ザウルスの法則

真実は、受け容れられる者にはすがすがしい。
しかし、受け容れられない者には不快である。
ザウルスの法則

書評:中国人作家の 「セレモニー」:オーウェル的世界での “感染症パニック” を描く

2019-07-08 20:09:13 | 書評

書評:中国人作家の 「セレモニー」:オーウェル的世界での “感染症パニック” を描く

「共産党建党記念祝賀行事と北京万博が重なる空前の式典年に勃発した感染症パニック・・・、その背後で密かにうごめき始めた極秘の暗殺計画・・・SARS事件、ウイグル問題、ファーウェイ疑惑など現代中国をめぐる事態を彷彿させる、インターネット時代の 「一九八四年」。」本の帯より。

 

“デジタルスターリニズム” という言葉を知ったのは昨年2018年の夏頃のことだった。中国における、共産党独裁の体制をコンピュータテクノロジーによって完成した体制を指すものとして欧米の一部のマスコミで警戒心を込めて使われ始めた言葉である。

 

国民一人当たりの 監視カメラ の数においてすでにイギリスを抜いて世界一になった中国は、今やその他の先端テクノロジーにおいても世界を優にリードしている。

顔認識テクノロジー、社会信用システム、ファーウェイに代表される通信テクノロジー、キャッシュレス経済、莫大な国民データに基づいたAI(人工知能)テクノロジーや機械学習テクノロジーの急速な発達。そして莫大な国民のDNA個人データの蓄積によるバイオテクノロジーの進歩等々。

 

さらには、独裁体制にこそ存在する無数の収容所の大量の少数民族や反体制派の人々を使った人体実験のデータ収集や非人道的な臓器移植 等々といったバイオテクノロジーにおけるモラルなき科学研究・・・。

21世紀においても科学の進歩は国家体制の進歩、国民を支配・管理するための技術の進歩ともなりうるという実例を、今の中国はわれわれに突きつけている。

 

そうした昨今の時代背景において、日本のいくつかの日刊紙の書評で紹介されていた、中国人作家による 「セレモニー」 という小説に興味を持って取り寄せ、読んでみた。

王力雄 というその中国における反体制派作家は、なんと現在北京在住である。彼が亡命しないのは、チベット人作家である妻がパスポートの取得を許可されず、その妻を見捨てることができないからである。要するに、自分の妻を人質に取られているのだ。

 

もちろん彼は常に当局による監視下にある。実際、今までに逮捕・監禁されたことがある。しかし、中国政府も彼が海外において反体制派作家として知名度があるので今は手を出せない状態である。彼はまるで逮捕・拘束・監禁されないために書き続けなければならない身の上であるかのようだ。

王力雄氏が北京で書いた今回の小説 「セレモニー」 は、まさに デジタル時代の 「1984」 である。オーウェルの 「1984」 は 1949年に 35年後の 1984年という近未来の監視社会を描いた小説である。そして、70年後の 2019年に刊行された 「セレモニー」 は、リアルタイムの現実の監視社会を描いていると言える。

 

 


もちろん中国国内では “禁書” である。所持していれば、逮捕される。

作品中には習近平を彷彿とさせる単に 「主席」 と呼ばれる中国の国家指導者が登場する。しかし、この  「主席」  は蜂の姿に似せたハイテクのマイクロドローンの毒針によってたやすく暗殺されてしまう。うーむ、これだけでも “禁書” になって不思議はない。  

この 「セレモニー」 は “SF政治小説” という触れ込みなので、読者は当然 “SF” として、つまり、遠い未来、もしくは近未来には可能かもしれないが、現時点ではほとんど不可能なこととして読んでいることであろう。

実際、作品中にいくつかの “SF的小道具” が出てくる。

1.“IoS” 

2.“ドリームジェネレイター” 

3.“電子蜂(マイクロドローン)” 

この3つが、このSF政治小説の “三種の神器” である。そして、多くの読者はこの3つを想像力豊かな作者の “近未来的ファンタジー” として受けとめているに違いない。

 

しかし、わたしはこの作品を読みながら、この3つの一見 “SF的小道具” に見えるものがいずれもが “すでに現実化しているもの” であることに気づいた。それを以下に解説したい。

 

 

1. “IoS” Internet of Shoes  靴のインターネット

もちろん、これは  “IoT” つまり、“物のインターネット” のバリエーションである。国民一人一人の居場所を把握するために、国民が履いている靴にICチップのタグを埋め込んであり、それが必要に応じて当局によってモニターされるという作品設定である。国民はそんなものが仕込まれているとは知らないのだが、小説中にはこの “IoS” システムを実用化させたコンピュータプログラマーが登場する。

もちろん、実際には今日の軽く10億を超える中国人の履いている靴すべてにそんなチップは埋め込まれてはいないであろうとわれわれは思う。われわれ一般人が思いつくのは、中国製のスマホや監視カメラにはスパイチップが埋め込んであるのでは?というようなところまでである。しかし、情報テクノロジーの多くは軍事や公安に転用が可能で、“軍事・公安的な情報テクノロジー” は基本的に “ステルス的” なものである。つまり、一般人が気づいていないところにすでに潜んでいるのが通例である。しかし、テクノロジーは多層的である。

一般人が気づいている範囲に限っても、少数民族が多い地方都市における市民の居場所を突き止める方法などは既成の公然の古典的テクノロジーによって基層は確立されているように思われる。たとえば、新疆ウィグル自治区では、市民は常にIDカードを携行することが義務付けられ、市内の至る所にある検問所で頻繁に提示を求められる。当然それらのIDカードにはチップが付いている。また今日の中国ではどんな田舎に行っても人々はスマホや携帯を持ち歩いているので、それらをGPSで追跡することは何ら難しいことではない。すべての情報が政府によって集中管理されているのが中国である。

そもそも市民全員を常に監視する必要はなく、中国社会を脅かす犯罪者と反体制派を見張るのが目的である。そして、今日の中国はいつの間にか世界一の監視国家になっている。オーウェル的監視社会がデジタルテクノロジーによってついに “理想的” なかたちで 実現したような国家である。中国国内での暴動やテロや反体制活動の芽をそばから摘んで、共産党独裁体制の転覆、崩壊を防ぎ、永遠に存続させるためである。

こうした切実な必要性に加えて、14億という莫大な人口が共産党独裁下においてそのまま “ビッグデータ” となるという好条件のために中国の顔認識テクノロジーと監視カメラの水準は世界一にのし上がっている。顔認識テクノロジーには今や身長、体型、歩き方、髪型、服装といった付随的な要素も追加され、精度と信頼性をさらに高めている。

これにさらに AIテクノロジー” が加わり、監視対象の行動を 予測して先回りする ことも可能になりつつある。おそらくこの小説で描かれている個人の監視・追跡方法よりも、今日の中国の警察や公安で実際に使われているテクノロジーのほうが人々の度肝を抜くほどSF的であると思われる。しかし、そうしたテクノロジーは必然的に “ステルス的テクノロジー” であるため、そこには常に監視する側とされる側との間の “情報量の非対称性” が存在する。

 

 

2.  “ドリームジェネレイター”

小説中では、これは中国公安部門が開発した “マインドコントロール装置” ということになっている。電気パルスによって脳波に影響を与え、人間の行動を操作するものである。元々は攻撃的な人間をターゲットにして適切な周波数で照射してとおとなしくさせるというようなものからスタートした。しかし、様々な周波数による実験から偶然ある周波数を照射すると 「ターゲットが自分で自分の制御が不可能なほどの “強烈な性的な興奮” を示したのである。」 「彼らはその場の異性をレイプし始めた。」

「ドリームジェネレイターのこの予想外の特性は、あらたな使用方法を生み出した。セックスによる人間のマインドコントロールである。」 「そして試行の結果、女性に対して特に効果的であるという現象がみとめられた。照射してから十分以内に、女性は性欲が制御できない状態となった。」 

さて、こう読んでくると、ほとんどの読者はこれこそ男性である作者の単なる夢想の産物と思うことであろう。しかし、こういったマインドコントロールのテクノロジーはすでに存在している。この作者は “マイクロ波兵器” についてかなりリサーチしているのだ。ザウルスの電磁波関連の記事の1つから引用しよう。

-  -  -  -  -   WiFi はステルス兵器だった! 冷戦時代から今日までずっと軍事利用!   -  -  -  -  - 

  

・・・・・・ マイクロ波兵器についての論文は8,300件あり、そのうちわたし自身が知っているのは2.300件です。それらによると、英国政府はマイクロ波のパルス周波数をモールス信号のようにさまざまに変えて人間の脳に照射することにより、脳に干渉することができます。

 

   

 パルス周波数をうまく調節することによって、精神病を惹き起すことができます。しかも、たとえ精神科の医師が診ても、何らかの介入があって生じた精神病なのか、本物の精神病なのかの区別もつかないようにできるのです。

 理論的には、ターゲットの人物の脳を照射して幻聴を惹き起すことができます。実際、マイクロ波によって幻聴が起こることはよくあることです。また、精神分裂症の兆候を惹き起すことも可能です。 

 

たとえば、1秒間に6.6パルスの周波数で男性の頭を照射すると、劇烈な性的攻撃性を惹き起すことができます。この周波数を使えば、ターゲットの男性に恐ろしいレイプ事件を起こさせることもできます。

 

 

 

 

 

技術的には、まずこうやってターゲットの人物に精神病を惹き起し、それを口実に入院もしくは投獄させます。それからその人間の他の部分をマイクロ波照射します。心臓ならば、心臓麻痺を起こせます。肺ならば、肺出血です。もっと手の込んだ方法をとる場合もあって、ホルモン分泌をつかさどるリンパ腺を照射することもあります。

 

 こんなふうに、政府に立てつく人間や、政府に不都合な人間にマイクロ波照射することはたやすいことで、だれであろうと、入院や投獄をさせることができます。

  WiFi はステルス兵器だった! 冷戦時代から今日までずっと軍事利用!

        -  -  -  -  - -  -  -  -  -    引 用 終 わ り   -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  

 

いかがであろうか?こうしたマイクロ波を利用したステルス兵器はすでに冷戦時代のソ連において研究されており、その後アメリカ、イギリス等々の国々でも盛んに研究・開発されている。中国が無関心でいる理由はないだろう。ソ連では数多くの反体制派の人々を収容所に入れていた が、彼らの一部はさまざまな人体実験のモルモットにされたと想像される。

ちなみに、中国にも多くの収容所が今日存在する。法輪功の信者たちや少数民族が大量に収容されていて、臓器を抜かれているという報告もある。中国、人民を殺害し臓器収奪&移植ビジネスの疑惑…病院地下に4千人仮死状態との証言   非人道的な人体実験などふつうに行われていると想像される。

 

 

 

3. “電子蜂(マイクロドローン)”

ドローンがここ数年小型化、高性能化していることは一般に売られている玩具的な商品を見るだけでもわかる。

しかし、軍事利用のレベルでは一般に知られているより1歩や2歩どころか、はるか先を行っているようだ。

軍事目的のマイクロドローンは “羽根をもった昆虫” に擬態して “ステルス性” を高めたものが多く、映画に登場しているケースもある。

2015年製作のイギリス映画 Eye in the Sky には以下のようなシーンがある。  

 

 

 これはSF映画ではない。4年も前の “現代の戦争” の現実を描いた1シーンである。こういうものがすでに実用化され、実際の戦場で使用されている証左である。

軍事用ドローンは偵察や情報収集だけでなく、攻撃能力も備えているものが多い。それもどんどん小型化している。 

 

          HYPODERMIC NEEDLE   とは 皮下注射針 のことである。

マイクロドローンの蚊が飛んできて致死性の薬物をターゲットの首に注射することも SF(空想科学小説)の話ではなくなっている。

小説 「セレモニー」 では、中国の国家主席が大式典のリハーサル中に蜂の形をしたマイクロドローンに襲われてあっけなく暗殺されてしまう。このエピソードは、完璧と思えるほどの高度なセキュリティが意外な弱点を突かれて簡単に崩壊する可能性がある ことを物語っている。

 

 

さて、このSF政治小説の “三種の神器” と上に書いたが、いずれもすでに実現されているか、同等の技術がすでに存在している ということがお分かりいただけたであろうか?つまり、SF小説によく出てくる、“現在はまだ実在していない、未来もしくは近未来の小道具” ではないのだ。今日すでに実在している複数のテクノロジーが1つの作品の中に自然に織り込まれているということだ。

中国という国がその存亡をかけて  “監視と管理のハイテク化” に血道をあげている今日、その技術的な未来像を追いかけて描き切ろうとしても必然的に出し抜かれることになると思われる。問題はそこにあるのではない。問題は中国がなぜそこまで必死になって “ハイテク化” しなければならないかである。そこまで強迫神経症的に “疑心暗鬼” になるのはなぜか?

“監視と管理の強化” の根底にあるのは “恐れ” ではないのか?

中国の皇帝たちは何代にも亘って “万里の長城” を築いてきた。それはまさに “自らの栄光ある帝国の防衛” の歴史である。

今日の中国共産党は、グローバルなインターネットの世界においても ファイヤーウォール というそびえるような “万里の長城” を築いて、外部世界の真実が国民の目にできるだけ触れないようにしている。

国民の目から真実を隠そうとしているというよりは、皇帝自身が真実を直視することを避けてきたと言ったほうが正しいように思えてくる。“中”  国が、決して世界の “中心” ではないという真実を直視することを恐れているのではなかろうか?

中国人は “誇り高い民族” だそうだ。もしかしたら、中国人は一人一人がみな “皇帝” なのかもしれないとも思えてくる。

テクノロジーによって、特に “情報テクノロジー” を縦横無尽に駆使することによって、 

たして権威主義的で儒教的な独裁体制がその支配を永遠化できるものなのか?

“万里の長城” の建造は21世紀の今日でも “デジタル的に” 続行中なのだろうか?

“皇帝” の自己中心的世界観(中華思想)は永遠に不滅であろうか? 

 

 

いや、むしろ世界を呑み込むであろうか?

 

 

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2 コメント

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Unknown (ji)
2019-07-11 17:14:45
現代版の1984という感じですね!

早速、取り寄せて読んでみようと思います。
ありがとうございます。
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Ji さま (ザウルス)
2019-07-11 18:05:52
アマゾンにカスタマーレビューを書き込みました。

https://www.amazon.co.jp/gp/product/4865782222/ref=ppx_yo_dt_b_asin_title_o08_s00?ie=UTF8&psc=1

この本は決して安くはありません。自分1人で読んで終わりにしてはもったいないので、家族にも勧め、娘が今読んでいるところです。
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