium congestissimum

[奈良県のカテゴリー]  希少種

[特徴] 日当たりのよい山地の林縁や高原の草地に生える多年草で、アザミに仲間の中では草丈が高く、大人の背丈以上になる。葉は長楕円形で、羽状に裂け、刺がある。花期は9~10月で、牡丹刷毛のような紅紫色の花が穂状に集まってつく特徴があり、花柄がほとんどなく、茎に引っ付いているように見えるのでこの名がある。花の基部の総苞は筒状で、総苞片の刺はやや長い。

[分布] 日本の固有種。本州の近畿地方から中国地方。

[県内分布] 曽爾村。

[記事] 大和地方(奈良県域)ではレッドデータブックに「確かな産地は曽爾高原だけである。大峰山脈日本岳にも記録があるが、現状はわからない」とあるように曽爾高原が産地として知られるが、近年、遊歩道(登山道)の整備等によって急激に姿を消し、希少種の認定だが、風前の灯状態に陥っている。

   私たちの生は

   移ろいによって

   成り立っている

   よしにつけ

          悪しきにつけ


大和だより ~写詩 写歌 写俳~小筥集

2022年05月27日 | 植物

<3781>「大和の花」追記(1168) ダイオウショウ(大王松)                           マツ科 マツ属

               

 北アメリカ東南部原産のマツの仲間の常緑高木の針葉樹で、樹形は在来のマツほど枝を張らず、直立気味になり、高さが20メートルから40メートルになる。樹皮は暗褐色で、上部ほど赤味が強くなる。葉は2本1組のクロマツやアカマツ、5本1組のゴヨウマツと異なり、3本1組の特徴が見られる。その葉は世界のマツの中で最も長いとされ、40センチから50センチになるものもあり、若い木では垂れ下がるようにつく。

 雌雄同株で、花期は4月から6月ごろ。雌花は枝先に、雄花は葉腋につくが、あまり目立たない。実の球果(まつぼっくり)は20センチ前後の円柱形で、次の年の秋に熟す。材は建築に、松脂も多く採れ利用される。また、葉やまつぼっくりは花材にされる。

 別名ダイオウマツ。葉が大きいのでこの名がある。大正元年(1912年)に渡来し、公園などに植えられて来た。馬見丘陵公園のナガレ山古墳の北側の自然林の中に数本見られる。如何なる経緯によってあるものか。古木も見られる。 写真は左から他の木より高く聳えるダイオウショウの古木、長い葉をつけた枝木、雌花の見える枝先、雄花。葉の長さから同じ北アメリカ東南部原産のデーダマツとの雑種とも思われる。

   地球は生物が存在する特異な星だ

   それも数え切れない多様で豊富な

   生き物が暮らしている稀有な星だ