大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2022年04月30日 | 植物

<3754> 奈良県のレッドデータブックの花たち(210) ハナヒリノキ(嚏の木)               ツツジ科

                

[別名] クシャミノキ

[学名] Eubotryoides grayana var. grayana

[奈良県のカテゴリー]  希少種

[特徴] 深山、山岳の疎林内や岩場に生える落葉低木で、高さは50~130センチ。よく分枝し、繁る。葉は長さが3~10センチの楕円形または卵状楕円形で、先は尖り、基部はくさび形に近く、縁には内側に曲がった細かな鋸歯が見られる。質はやや厚く、表面は濃緑色で、裏面に浮き立つ脈が目立つ。葉柄はごく短く、互生する。

 花期は6~7月で、新枝の先に長さが5~15センチの総状花序を伸ばし、赤味を帯びる淡緑色の花を連ねるようにつける。花冠は直径数ミリの壷形で、先が浅く5裂して裂片は反り、やや下向きに開く。雄しべは10個、葯は褐色。実は蒴果で、直径数ミリ。扁球形で上向きにつき、先に花柱が残り、秋のころ赤褐色に熟し裂開する。

[分布] 北海道、本州の近畿地方以北。国外ではサハリン(?)。

[県内分布] 川上村、上北山村、下北山村、天川村。

[記事] ハナヒリ(嚏)はくしゃみのことで、クシャミノキの異名でも知られる。これは葉の粉が鼻に入るとむず痒くなってくしゃみが出ることによるという。本種はツツジ科に特有の有毒植物で、昔は葉を粉にして蛆虫の駆除、家畜用の駆虫剤に利用された。

 大和地方(奈良県域)では標高1200メートル以上の大峰、台高山地で稀に見られ、奈良県のレッドデータブックは「シカの多い地域であるため、食害が懸念される」としている。 写真はハナヒリノキの花(左・花序の基部側から開花している)と果期の姿(右・花は下向きだが、実は上向きになり、裂開する)。

  納得があれば

  思いは収まる

 


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2022年04月29日 | 創作

<3753> 余聞 余話 「池中棒杭風景譚」

   池の面棒杭一つ立ってゐる日々刻々の時に慰撫され

     立ち尽くしゐたる棒杭ただ黙し黙しながらにありあるその意

    朽ち欠けの棒杭一つ抗ふや抗はざるや水面の姿

    棒杭は如何なるゆゑに立ちゐるや水面の孤影黙して已まず

    四季の色映す水面に立ち尽くす棒杭に春夏秋冬の楽

    翡翠を留まらせ華やぎたることも棒杭の役得かも知れぬ

    鴨の群去りたる春の池の面棒杭変はらず孤影を映し

    棒杭は一途に立てるかくは見ゆ一途が役目なるを思はせ

    池の面今日も棒杭立ちゐたる周りの景に関はりながら

    もしかして神の依り代かも知れぬまさに棒杭よりの想念

    棒杭は池の点景常ながら意識に触れて見ゆる存在

             

 池の中に立っている棒杭。よく見かける。ときには朽ちかけて、その経緯を語るかのように見える棒杭もある。何故か、不思議にもその棒杭を見ていると色んなことが思い起こされて来る。四季などによって辺りの風景が変わっても、その風景に沿い従って移ろい、調和してゆく。しかし、その姿は微動も見せず、池の中に立っている。「一途」とか「一徹」とか「辛抱」とか、そういう言葉の実感がその姿には見て取れるところがある。

棒杭の元を質せば、何かの目的によって立てられた仕様のものであろうことは容易に察せられる。そして、今もその仕様の役目を果たしているのかも知れない。きっとそうに違いない。しかし、その姿は忘れ去られた無用の存在にして立っているようなところもある。という次第で、池の中に立つ棒杭には何となく切ないようなものが絡み、意識されて来る。そして、思いは尽きず、神をも想像させる。 写真は翡翠を止まらせた棒杭(左)と水面の波形の中に立つ朽ちかけの棒杭(右)。


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2022年04月28日 | 植物

<3752>奈良県のレッドデータブックの花たち(209) ハスノハイチゴ(蓮葉苺)     バラ科

              

[別名] ハスイチゴ(蓮苺)

[学名] Rubus peltatus

[奈良県のカテゴリー]  希少種(環境省:準絶滅危惧)

[特徴] 深山(冷温帯域から寒温帯域)の明るい林下や林縁に生える落葉低木で、高さは1.5メートルほどになる。枝は無毛で粉白色を帯び、まばらに棘がある。葉は長さが10~25センチの5角形で、3~5浅裂し、裂片の先は尖り、縁には不揃いの鋸歯が見られる。葉柄は8~10センチと長く、刺が生え、ハスの葉のように葉柄が楯状について互生する。

 花期は6月ごろ。枝先の葉腋に白い5弁花を1花下向きに開く。花弁はほぼ円形で、平開。集合果の実は長さが3~4センチの円柱形で、8~9月に白熟し、一面に褐色の毛が生える。実は垂れ下がり、果期にも萼片5個が笠状になって残る。実の食用は聞かない。

[分布] 本州の中部地方以西、四国、九州。国外では中国。

[県内分布] 五條市、東吉野村、川上村、黒滝村、天川村、野迫川村、上北山村、下北山村、十津川村。

[記事] 西大台、山上ヶ岳、稲村ヶ岳、八経ヶ岳の高所部で見ているが、いずれも個体数が少なく、シカによる食害も考えられるようで、西大台と八経ヶ岳の自生地はシカ避けの防護ネット内に見られ、保護されている。 写真はハスのような葉の下に下向きの白い花をつけたハスノハイチゴ(左)と花のアップ(中)、垂れ下がって熟す実(右)。

   一花にあり

         一花の命題

   一花の働き

         一花の存在


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2022年04月26日 | 植物

<3751>奈良県のレッドデータブックの花たち(208) ハクサンハタザオ(白山旗竿)            アブラナ科

                           

[別名] ツルタガラシ(蔓田芥子)

[学名] Arbidopsis halleri subsp. gemmifera

[奈良県のカテゴリー]  希少種

[特徴]  日当たりのよい草地や砂礫地などに生える多年草で、茎は軟らかく、株立ちして、草丈30センチほど。花の終わるころには倒れ伏し、節の部分から新芽を出して広がり、ときに群生する。葉は根生葉と茎葉が見られ、根生葉は短い柄があって羽状に裂け、頂小葉が大きい。茎葉は細く、羽状に中裂し、鋸歯が見られる。

 花期は4~6月で、茎の先の総状花序に柄を有する白い4弁花を咲かせる。花弁の長さは数ミリの倒卵形で可愛らしい。実は長さが1~2センチの細い長角果。

[分布] 北海道西南部、本州、四国、九州(宮崎県)まで。国外では朝鮮半島。

[県内分布] 五條市、宇陀市、曽爾村、川上村、天川村、上北山村、下北山村。

[記事] 山間地の山足や道端から標高1800メートルの大峯山脈の尾根筋まで垂直分布の幅は広く、点在するが、個体数が少ない。石灰岩地に多いようである。茎が真っすぐに立つハタザオ(旗竿)の仲間で、加賀の白山に因みこの名がある。

 ハクサンハタザオについては一つの忘れられない思い出がある。大峰山脈の南の主峰釈迦ヶ岳(1800メートル)の南東壁、奥駈道から少し逸れた辺り、松の落葉が散り敷いて層を成し、雪庇状に張り出したところから切り立った絶壁がわずかに見えた。その絶壁の棚になったところにハクサンハタザオが花を咲かせ、風に揺れていた。

   少し前に進めば、400ミリの望遠レンズを持っていたので撮れたが、それ以上足を前に出せば、真っ逆さまに転落すると思い、撮影することなく引き返した。そのときふと思った。「至るところに青山あり」。生きる場所はさまざま、至るところにあって、死に場所もある。人知れず花を咲かせるハクサンハタザオにはこの絶壁が楽園なのに違いないと思えたのであった。 写真は花期のハクサンハタザオ(左)と花序のアップ(右)。

  生とは未完の旅路または途上

  死とは未完の終着乃至は完成


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2022年04月26日 | 創作

<3750> 写俳二百句(128) 春 雨

              春雨は目覚めにやさし今朝の雨

                     

 この間、朝の目覚めに雨音を聞いた。万物にやさしい春雨の感。久しぶりである。深夜、トイレに起きたときは聞かなかったので、未明に降り出したのだろう。で、冒頭の句を得た次第。早速、このブログへと思い立ったが、写真をどうするかということになった。

 カーテンを開けて庭を眺めたら、花盛りのノースポールが雨に濡れているのが目に入った。で、写真はこの雨のノースポールの花に決めた。白い舌状花が花の中央部に集まる黄色の筒状花を取り巻き、全体的には白く見え、固まって咲くと辺りを明るくする。

 キク科の花らしく、花は上を向いて開くので、雨になると、花の肝心な部分が雨に濡れる。ので、花は雨に侵されないよう脇を締める。そして、花弁はと言えば、雨を弾いて水玉にし、花弁の上に置くいう工夫をしている。そして、日が差し来ると花弁は完開し、花はその使命を全うする。 写真は雨を弾き返し出来た水玉を花弁に載せるノースポールの花。