ブログ雑記

感じることを、そのままに・・・

2000字の話 心のボール

2015-10-20 22:15:44 | Weblog
 夜明け前の鎮守の森に太鼓が響き御神輿が威勢のいい掛け声で周りの人を祭りの渦へ誘い込む。人垣に遮られて見えない。大人の足をかき分けながら前へと分け入って、一番前に出た。首を一杯後ろへそらして見上げると神輿の頭飾りがゆれていた。
 大きくなったら法被を着て鉢巻きして、足袋はだしで・・・と空想していると神輿はだんだん離れて行った。周りの人もまばらになって、気付くと母さんも姉さんもいなかった。どうしよう、と立ち上がって周りをきょろきょろ見回すが顔見知りの人もいなかった。少し待てば探しにもどって来てくれる、と高をくくってじっと待ったが駄目だった。泣きべそをかきながらぼんやりと座り込んだ。すると、目の前で何かが動いた、目を凝らすとボールがポッ、ポッと灯ったり消えたりを繰り返して、こちらへついておいで、と促すように転がった。思わず腰を浮かせて手を伸ばすと弾んで消えた。少し前方で、ふわりと空中に浮かんだままかすかな明かりを灯してここまでお出でよ、と又誘われて、思わず一歩飛び出し、手を伸ばすとスルリと抜けて地面に落ちて大きく跳ねてずっと前で上下しながら浮いていた。気が付くと周りは小さな森になっていた。それでもまだあきらめず、ボールを追いかけて、杉の木立をすり抜けた。突然そこは別世界。夜中に起こされて神輿の宮だしにつれて来られた眠たい目に、光が眩しくて瞬きを繰り返した。空は雲一つなく、太陽がさんさんと降り注ぐ真昼だった。
 イノシシ、たぬき、キツネ、ムササビ、シマフクロウが一斉にこちらを見つめていた。真中にどかっとたくさんの食べ物が置かれていた。くり、みかん、サツマイモ、大根、人参、イチゴ、桃、梨、リンゴにキーウイー、バナナ・・・季節も何もおかまいなしで不思議な組み合わせに面食らった。威厳に満ちたシマフクロウが、「おやおや、なんだか怪訝な顔、何かおかしいかな、」と話しかけた。思わず「ここは何処、何をしているの」と聞き返した。「ここは夢の森の国なのだよ、姿はみんな違うけれどみんな不思議なボールの入るポケットを持っている仲間なのだよ、あんたをここへ案内して来た、あのほのかに灯るボールをね、」でも何の事だかわからない。
ボールが一体何をするのだろうか。今度はずんぐり姿のイノシシが「まあゆっくりと、そこへ座ってご馳走を食べながら話そうよ」と言った。でも料理は何処にあるの、と問いかけようと、思ったらビックリ仰天、目の前に豪華な料理が勢揃い。「さあどうぞ、お腹いっぱい食べなさい」と今度はタヌキが言いました。目をこすり、ほっぺたつねると夢ではなくていたかった。いやいや、キツネとタヌキに化かされている、と思いつつ、試しにつまんだ巻き寿司はいつも食べている母の味、不思議、益々訳が分からない。母の味をどうして知っているの・・・「確かに、それは不思議だよね、あなたをここへ連れて来た丸いボールを覚えている、ボールは人の心がみえるのよ、はぐれたあなたを見つけて、しばらく僕らと遊んでいればあなたの母さんが迎えに戻って来ると言っていた。」とモモンガが喋りだす。
 「みんな夜が得意な方ばかり、明るい太陽浴びながらどうしてボクを歓待してくれるのか教えて」「それは我々にも解らないのだけれど、あのボールが弾んで来て、ポケットに飛び込むとあっという間にワープしていつものメンバーに出会うのです。そこには困った人や悲しみに沈んだ人がボールに誘われてやってくる。その人たちの困った事や哀しい事を私たちはどうする事も出来ません、でもあのボールが作り出す明るい広場に集まって、心と心をつなぎ合い、寄り添って同じ思いを共にする、ただそれだけで淋しさや悲しみも少しずつ消えて行くようです。明るい空の下にいるだけで暗い思いも和らいで、元気が湧いて来るのでしょう。私たちに出来るのは、ただ一緒にいてあげる事、それだけです。淋しい人や哀しい人にとって、誰か側にいてくれる、それだけできっと心が和むはず。不思議なボールもみんなの心が読める訳ではありません。それでもいつも街角や人通りの多い所を飛び跳ねたり転がったりと休む事なく移動して、淋しさ抱えた人がいれば優しく寄り添って、深く沈んだ心の影に明るい光をそっと当て、暗い気持ちを和らげる。でもね、不思議なボールだけでは駄目なの、魔法で望みを叶える事は出来ません。みんなの心のポケットの優しさをそっとボールにひそませて優しく届けてあげなければ」と聞きながら、寿司をつまむと明るい空が消え去って夜明けの神社の石段に座ってまどろんでいた。やっぱりあれは夢だった、とつぶやいた前をボールが転がった。驚き追いかけ立ち上がる、と笑顔の母さんが手招きして呼んでいた。目をこすりながら手をふった。思いやりのボールは誰のポケットにもあるのだ、と思った。

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