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『天安門は見ていた』第1部⑥  胡耀邦の失脚と趙紫陽総書記の誕生へ(休止)

2024年06月19日 02時14分42秒 | 文学・小説・戯曲・エッセイなど

第6幕・・・胡耀邦の失脚と趙紫陽総書記の誕生へ

第1場 (1986年の8月下旬、ホンコン(香港)の繁華街を宋哲元と李慶之が並んで歩いている。2人は妻や幼い子供をホテルに残して散策中だ。)

宋哲元 「盂蘭盆(うらぼん)になると、ホンコンも大勢の人で賑わうね。僕らのような観光客が多いということだ」
李慶之 「そうだな、混んでるから、子供たちをホテルに置いてきて良かったよ。ところで、君は9月からまた大学に戻るんだね」
宋哲元 「うん、社会学を専門にやるよ。アメリカで大いに学んだからね」
李慶之 「1年間の留学が実を結んだわけだ。良かったな」
宋哲元 「君は都市工学系の公司(こんす)に入るの?」
李慶之 「うん、そのつもりだが、まだはっきりしない。なにせ志望者が多いから、競争率が大変なんだ」


宋哲元 「そうか、改革・開放の路線が上手くいっているのだな。鄧小平と胡耀邦総書記の政策が受け入れられている証(あかし)だ」
李慶之 「いや、経済は趙紫陽総理の手腕の方が評価が高いよ。胡耀邦のやり方は少し強引すぎるね。彼はどちらかと言うと、政治面に傾いている。
民主化などの政治改革にえらく熱心なんだ。それはいいが、保守派の長老たちの反感を相当に買っているようだ」

宋哲元 「そうか、アメリカへ行っていたから、最近の政治情勢はまったく知らないが、総書記の民主化、自由化への熱意と取り組みに僕は前から賛同しているんだ。
彼のやり方が“まずい”と言うのかね?」
李慶之 「いや、そうは思わない。僕も総書記を支持したいが、党内には反対の声が高まっていると聞いているんだ。少し危険かな・・・
いや、もうこんな話はやめよう。せっかくホンコンに来たのだから、細君たちの“お土産”を買っていこうじゃないか。 美瑛(注・慶之の妹で哲元の妻)は何が欲しいんだって?」


宋哲元 「うん、クッキーやチョコレートがいいと言っていたね。光希(哲元夫妻の子)も食べるからって」
李慶之 「ハッハッハッハッハ、光希君も食べるのか、それはいい。うちは何にしようかな・・・」
宋哲元 「栄花さん(李慶之の妻)は化粧品が好きだろう。女性はなんと言ったって美容が第一さ。おっと、栄花さんはもともと綺麗だけど」
李慶之 「ふん、お世辞かね。でも、化粧品は高そうだな、どうしよう・・・ とにかく店に入ってみようよ」
宋哲元 「うん、そうしよう」
(2人は繁華街を散策しながら、一軒の店に入っていく。) 

 

第2場 (1986年の秋、北京の鄧小平の自宅に趙刻明が訪れてくる。)

趙刻明 「お忙しいところ、時間を作っていただいてありがとうございます」
鄧小平 「いやいや、久しぶりだね、元気にしているかな」
趙刻明 「ええ、まあなんとかやっています(そう言って、鄧小平に向かい合って着席)。 早速ですが、最近の党内の情勢を見ていると、胡耀邦さんに対する“風当たり”が相当に強まっていますね。なんとかならないのですか?」
鄧小平 「うむ、仕方がないか・・・」
趙刻明 「仕方がないとはどういうことですか、総書記は改革・開放政策に一生懸命に取り組んでおられる。 
保守派の長老たちに不満があることは承知していますが、彼が中国の将来のことをいつも考え、真面目に努力していることはもちろんご存知でしょう。一体、彼のどこが悪いというのですか?」

鄧小平 「最近の彼は経済よりも、政治に重点を置きすぎているね。しかも、それがブルジョア民主主義、ブルジョア自由主義に傾いているのだ。これでは、党内の長老たちは我慢できないのさ」
趙刻明 「いや、彼らの方が“時代遅れ”で、改革・開放政策の邪魔をしているとしか思えないのですが」
鄧小平 「そうではない、胡耀邦の方が行きすぎている。 君は、彼がホンコンの右翼ジャーナリスト・RKと対談した記事を知っているのか?」
趙刻明 「いや、その記事は知りません。RKは有名な人ですが・・・」
鄧小平 「RKはその中で『鄧老人が存命中に、あなたが彼の中央軍事委員会主席の地位を引き継いだらどうですか』と質問している。 
これに対し、胡耀邦は『そんなことは考えたこともない』と答えているが、引き継ぐことを明確に否定していないのだ! ということは、軍事委員会の主席に彼は“野心”を持っているかもしれない。
こんなことが許されるとでも、君は思うのか?」

趙刻明 「それは少し考えすぎでしょう。総書記は軍事委員会を引き継ぐとは言ってませんよ、誤解でしょう」
鄧小平 「いや、それは甘いぞ。胡耀邦は党のトップに6年以上も立っていて、だんだん思い上がってきたようだ。 これ以上は言わないが、私にも考えはある。そのうちはっきりするだろう」
趙刻明 「えっ、まさか・・・」
鄧小平 「君も新聞記者なら、いろいろ取材をしてマシな記事を書くことだな、ハッハッハッハッハ」 

 

第3場 (その年の11月下旬、北京・中南海にある胡耀邦総書記の執務室。彼のほかに胡啓立政治局員、趙刻明がテーブルを挟んで話し合っている)

胡啓立 「総書記、残念ながら、民主化に対する長老たちの反発は予想以上に根強いですね。私はできる限り党幹部に働きかけていますが、次の“公式会議”では何が起きるか分かりません。もちろん、まだ時間はありますが」
胡耀邦 「ふむ、オヤジさん(鄧小平のこと)に、最後の説得をしないといけないか」
趙刻明 「オヤジさんはもっぱらの噂ですが、楊尚昆や薄一波(はくいっぱ)たちとよく連絡を取り合っているようですね。 
また、総書記がホンコンのジャーナリスト・RKと対談した内容は、事実以上に大げさに伝わっていますよ。総書記がオヤジさんの“引退”を望んでいるとか・・・」
胡耀邦 「そんな話はまったくデマだ! 参ったね。 オヤジさんはなんとなく私を避けているようだな。こんな時にもし不測の事態でも起きたら、一大事になるかもしれない」

胡啓立 「心配ばかりしていても仕方がない、明日から私は幹部たちと精力的に会っていきますよ。まあ、見ていてください」
胡耀邦 「うむ、ありがとう。 それにしても、私が提唱した“百花斉放・百家争鳴”の運動は完全に挫折したようだ。無念だよ」
趙刻明 「総書記、気を落とさないでください。私はあなたを心から支持します。そのことはオヤジさんにも言いましたよ。
それより、全国の学生や労働者、市民たちの間では、前にも増して総書記に賛同する者たちが増えていると聞いています。国全体が、そういう方向へ進んでいることは間違いありません。だから、気を落とさずに・・・」 (その時、総書記の秘書官が現われる)
秘書官 「総書記、会見を約束していた湖南省の党委員会のメンバーがやって来ました」
胡耀邦 「おお、そうだったな、では失礼するよ」(彼が立ち上がり、3人の対話が終了) 

 

第4場 (12月の中旬、北京市豊台区にある宋哲元・李美瑛夫妻の家に、友人の陶円方・黄玲玲夫妻が訪れ歓談している。4人の他に幼児の光希)

陶円方 「光希君は本当に可愛いね、もう歩けるんだな」
宋哲元 「うん、歩きまわって困るよ(笑)」
黄玲玲 「でも、元気でいいですね、すくすくと育って」
李美瑛 「お蔭さまで、今のところ風邪を一度ひいただけです」
陶円方 「それは結構だ、坊やは奥さんに似ていると思うが・・・」
宋哲元 「いや、親戚の話だと、僕に似ていると言ってたよ」
陶円方 「ハッハッハッハ、それは君の“欲目”だよ、美瑛さんはどう思う?」
李美瑛 「私に似ていると思います(笑)」
陶円方 「それ見ろ、これでお相子(あいこ)だな、ハッハッハッハ」
宋哲元 「君の方はいつ“おめでた”になるの?」
陶円方 「僕たちの方はまださ、成り行きにまかせているよ」

宋哲元 「それはそうと、合肥市(ごうひし・安徽省の省都)の人民代表選挙で、方励之(ほうれいし)さんがトップ当選を果たしたそうだな。 きょう、たまたま大学へ行ってみたら、その話で持ち切りだったよ」
陶円方 「うん、あの人はわが国の民主化運動のリーダーの1人だ。今は科学技術大学の第一副学長で、とても人望のある人だよ。 
こういう人が最高得票で選ばれたということは、中国の将来にとってこれ以上 良いことはない。みんな大喜びで歓声を上げているぞ!」
宋哲元 「それはいいが、党中央は大変なショックを受けているらしい。きょうか明日にも、何か“お達し”が出るのではという噂だ」
陶円方 「うむ、党中央はショックだろうが、現地の学生らは喜びのあまり、気勢を上げてデモ行進なんかしているそうだ。見ものだな~」

宋哲元 「それもいいが、あんまり過激な行動に出ると、かえってまずいのではないか。そうは言っても、大学で張り切っている者もいたが・・・」
陶円方 「デモが広がったって仕方がないさ、今まで党の中央にあまりに抑えられてきたからね。胡耀邦総書記は別だが・・・ 経済の発展はもちろんいいけれど、政治の民主化、社会の自由化がこれから最も望まれているんだ。
それはそうと、君はこの前、ホンコンへ旅行してきたそうだな。その話でも聞かせてよ。僕たちも一度は行ってみたいと思っている、“東洋の真珠”だそうだから(笑)」
宋哲元 「うん、いいよ、それはいいがまず夕食だ。(美瑛に向かって)頼むよ」
李美瑛 「はい」
黄玲玲 「美瑛さん、手伝いましょう」
李美瑛 「ありがとう」(2人は台所の方へ向かう) 

宋哲元 「ホンコンの話もいいが、ちょうど、これからBBCの外国語ニュースがあるんだ。それを聞いてみよう」
陶円方 「それはいい、僕は英語はよく分からないから教えてよ」
宋哲元 「うん。(彼がラジオのスイッチを入れる。英語の音声・・・彼はしばらく聞き入る) そうか、やっぱり学生のデモは広がっているね」
陶円方  「どういうことなんだ?」
宋哲元 「民主化要求の学生デモが、南京や上海でも起きていると放送しているよ・・・ 北京でも起きるかもしれないって」
陶円方 「そうか、外国のニュースが伝えているのに、北京電視台は何も放送しないな、この国らしいよ(失笑)。 しかし、BBCなどでほとんど分かるから、当局がどんなに規制しようとも、民主化要求の動きは浸透していくだけだ」
宋哲元 「(ラジオのスイッチを切って) しかし、デモがあんまり過激になると、当局の弾圧が激しくなりかえってマイナスになるのでは・・・ どの辺で話し合いで解決するかということだ」

陶円方 「それは分かっている。僕も単に、デモやストをすればいいとは思っていない。どういう“解決策”を見つけ出すかということだ。 
だいたい、自分たちが住んでいる所の首長を、選挙で選べないなんておかしいよ。その点だけでも政治改革は必要だな、そうは思わないか?」
宋哲元 「もちろん、君の意見に賛成だ。それは分かっているが、なにせ今の党中央の姿勢では、実現はむずかしいと言わざるを得ない。その辺が厳しいな。
われわれの考えを理解してくれるのは、胡耀邦総書記とごく一部の幹部だけさ」
陶円方 「だから粘り強く、民主化要求の活動を続けるしかない。ここでは北京大学、いや精華大学がまず立ち上がるかな・・・」
(その時、李美瑛と黄玲玲が台所から戻ってくる)
李美瑛 「お待ちどうさま、料理ができましたよ」 (そう言って、2人が夕食の料理をテーブルの上に並べ出す)
陶円方 「おお、うまそう!」
宋哲元 「ゆっくり食べようよ」 

 

第5場 (12月下旬、北京の李慶之・摂栄花夫妻の家に宋哲元が遊びに来ている)

宋哲元 「君は上海に行っていたんだね」
李慶之 「うん、公司(コンス・会社)の用でたまたま行っていたが、なかなか面白かったよ」
宋哲元 「ということは、学生たちのデモを見たということなの?」
李慶之 「うん、そうだ、かなり整然として統制がとれたデモだった。つまり政治の民主化を求めるというものではなく、一部の党幹部の汚職や腐敗に抗議するデモだったのさ」
宋哲元 「なんだ、合肥(ごうひ)の民主化要求デモとはずいぶん違うね」
李慶之 「そうさ、だから整然としているんだ。こういうデモなら、当局も安心して対応ができるのさ。 
上海市長の江沢民(こうたくみん・後の中国共産党総書記)という人はデモには反対だったが、いち早く学生たちの集会に出向き、彼らの要求は理解できると言ってうまく説得し、抗議行動を丸く収めたそうだ。なかなかやるね」

宋哲元 「そうか、なにか物足りない感じもするが・・・」
李慶之 「それでいいじゃないか。紛争が起きれば、学生たちにも上海の当局にとっても、良いことは何もない。争いがないことが一番だよ」
宋哲元 「ふむ、しかし、胡耀邦総書記は民主化の実現が第一だと言ってるよ。特に政治の民主化だ。
つい先日、友人の陶円方君と話したのだが、彼は自分たちが住んでいる所の首長を選挙で選べないなんておかしい、その点だけでも政治改革は必要だと言っていたが、僕はその意見に賛成だ。 君はどう思う?」
李慶之 「僕も基本的には賛成だ。しかし、それには時間がかかるね、今の共産党を見れば一目瞭然ではないか。古参の“長老”がまだいっぱいいるからね、急がないことだ」
宋哲元 「しかし、そんなことを言っていると、いつまでたっても民主化は実現しないと思う。円方君もそう言っていたよ」

李慶之 「僕は君の紹介で陶円方君に一度会ったが、彼は少し“過激”すぎないか。政治も大切だが、今は経済の成長、発展が第一だと思う。この点は君と考えが違うようだが・・・」
宋哲元 「経済ももちろん重要だが、政治改革もとても大切なことだ。この点では、君とどうも“水掛け論”になってしまうね(苦笑)。
それにしても、胡耀邦総書記の立場がだいぶ苦しいという噂が立っている。それが特に心配だよ」
李慶之 「うむ」 (その時、摂栄花がお茶の用意をして現われる)
摂栄花 「洋菓子とお茶でも飲んで一服しませんか」
宋哲元 「どうも ありがとう」
摂栄花 「美瑛さんは、きょうは光希ちゃんの“お守り”ですね」
宋哲元 「そうです、けっこう大変なようですよ(笑)」
李慶之 「お互いさまだ(笑)、さあ 一服しよう」(3人がテーブルを囲んで歓談) 

 

第6場 (12月末のある日、北京の鄧小平の自宅に胡耀邦が訪ねてくる。客間のテーブルを挟んで2人は話し始める)

胡耀邦 「面会の要望を聞いていただいて、ありがとうございます」
鄧小平 「いやいや、実は私の方からも内密に会いたかったのだよ」
胡耀邦 「そうですか、では、どうぞお話しを」
鄧小平 「うむ、それでは話すが、総書記は合肥(ごうひ)の科学技術大学で起きた学生たちのデモを、どう見ているのかね。デモは南京や上海などにも“飛び火”した。私は許せないと思うが・・・」
胡耀邦 「過激なデモにならない限り、私はそれで良いと思っています。学生たちは主に地方の党幹部の汚職などに反発し、抗議しているのですよ」
鄧小平 「それは分かっている。しかし、放っておくとデモは過激になるばかりで、学生たちの要求や抗議はますます拡大するばかりだ。デモとはそういうものだと、君も分かっているね」
胡耀邦 「ええ、そういうものでしょう。もちろん、暴力行為は厳重に処罰します。ただし、学生たちの要求や不満は虚心坦懐に聞くべきだと思います。それが“民主化”への第一歩だと思いますが」

鄧小平 「その民主化だが、今は経済の成長や発展が第一で、民主化は早すぎないか? 長老たちはみんなそう言っているよ」
胡耀邦 「長老たちはそうでしょう。しかし、中国は民主化と自由化で生まれ変わる必要があると思います。そのために私が総書記となり、あなたもそれを認めてくれたではありませんか」
鄧小平 「はっきり言おう。中国の民主化はまだ20年早い! それはほとんどの党幹部も思っていることだ」
胡耀邦 「そんな・・・」(絶句)
鄧小平 「だいたい、科学技術大学の方励之や作家の王若望(おうじゃくぼう)などは学生たちのデモを扇動して、何をたくらんでいるのだ。 私は彼らを党から“除名”しようと思っている。けしからん奴らだ!」
胡耀邦 「ちょっと待ってくださいよ、彼らにも行き過ぎた点があるかもしれませんが、除名というのはやり過ぎではないですか」
鄧小平 「そんなことはない! だいたい、学生デモが起きた“責任”は君にも大いにあるのだぞ、ほとんどの幹部がそう言っている」

胡耀邦 「そうですか、それなら私にどうしろというのですか? 謝罪しろとでも・・・」
鄧小平 「はっきり言おう。今のままでは、党が分裂、いや“分裂状態”になる。その原因は君の性急な民主化、自由化路線にある。その責任は重い。 よって、総書記を辞めてもらうしかない!」
胡耀邦 「えっ、私が総書記を辞任するのですか!?」
鄧小平 「そうだ、それ以外に党の分裂状態を克服する手はないのだ」
胡耀邦 「そんな・・・ では、次の総書記に誰がなるのですか。あなたが考えている人は誰ですか!?」
鄧小平 「うむ、趙紫陽(ちょうしよう)総理が適任だと思っている。彼しかいないだろう」
(胡耀邦が沈黙する。しばらくの間)
鄧小平 「この件は、近いうちに君や趙総理らに集まってもらって決めたいと思う。だから内々の話にしてくれ。
今日は思い切った話になってしまったが、悪く思わないでくれ。これも党の分裂状態を克服し、中国の発展を願う一心から出たことなのだ」
(胡耀邦は押し黙ったままでいる) 

 

第7場 (1987年1月の下旬、北京・天安門広場にあるベンチで、真昼間に瘋癲老人と徘徊老人が話し合っている)

瘋癲老人 「久しぶりだが、元気にやっているの?」
徘徊老人 「うん、まあまあだ。しかし、こういう寒い日は身に応えるね」
瘋癲老人 「いや、ごめん、夕方になる前に話をやめよう」
徘徊老人 「うん、ところで、胡耀邦が党総書記の地位をクビになったそうだな。みんながその話で持ち切りだ」
瘋癲老人 「そうなんだよ、彼が総書記から降ろされたことに、多くの人がショックを受けている。特に、若い人たちへの影響は大きいようだ」
徘徊老人 「なぜ降ろされたの? 民主化とやらは遅れるのかね」
瘋癲老人 「党の長老たちが猛烈に“暗躍”したそうだ。そうした動きに、鄧小平さんも逆らえなかったのかな」

徘徊老人 「いや、鄧小平も胡耀邦に嫌気が差したというぞ。彼の民主化、自由化路線に待ったをかけたとか・・・」
瘋癲老人 「そういう話もあるが、真相は分からない。とにかく、民主化などは相当に遅れるね」
徘徊老人 「あとはどうなるんだ」
瘋癲老人 「趙紫陽総理が“総書記代行”になったから、いずれ彼が正式に総書記になるよ。しかし、党をきちんと仕切れるか心配だな」
徘徊老人 「それはどういうこと?」
瘋癲老人 「うん、趙紫陽さんは民主化にそんなに熱心ではないようだ。彼は農業や産業など経済には強いが、党の若返りや体制改革など政治面にはあまり関心がないんじゃないか。
だから、長老たちは安心しているらしい。鄧小平さんもきっと同じだよ」

徘徊老人 「ふむ、経済優先か、それもいいじゃないか。われわれの暮らしが良くなることが一番だ、そうじゃないのか」
瘋癲老人 「それはそうさ、しかし、体制面での改革も重要だよ。われわれの子供や孫たちの将来を考えると、民主化、自由化されたより良い社会が望まれるんだ。そうだろう?」
徘徊老人 「いや、俺にはよく分からない。お前は少し“西洋かぶれ”じゃないのか、とにかく、生活が良くなることが第一さ。中国がだんだんそうなっていけばいいじゃないか、むずかしい話はご免だよ。どうも話が合わないな」
瘋癲老人 「そうか、お前とはいつもこうなるね。まあ、いいだろう、将来のことだからね」
徘徊老人 「そうさ、今の生活が最も大切だ。孫の話でもしよう」
瘋癲老人 「ハッハッハッハ、そういうことか・・・」(2人の会話はなお続く) <休止>


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