劇団夢桟敷 ☆2018.6〜山南ノート5

熊本アングラ万華鏡〜演劇とプライベートの徒然

週刊月曜日 第5号

2022-02-07 02:40:46 | 2020-2022 日記

劇団夢桟敷「週刊月曜日」
〈第5号2022.02.07発行〉
https://yumesajiki.jimdofree.com/
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2022年より劇団夢桟敷が発行を開始した「週刊月曜日」第5号となりました。
backnumber(1)〜(4)は上記リンク先より読めます。

■連載(5)
 根本豊(元 天井桟敷/現 万有引力)レポート
◎書簡演劇と犬頭の男」より
(注/昨年2021より演劇ワークショップのテキストとして使わせて頂いています。)

フレードリック・ブラウンの小説に、ある男に見知らぬ差出人から毎日手紙が届き、それによって次第に人生が変わってゆく、というのがある。私もまた、そうした手紙の差出人になって、平和な家庭に一つの虚構を持ち込んでみたいと考えた。ある連続した現実原則に、異物を挟み込むことによって、その原則にべつの展開点を与えることが、ドラマツルギーだとするならば、劇化のはじまりであり、原則の偶然性を想像力によって再構築してゆくのが、これもまた演劇の一形態に他ならないからである。
従来の演劇は『劇場』という限定された施設の中で、特定の俳優と特定の観客によって、なれ合いの虚構を共有することを意図し、市街劇の形態を模索ぢてゆく内に、その一つの可能性として『書簡演劇』に思い至ったのであった。おそらく、見知らぬ差出人からの手がを受け取った相手は、その手紙を異物として排除することも、ダイレクト・メールの一つとして同化してしまうこともできぬまま、差出人の住む、隠された半世界との緊張関係を持つことになるだろう。そして、そこから彼を主人公とした劇が始まるのである。
ある晴れた日に配達される一通の手紙、或いは毎日、同じ時刻に連続の配達される手紙は、どの内容に応じて、いくつかの謎解きと逆日常化への想像力をかきたてるだろう。これは、俳優も観客もない『演劇』ではない。
手紙の受取人(差出人)が、その両者を兼ねるアンドロイドギュヌス的な『もう一つの演劇』行為である。ここでは俳優であり、観客であり、同時の市民でもある多頭の人々が登場してくる。そして『鉛筆で書くことによって生み出されるワニを、日常の中で殺すことはできない』という虚構の神話を否認し、現実とフィクションという二元論敵な対立を過去の遺物と化してしまうのである。
もしかしたら、たった一通の虚構の手紙が、死を呼び出すことになるかも知れない。あるいは受取人の現実の中で、七つ子を孕ませることができるかも知れない。
少なくとも『出会いは何物かを変革する』
それが、私の意図する『演劇』である。

「犬頭男の手紙」
ある日町の煙草屋に1通の葉書が届く。それには1行だけ
「恐れ入りますが、煙草の火を貸してくれませんか?」
と書いてある。
また翌日、
「私は怪しいものではありません。ほんとに煙草の火を借りたいだけなのです。」
翌日、「私の特徴…」
翌日、「私は4月20日午前10時頃…」
また翌日、
「私は玄関を開けてまず『おはようございます』と言います。それからシルクハットを脱ぎ『煙草の火を貸してくれませんか?』と言います。もしお望みならば…」
翌日、「火はライターでなくマッチで」
翌日、「私の煙草は長さ12メートルの巨人国の葉巻ではなく普通の煙草…」
翌日、「いよいよ明日、宜しくお願い」
そして指定の4月20日午前10時煙草屋の玄関が開き、1人の男が入ってくる。
「おはようございます。」
「恐れ入りますが、煙草の火を貸してくれませんか?」

👉レポートは第6号(2.14)につづく。
 次回は劇団夢桟敷のワークショップ「書簡劇①」の記録(2021.6)のエピソードが加わります。

■遊戯療法(3)
 記憶喪失者の独白 
「眠り男は穴の中」
 山南純平

「そんなセリフはないですよ。
 よく読み返してご覧なさい。
(ト 見える台本はない。エアーである。腹話術師のように口を閉じて語る。活舌は悪い。
ポケットからいかにも作りものの口を取り出して…)
『患者があなたで?イシャがぼくですと?』
(ト 目を見開き、何かの気配を感じてうろつく)
『夢遊病者は台本通りにはいかない。』
君はそう思っているのですね。
ぼくの思う壺に落ちたな。
この壺から抜け出せると思ったら大間違い。
ここが世界だ。ここがあなたの全部。
ほら、この壺は大きな口の穴だ。
自分の穴の中で夢を見るが良い。
半径90cm
(ト ポケットから取り出した口が激しく語る。)
『はい、確かに台本通りにはいかないものです。その証拠に言ってはならないこと、やってはならないことを思いついてしまうのですから…。
勝手にあの子を拐って、あの子の首を絞める。
…愛しているよ。お願いだからぼくを愛していると言ってくれ給え。
至高の愛!
ねえ、こっちを見て。
ねえねえ、…こっちを見なさい!』
(ト 夢遊病者は自らの首を絞めながら)
劇中劇を繰り返し、他人の役に移り変わり続けると、もう、僕自身に戻れなくなる。
何だ?このエクスタシー。
ぼくの穴の中は空洞だ。
『空っぽは何て気持ち良いのだろう。』
ぼくはそんなセリフを希望します。
『気持ちの良いセリフ、耳障りの良い言葉、それを望んでいるのですね。』
偽善と言われることを恐れるな。
偽善を偽善と思うことには勇気がいる。
(ト 更に激しく自分の首を絞める。)
…愛しているよ。お願いだからぼくを愛していると言ってくれ給え。
『ちょっと待ってくれ給え。それはぼくのセリフだった筈だ。』
先生!
(ト 何度も叫ぶ。呼吸が荒くなる。やがて言葉が見えなくなる。セリフは息の根。)
『えっ、先生?
患者がぼくで、イシャがあなたです。
『何度も何度も入れ変わりのですか?
夢落ちを繰り返すたびに、ぼくはぼくの居場所を無くしてしまうのですが…。
あ〜、ぼくの記憶は放浪する。
あ〜、歴史は誰かの都合の良いようの塗り替えられてしまう。』
(ト 音が流れる。チラチラと絵が流れる。登場人物の眠り男はオドル。そして、作りものの口が歌う。)

『この世で一番遠いところで…
 ぼくではなく、あなたたちと歌いましょう。
 行方不明の歌を。
 ♪♪♪』
(ト 歌詞は稽古場で追加される。)
・セリフ。
全ては夢だ。
現実だと思いこんでいた全てのことは夢であり、夢だとしか思いようのなかった脱出が今は現実なのだ。
(注 「遊戯療法」は続く)

■編集後記
演劇実験部編集人 TNS

劇団夢桟敷◎テラヤマプロジェクトを2020年より企画して、
第一弾を「あたしはあなたの病気です」(『疫病流行記』寺山修司より)
2021年3月上映会を熊本市国際交流会館にて開催しました。
「人間 寺山修司」トークタイムを設けて、寺山偏陸氏を招き刺激的な上映会になりました。
但し、映像製作については未完の課題が残り、更に作業を続ける。
只今、
書簡劇・訪問劇〜市街劇へとつなぐ企画へと進めています。
尚、上映会DVD(非売品)は直接手から手にお渡ししています。
興味ある方はお問い合わせください。

劇団夢桟敷
〒861-5517
熊本市北区鶴羽田4-5-39
TEL 09045815190
mail yumesajiki@ybb.ne.jp
坂本真里(制作)