劇団夢桟敷 ☆2018.6〜山南ノート5

熊本アングラ万華鏡〜演劇と諸々

週刊月曜日 第42号 流山児祥

2023-05-24 21:56:07 | 2023年
劇団夢桟敷「週刊月曜日」
〈第42号 2023.5.24発行〉
https://yumesajiki.jimdofree.com/

「敗れざる者たちの演劇志」
流山児祥 著/西堂行人 編
2023年5月10日初版第1刷発行(論創社)
https://www.amazon.co.Jp/dp/4846022668

足を向けて眠れない師、流山児氏の本です。ここでの記事は自家発電につき自己責任。よろこんで〜。

タイトルの「演劇志」は「まえがき」で記されているように「一所不住(在)の芝居者の私的アングラ小劇場55年史」
(注:「一所不住」とは本能的な憧れの「流れ者」という意。ここに「志」あり、人に歴史あり。)
流山児氏を訳すと自身から独自な世界が湧き出るから驚く。観劇後にも通じる。対面後にもある。オーラが放たれる劇や人間に出会うと自己変革が起こり、一生もんで変革(自己も社会も)に影響される。
未来永劫、人工知能でも人間が放つオーラには届かないだろう。
天才、天災、転載、てんさい。わたし白菜(はくさい)。
「志」=「史」と訳す。あるいは「私」か?「私」=「集団」と演劇では訳せる。
流山児氏の「私的」は1967年の「アングラ演劇革命」からの歴史と今日に至る「疾走(歩み)」として「集団」=「公的」として綴られる。
誤解されることを恐れずに言えば、「公私混同を是とする」演劇史が語られている。演劇史の私物化の反対の反対の反対である。ひっくり返してひっくり返してひっくり返す。ここでの「自分史」は「公史」に通用してしまう。
それを読み取ることができる。
言い換えれば「公と私」の壁がないところに演劇志はある。壁抜けの時代、あるいは完全無血の「無政府」か?人を殺さない「テロ」か?ハテナが飛躍するから面白くなる本だ。
思うに劇場は「解放区」であり、相対する「愛」と「暴力」の融合がある。
「私」を語っているようでありながら、同時に「時代」が見えてくる。激動の時代においては、人間を通じて過激さと優しさが対立し融合する。
人間はドラマだ。
歴史をドラマとして語れる人が希少価値の今。演劇にとっての普遍が見える。その普遍はモノではなく人間か…。イノチだろう。ナマモノだろう。
アングラ小劇場として1970年に旗揚げされた流山児氏の主宰する「演劇団」から今日に至る「流山児★事務所」は時代を疾走する集団・劇団だと改めて思う。大きさ「空間」に関わらず「時間」を行き来する自在な演劇がある。それは演劇論「戯曲・演出」を超えて「役者」の鋭いキレに見ることができる。これが言葉の文学を超えた身体の劇だと思うのだ。
特権的肉体と見せ物小屋の復権とは?
要は舞台の表も裏もある人間関係の真剣な仕掛けがある。これは義務や技術では関係を作れない。熱量だろう。人を威圧する脅しの言葉では通用しない。
集団の疾走するスピードを秒速で計算すると息を止める時間も含まれる。プッ、1分止めると時間が縮む。ゆっくり吸ってパッと吐くと時間が伸びる。
観客席と舞台との呼吸が合うとき、役者の鋭いキレが観客の五感を刺激する。
集団としてみても新しい娯楽が潜んでいる。積み重ねてきた実績からくる娯楽=遊びは余裕だろう。

さて、「敗れざる者たち」をどう訳そうか?

アングラ演劇革命は1967年に始まる。寺山修司の天井桟敷、唐十郎の紅テント、佐藤信の黒テント、鈴木忠志の早稲田小劇場、いわゆる「アングラ四天王」と言われる劇団に流山児氏は関わっていた。出発点はここにあるのだろうが、
同時多発的に学生運動が「新左翼」、ヒッピーが「フーテン」、反戦フォークが「アングラ音楽」、何なんだコレはが「前衛シュール美術」の登場など、若者文化が今風に言えばサブカルチャーとして本流に見える大きなうねりが起こった。
誰が名付けたか?アングラの時代。意味不明のアッパラパッパッパッ!としてジャンルが確立される。
マイナーがメジャーをも揺さぶるカルチャーショックだったろう。ネガとポジが反転する。これまでの価値観が通用しなくなり、自分での尺度が問われるようになる。演劇ではその芽が育つから厄介だと思う立場の人もいるだろう。
ここで気付かされる。
アングラ劇は「演劇の革命」と言われているが、流山児氏は「革命の演劇」と言う。
プロパガンダとアジテーションで世の中どんでん返し!と言えば過激な歌劇。固いアタマでは拒否されるか?ヘラヘラ笑える「演劇」と「革命」。
1960年代後半から1972年にかけての団塊世代にとっては「革命」は「青春」とも訳される。一般の多数派ではなく限られた少数派だろうが、「志」=「史」は「革命」として訳される。どんな革命だろう?
演劇では「革命」が変異した。その象徴が直球の「世直し革命」から変化球の「エロスの革命」へと突然変異する。怨と愛が渦巻く時代が1967年に登場した演劇革命=アングラ劇。
変化球は魔球か。
はっ!
短絡的に括ればアングラ劇の登場は無政府主義のように思われる。
はっ!

流山児氏の演劇はアングラ第二世代と呼ばれているが、「全共闘」(青山学院時代)1968年の学生運動を経験した生き残りか?過激な演劇サバイバルと読みとることができる。言い過ぎか?…こんなことを簡単に言うべきではないが、つい口が滑ってしまうから魔力。
全共闘が劇団に姿を代えた。これは面白い!面白すぎて真似はできないだろう。
単なる「昔は良かった」の懐古主義ではない。「良かった」のではなく、東大安田講堂や日大全共闘、赤軍の攻防や立てこもり、セクト主義の内ゲバなど、暴力によって政治的に学生たちは負けたのである。
ところが演劇は?
同じ時期に演劇を見られた方は容易に理解できるだろうが、アングラ劇は「情報」などではなく、ピッチピチッと跳ね回りながら日常と非日常の間を縦横無尽に横断していた。
政治よりも「革命的な面白さがあるよ〜」と誘惑してくるアングラ劇。
今の演劇界にとっても影響力は大きい。それは止まることなく走り続けた全力の結果だろう。止まったら死ぬサメか?

流山児氏の演出記録は半世紀で300本を超えた。
静かな演劇にとってはうるさい存在ではないだろうか?…アジテーション劇である。ダメ出しで勢いが生まれる。勢い余れば世界が広がる。
「敗れざる」の「志」は1991年から韓国-中国-カナダ-エジプト-イラン-ロシア-ベラルーシ-イギリス-アメリカ-ルーマニア-インドネシア-タイ-台湾など世界14か国39都市の公演活動へと跳ねる。
流山児氏は寺山修司から「世界に出るべし」と暗示されたことを実現させた。
「一所不住(在)」は物理的世界の広がりばかりではなく、既成概念からの自由解放にも及ぶ精神や行動にも表れる。「これが劇だ。」の魅力が広がる。
自由にも制限がある。制限された自由をどのように突破できるか、生活との戦いもハジマル。豊かさを何処に求めるか?で変わることがある。演劇に限らず美術や音楽、スポーツなどにも言えるだろう。
流山児氏のよく言われる「歌って踊って恋をして」は、劇的に解せば「事件」である。

この本を読みながら、私こと山南が流山児氏と出逢った頃に記憶が蘇っていく。
上京して直ぐであった。昨日のことのようにその日を振り返る。オーメン。
1979年、高田馬場駅で山崎哲作・流山児演出「勝手にしやがれ」演劇団公演のチラシを手渡され、駅近くの群六舎スタジオで観劇。ど迫力に腰が抜けた。以降、興奮冷めやらず演劇団の稽古を見学させていただくことになり交流が始まった。学びの場となった。
1984年までの東京での活動期間で「演劇団」公演をほぼ全20回オッカケ。腰が抜け続ける。虫歯の治療もせずにいたら歯が欠けた。こりゃいかん!役者は歯がイノチ。

芸を盗もうにもハードルが高い。ビシッバシッの老若男女問わず、出よ怪優!
「演劇団」から続く「流山児★事務所」の俳優たちは老若男女問わず美しき怪優たちである。そんな俳優を擁する劇団への憧れ....それは一種の麻薬である。
....演劇!!

【流山児祥プロフィール】
1947年生、熊本県荒尾市出身 演出家、俳優、声優、プロデューサー、
1970年「演劇団」結成以降、1984年「流山児★事務所」代表、日本演出者協会理事長。
今尚、第二世代アングラ小劇場リーダーとして現役疾走中。
アングラ四天王を引き継ぎ、新しい世代へ繋がる。

◎過去の著書「流山児が往く」(而立書房)では〈演劇編→歌謡曲編→プロレス編〉があるが、2023年秋には「新・流山児が往く〜世界漂流編(仮題)」刊行が予定されている。
尚、5月19日「寺山修司 母の歌、斧の歌、そして父の歌」(人間社刊・伊藤裕作:編著)が全国書店・ネット書店で発売された。流山児祥が「寺山修司歌論ノート」を書き下ろしている。これもオススメ。

◎熊本での上演など…
1984年、映画「血風ロック」で熊本映画祭で上映。
1986年、「ザ・孫悟空」熊本演劇フェステバル招待上演。
2001年、「幕末2001」熊本県立劇場。
2004年、「盟三五大切」熊本市産業文化会館/荒尾市文化センター
2010年、「お岩幽霊〜ぶゑのすあいれす」熊本市健軍文化ホール

◎日本演出者協会・演劇大学in熊本
2005年〜2009年、熊本県立劇場
2010年、山鹿市八千代座/熊本県立劇場


コロナ禍で劇団夢桟敷が休演を余儀なくされている頃、「流山児★事務所」はインドネシア3都市を駆け抜け、東京都内での公演やオンラインによる全国発信、日本の演劇人を育てるプロジェクト、台湾での公演も実施している。
コロナ禍2020年2月〜2023年2月までの3年間で20公演。頭が下がると共に手を合わせて拝みに出かけたい。「流山児★事務所」をオッカケルにしても足腰を強くしなければならない。

本を読み終えて、お百度参りを画策する。腰を落として歩け。
夢桟敷の次回公演11月水俣プロジェクトは元気で参ろう。

【劇団夢桟敷予告】
1.井上弘久独演会(協力:劇団夢桟敷)
 9月16日(土)
「石牟礼道子 椿の海の記〜第二章 岩どんの提燈」

2.ひとり芝居+1
 11月17日(金)18日(土)
「苦海からの呼び声」夢現(作 出演)
 Movie「不知火幻視行」(山南・夢現 共同演出/出演者後日発表!)

会場は1.と2.いずれも熊本市国際交流会館5F和室大広間

最新の画像もっと見る

コメントを投稿