【概要】
深海潜水艇わだつみで日本海溝の調査に赴いた田所博士(小林桂樹)と操縦士の小野寺(藤岡弘)は、海底に異変が起きていることを発見。近いうちに日本列島が沈没するという田所の主張を裏付けるように、やがて次々と日本各地に異変が…。
Amazon.co.jpより抜粋
【感想】
「復活の日」のような長編から「日本売ります」のような短編まで幅広い物語を書いてきたSF小説家の第一人者である小松左京の原作を映画化した作品です。資料によれば、彼はこの物語を完成さるために取材を9年間要したそうです。とにかく、膨大な情報量がこの本に詰まっているため、名前は忘れましたが、ある評論家はこの作品を“データ小説”と呼びました。分厚い、しかも上下二巻の小説を144分にまとめ上げるのは無理だと思いきや、脚本家橋本忍はやってくれましたね。
「ニッポン」が沈む。物語はこれだけ。宇宙人との駆け引きもなければ、惑星衝突のため人類が協力して立ち向かうわけでもない。フジテレビのプロデューサー亀山千広曰く「こいつら何もしようとしてないじゃないか!」との批判もあるようですが、しかし、私がこれほどまでにこの映画に引き付けられるのは、別に「対処法」ではなく、ちっぽけな日本民族が懐を離れるその大きな不安感にあります。
今は情報化社会。交通も便利になり、場合によっては外国に行くことは国内で遠出するより安く簡単に済んでしまう世の中。そんな私達でも、いつでも日本と言うよりどころがあった。
しかし、そんなよりどころが無くなってしまうという内容は、紛争で住むべき場所を失った人たちや、悪政治によって脱国せざるを得なくなった人たちを、どこか他人の目で見ている私達(そうは言っても仕方ないよね。こればっかしは)に痛く訴えかけます。
そう言う意味で、2006年のリメイク版「日本沈没」はこの一番重要な部分が欠落していて、リメイク作品としては最悪の出来でしたね。
肝心なのは特撮じゃないんですよ。いくらCGでリアルに作っても、それだけじゃ意味ないですな。(リメイク版ファンの方すみません!)
内容は悲観的で、明るい東宝特撮映画の面影は全く無いですが、最後に小野寺と玲子が遠く離れた(玲子は北半球?小野寺は南半球?)国でいつか二人の再会を思う「地球のどこかで…」のシーンは、これから待ち受ける不安と同時に希望も感じさせるいいラストでした。
この映画には名場面がいくつもあるんですが、何と言っても、東京大地震の際、皇居におしよせる避難民の知らせを受け、丹波哲郎演じる山本総理が
「門を開けてください、山本です!門を開けてください!非常災害本部対策部長内閣総理大臣の命令です!ただちに門を開いて避難者を宮城内に入れてください!!」
と叫ぶ場面は鳥肌が立ちそうになりました。
佐藤勝の今回の音楽ですが、私は彼が世に残した映画音楽を全て聞いたわけではありませんが、今までの中で最高傑作だと思います。
彼の作風は、曲そのもの自体を聞いただけではよく分からないかもしれませんが、画面と一緒になってそのよさが分かる、まあ、劇半ってそんなもんだろうと思うのですが、そういう人が果たしてどれだけいるか。
本作品は、「地球防衛軍」「世界大戦争」「妖星ゴラス」などの東宝特撮映画の集大成的存在にあると思います。しかし、50年代60年代の作品として一線を画すのは、怪獣や妖星や怪人となどの一くくりにしてしまえばファンタジーの要素を廃し、「ニッポン」が沈むと言う荒唐無稽な内容ながら、一般映画としても差し支えの無い、大人の鑑賞にも堪えうる、マニアックの無さだと思います。現在でも、「妖星ゴラス」や「地球防衛軍」は一部の特撮ファンの間で人気ですが、この「日本沈没」は橋本忍のしっかりした脚本と、森谷司郎の演出で、特撮映画などという枠組みを越えているのです。
監督:森谷司郎
原作:小松左京
脚本:橋本忍
音楽:佐藤勝
特技監督:中野昭慶
田所雄介博士:小林桂樹
小野寺俊夫:藤岡弘
阿部玲子:いしだあゆみ
幸長信彦助教授:滝田裕介
中田一成:二谷英明
邦枝:中丸忠雄
片岡:村井国夫
結城達也:夏八木勲
山城教授:高橋昌也
吉村秀夫:神山繁
渡老人:島田正吾
山本総理:丹波哲郎
1973年度東宝作品(カラー・シネスコ)
妖星ゴラス
斬る
待ち伏せ
殺人狂時代
太平洋奇跡の作戦キスカ
赤毛
戦国野郎
ブルークリスマス
大盗賊(東宝)
座頭市と用心棒
ガス人間第一号
電送人間
美女と液体人間
赤ひげ
世界大戦争
椿三十郎
用心棒
モスラ(1961年度版)
新幹線大爆破
隠し砦の三悪人
日本のいちばん長い日
☆はじめに☆
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