とりとも雑楽帳

狭山丘陵の里山歩きとクラッシク音楽の鑑賞日記です。

今夜も夜更かしオペラ 影のない女 オペラ演出「西欧の黄昏」

2011年08月21日 | オペラ
今夏のザルツブルグ音楽祭の目玉だったリヒャルト・シュトラウス歌劇「影のない女」がNHKで放映された。期待していただけに、出だしで失望した。

<曲目>歌劇「影のない女」全3幕(リヒャルト・シュトラウス)

<出演>
(皇帝)スティーヴン・グールド
(皇后)アンネ・シュワーネウィルムス
(皇后の乳母)ミヒャエラ・シュスター
(染め物師バラック)ウォルフガング・コッホ
(バラックの妻)エヴェリン・ヘルリツィウス
(バラックの兄弟たち)マルクス・ブリュック、スティーヴン・ヒュームズ、アンドレアス・コンラート
(霊界の使者)トーマス・ヨハネス・マイア
(鷹の声)レイチェル・フレンケル
(現われた若い男)ペーター・ゾン
(敷居の護衛官)クリスティーナ・ランズハマー
(上方からの声)マリア・ラードナー

(管弦楽)ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(合唱)ウィーン国立歌劇合唱団
(指揮)クリスティアン・ティーレマン

(美術)ヨハネス・ライアッカー
(衣装)ウルスラ・レンツェンブリンク
(照明)シュテファン・ボリガー
(演出)クリストフ・ロイ

 このところバイロイト音楽祭、ザルツブルグ音楽祭とも、安易な現代への読替え演出にうんざりしていたが、今年の目玉と言われたシュトラウスの「影のない女」も残念ながら落第点だろう。
 音楽祭の舞台はその時々の国の総合力をあらわすのだろう。だからと言って「金をかけたから良い舞台」とは言えないが、それでもいくら理屈をこねた「新演出」といっても、原作の良さが伝わらなければ意味がないだろう。
 総合芸術としてオペラなのに、「音楽は良かったが、演出はダメだった」はありえないだろう。今回の「影のない女」は1955年のカール・ベームの同曲の録音風景をヒントとしたとのことだが、原作の「物語」を否定したのに等しい。
 ホフマンスタールはモーツアルトの「魔笛」に範をとって台本を作ったのだが、今回の演出は、何もせずに、演奏会形式のオペラのほうが音楽に集中できた。演出が音楽を「殺す」「最良」の見本となった。




・R.シュトラウス:楽劇『影のない女』全曲

 皇后:ルアナ・デヴォル
 乳母:マルヤーナ・リポヴシェク
 皇帝:ペーター・ザイフェルト
 染物師バラク:アラン・タイタス
 染物師の妻:ジャニス・マーティン
 使者:ヤン・ヘンドリク・ロータリング、他
 バイエルン国立歌劇場管弦楽団&合唱団
 ウォルフガング、サバリッシュ(指揮)

 演出:市川猿之助
 装置:朝倉摂
 衣裳:森英恵

 収録:1992年、愛知芸術劇場(ライヴ)

 私が「影のない女」を初めて全曲を観たのは、ウォルフガング、サバリッシュとバイエルン国立歌劇場管弦楽団の来日公演をNHKーBSで観たのが最初だった。この時の驚きは今でも強烈な印象として残っている。正にこの時の猿之助の演出と舞台は日本の国力がピークの時になされたものだ。しかも日本の国力の源泉とも言うべきトヨタの地での新劇場の杮落の公演だった。
 歌舞伎の技法の最高級のものが「バブル」によって見事に西欧文化を乗り超えた素晴らしい舞台だった。ここでは舞台・音楽が見事なまでに溶け合って、寓話を表現していた。オペラのもつ「豊かさ」を歌舞伎の世界が見事なまでに表現していた。
 大学の時に篠田正浩の映画「心中天網島」を観たときに「トリスタンとイゾルデ」の音楽が浮かんだときのこと思い出した。
「影のない女」の猿之助の舞台は正しく「歌舞伎狂言」が違和感なく融合した「猿之助歌舞伎」だった。狂言回しのリポヴシェクは見事だった。
 今の日本でこれだけのエネルギーは出てこない気がする。




R.シュトラウス作曲、
・楽劇『影のない女』 完全全曲版
 皇帝:トーマス・モーザー(T)
 皇后:チェリル・ステューダー(S)
 バラク:ロバート・ヘイル(Br)
 バラクの妻:エヴァ・マルトン(S)
 乳母:マルヤーナ・リポヴシェク(Ms)
 伝令使:ブリン・ターフェル(Br)
 鷹の声:アンドレア・ロスト(S)
 若い男の霊:ヘルベルト・リッパート(T)
 天上の声:エルズビエータ・アルダム(A)
 宮殿の門衛:エリーザベト・ノルベルク=シュルツ(S)
 バラクの片目の兄弟:マンフレート・ヘム(Bs)
 バラクの片腕の兄弟:ハンス・フランツェン(Br)
 バラクのせむしの兄弟:ヴィルフリート・ガームリヒ(T)
 生まれざる子供達:ザルツブルク少年少女合唱団
 侍女たち:ウィーン国立歌劇場合唱団
 夜警たち:ウィーン国立歌劇場合唱団

 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 指揮:ゲオルグ・ショルティ
 演出:ゲッツ・フリードリヒ

 収録:1992年8月、ザルツブルク音楽祭、ザルツブルク祝祭大劇場

 元来「絵のないオペラはオペラでない」と思っていたことから、1955年のベームも聴いたことがなかった。「猿之助」に刺激を受け、本場モノも見たくなり同年に行われたザルツブルク音楽祭のフリードリヒ演出を買った。ここでも乳母役はリポヴシェクだが、ここでの役割はステューダー、マルトンと同等の1役者の役割だ。ショルティの音楽はフリードリヒの演出にマッチした隙のないテンポの良い流れだが、それだけで、演出同様インパクトは「猿之助」が優っていた。むしろ「西欧の黄昏」は彼の演出が出発点といえるのではないだろうか。

 


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