<2341> 大和の花 (519) ムラサキケマン (紫華鬘) ケシ科 キケマン属
ここでは、ケシ科の中のキケマン属を見てみたいと思う。後ろに突き出た距を有する花が特徴的で、地下に根塊が出来ないキケマンの仲間と根塊が出来るエンゴサクの仲間に分けられる。まずは、キケマンの仲間のムラサキケマン(紫華鬘)から。なお、ケマン(華鬘)は仏堂内陣の欄間などに掛ける飾りで、花をこの華鬘に擬えたことによる。
本種はやや湿っり気のある草地や道端などに生える越年草で、草丈は普通30センチ前後。葉は根生葉と茎葉からなり、2、3回羽状に裂け、セリ科のセリ(芹)やシャク(杓)に似る。茎も葉も全体に軟らかく、傷つけると悪臭のするものが多い。
花期は4月から6月ごろで、茎の上部に長さが1.5センチ前後の紅紫色の筒状花を多数総状につける。花は左右相称で、花弁は4個、内外に2個ずつあり、外側の上部の花弁が後ろに袋状の距を持ち、横向きになる。実は長さが1.5センチほどの狭長楕円形の蒴果。
日本全土に分布し、中国にも見られるという。全草に毒性を含む有毒植物で、中国では毒性を生かして殺虫剤やタムシの外用薬に用いるという。茎や葉が軟らかいので食べられそうだが、食べてはいけない。写真はムラサキケマン。 父と母 思ふにありて 蛙の子
<2342> 大和の花 (520) ミヤマキケマン (深山黄華鬘) ケシ科 キケマン属
山間地の道端や林縁などに生える高さが20センチから40センチの越年草で、茎は赤みを帯びるものが多い。葉は1、2回羽状複葉で、小葉は更に羽状に深裂する。花期は4月から6月ごろで、茎の先に3センチから10センチの総状花序を出し、距を持つ黄色の筒状花を多数密につける。蒴果の実は長さが2、3センチの線形で、数珠状になる。
本州の中部地方以西に分布するフウロケマン(風露華鬘)の変種とされ、本州の近畿地方以東に分布する。国外では中国に見られるという。漢名は深山黄菫。大和(奈良県)には多く、山間地では普通に見られる。なお、ムラサキケマンとほぼ同じく、アルカロイドのプロトピンを含む有毒植物で、中国ではタムシなど皮膚病の外用薬として用いられるようであるが、日本で用いた例は見られないという。 写真はミヤマキケマンの花(川上村)と数珠状の実(東吉野村)。 小さくも命なりけり小さくも生の存在カナブンが飛ぶ
<2343> 大和の花 (521) ジロボウエンゴサク (次郎坊延胡索) ケシ科 キケマン属
丘陵や林縁の草地などに生える草丈が10センチから20センチの多年草で、キケマン属の中では地中に塊茎が生じるタイプに属する。不定形の塊茎は古い塊茎の上につき、直径1センチほどの大きさで、数個の葉や茎を出す。有柄の葉は長さが7センチ前後の2回3出複葉で、小葉はさらに3裂して、裂片は長さが1センチから2センチの狭楕円形。
花期は4月から5月ごろで、茎頂に総状の花序を出し、長さが2センチ前後の筒状の花をやや横向きにつける。花は淡い紅紫色から青紫色で、筒部は白色に近くなる。花の先端は唇形に開き、後ろ側に距がある。花柄を有し、花柄の基部にごく小さな苞葉がつく。この苞葉が他種との判別点で、本種は苞葉に歯牙或いは鋸歯がなく、全縁であるのが特徴。実は蒴果で、長さが2センチほどの線形。
本州の関東地方以西、四国、九州に分布し、国外では中国に見られるという。大和(奈良県)では吉野地方でよく見かける。延胡索は漢名で、次郎坊は伊勢地方の方言と言われ、和名のジロボウエンゴサク(次郎坊延胡索)は、スミレの太郎坊に対し、本種を次郎坊と呼んで子供たちが両方の花を絡めて引っ張り合い遊んだことに由来するという。これは延胡索の意に通じる。別名のスモウトリクサ(相撲取草)も同じ意による。
なお、本種はアルカロイドのプロトピンなどを含む。有毒植物であるが、塊茎を蒸して日干しにしたものを漢名に等しい延胡索と呼び、これを煎じて腹痛や月経痛に用いると言われる。だが、在来種は劣るとされ、外来のものが用いられるという。 写真はジロボウエンゴサク(五條市西吉野町)。左の写真の白い花はニリンソウ(二輪草)、右の写真の花柄の基部に見える苞葉に鋸歯がない。これが本種の特徴。 時の鳥今も変はらずほととぎす
<2344> 大和の花 (522) ヤマエンゴサク (山延胡索) ケシ科 キケマン属
山地の疎林内や林縁などに生える多年草で、草丈は20センチほど。茎も葉も花もジロボウエンゴサクによく似るので間違いやすいが、花柄の基部につくごく小さな苞葉の形の違いによって判別出来る。苞葉に鋸歯のないジロボウエンゴサクに対し、ヤマエンゴサクではギザギザの歯牙状の鋸歯が見られる。ヤブエンゴサク(薮延胡索)の別名でも知られるが、本種も有毒植物である。
本州、四国、九州に分布し、国外では中国に見られるという。大和(奈良県)では、吉野山と金剛山で見かけた。ほかには日本の固有種として知られるエゾエンゴサク(蝦夷延胡索)、ミチノクエンゴサク(陸奥延胡索)、ヒメエンゴサク(姫延胡索)、キンキエンゴサク(近畿延胡索)などがあり、分布域を異にするが、概して苞葉に違いが見られる。 写真はヤマエンゴサク(吉野山・右の写真では花柄の基部についている苞葉に歯牙状の鋸歯が見える)。 実質を秘めてこそ花 花の映え 数ある花の数ある姿