2014年5月25日(日)
引越しも一段落。そこで、今日は、今月のエッセイサークルでのエッセイを・・。
つい先日の出来事とは思えないほど、遠くなった出来事だけれど・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「相見積もり」
ピンポ~ンとインターフォンが鳴った。二階の窓から顔を出すと、門の前に若い男性が居た。
私は、この春、マンションに引越すが、そのために新居のリフォームが必要となり、二社に
見積もりを依頼した。今朝九時に電話して一方を断ったのだが、そのA社の営業さんだ。
努力してくれたろう見積もりを断るという気の重い用件を片付けた後なので、顔を合わせたくは
無かったが、壁紙の見本帳を返さなくてはと、少し風の冷たい外に出た。
彼は、にこにこと話を切り出した。
「ご迷惑かと思いましたが来ちゃいました~。僕らにもう一度チャンスをくれませんか?
あれから一時間かけて、なんとか部長を説得して、大幅な値引きが出来ました!」
気安い若者言葉にも戸惑ったし、私の電話からわずか一時間半で五十万円下げてきた粘りに、
私は固まってしまった。以前の彼との雑談で、A社は現況のフローリングを剥がしてやり直す
「新規張り」、対するB社は剥がさず、上に新たに張る「重ね張り」と話していた。
その時、彼は、「重ね張り工法だと、フローリングだけで四十万円は安くなりますが、でも……」
と、新規張りの良さを語っていた。断ったときに、
「B社のほうにしました」
とだけ言えば良かったのに、長年の付き合いのあるB社の女性の営業さんの頑張りが嬉しく、
彼とのやりとりで、
「○十万円も差があったから」
と、つい口を滑らせてしまった。まさか値段を合わせてくるとは思わなかったのだが、
無茶とも思える値引きは、
『購入したマンションはA社が作った建物で、現在もグループ企業が管理している上に、
今住んでいる私の家もA社を通じて売り出しているための特別サービス』だと言うのだ。
なんとしてもこの仕事を取りたいという姿勢で押してくる。私は、むしろ引き気味で、
お得なサービスと思ったわけではないが、まさにその「自宅の売却」というおお事で今後も
A社と繋がりがあるという点が頭をかすめて断りがたく、新しい見積もり書を受け取ってしまった。
家に入り、一人になると、
―――どうしよう。どうして受け取っちゃったのかしら?
と、決めたことをひっくり返すかもしれない不安がせり上がってきた。急いでB社の営業さんに
電話して、
「こんなことしてしまったけれど、どうしたら良いかしら?」
と、相談したかったのだけれど、生憎、彼女は今日は会社を休んでいる。そのためにまだB社に
返事をしていなかった隙に起きた出来事なのだ。こんな時に頼りになるのは、やはり、娘だと、
すぐに電話で泣きついた。
娘の「あれまあ」というのんびりした口調に、ほっと肩の力が抜ける。二人で相談し、
『見積もりにカーテンの分が入っていなかったので、改めて、カーテン代込みの見積もりを
両社に出してもらってから決めよう』
としたけれど、心の波立ちはなかなか収まらない。
二男にも電話で事情を話すと、
「後から値引きしてくるなんて、良くあることだから、気にしなくて良いよ。それから、
断るときは、高い、安いじゃなくて、『こっちが気に入ったから』にするんだよ。気に入ったものは
しょうがないんだから」
と、アドバイスしてくれた。こちらに戻ったときは、ゴロゴロしているばかりなのに、こうなると、
ベテランの仕事人間になったなあと、頼もしい。
それでも、気持ちが落ち着かないので、友人たちに電話で話を聞いてもらっていると、
「長年の信頼関係のある方が、先に安い見積もりを提示してくれたんでしょ。何、やっているの。
そっちを選ばなくちゃ。私はそうして周りの人を選んできたわよ」
と、私のあいまいさを語気鋭く指摘する人もいて、受話器を持ったまま頭を竦めざるを得なかった。
なかでも、次の日に、お茶をした友人が、可笑しそうに、
「あなた、良い顔しちゃったんだ。相見積もりって、両方に良い顔は出来ないんだよ」
と、言ってくれた言葉が、『それやったんだ』と、すとんと腑に落ちた。
三日後、B社の営業さんに会った時には、落ち着いた口調で説明できた。彼女は、
「そこまでの値引きをするなんて、最初の値段はなんだったんだということですよ」
と、苦笑しつつも、カーテンの見積もりを「頑張りますね」と、受けてくれた。さらに、
「重ね張り工法もまったく問題ないですし、フローリングの素材も上質で、こちらは、
“ワックスがけをしなくて良い品質”ですから」
と、彼女が続けたとき、ピンと閃いた。以前の説明の時にはうっかり流してしまったが、
これは、手抜き主婦の私にとっては、とても大事なことなのだ。
後日、カーテン代込みの見積もりも両社同額で出たが、フローリングの品質の差で私の心は
決まっていた。A社に、電話し、「今回はB社にする」と言った際には、
「これで一生、ワックスがけをしなくて済むと思うと、B社のフローリングが良いです」
と、うきうきした口調で付け加えた。
さあ、これから、私は、私の主婦度を見抜いて、新居のフローリングを選んでくれたB社の営業さんと
タッグを組んで、リフォーム工事を進めていく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
リフォームの済んだ新居。今はとっても綺麗です。
フローリングは、重ね張りにした部屋のほうが、クッション性が良いわ。
もともと絨毯だった部屋は、絨毯を剥がして、新規張りになったけれど、そっちのクッション性と
はっきり違うもの。重ね張りにして良かったよ。
さて、いろいろ汚れる前に、早くお友達、見に来て~。
引越しも一段落。そこで、今日は、今月のエッセイサークルでのエッセイを・・。
つい先日の出来事とは思えないほど、遠くなった出来事だけれど・・。
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「相見積もり」
ピンポ~ンとインターフォンが鳴った。二階の窓から顔を出すと、門の前に若い男性が居た。
私は、この春、マンションに引越すが、そのために新居のリフォームが必要となり、二社に
見積もりを依頼した。今朝九時に電話して一方を断ったのだが、そのA社の営業さんだ。
努力してくれたろう見積もりを断るという気の重い用件を片付けた後なので、顔を合わせたくは
無かったが、壁紙の見本帳を返さなくてはと、少し風の冷たい外に出た。
彼は、にこにこと話を切り出した。
「ご迷惑かと思いましたが来ちゃいました~。僕らにもう一度チャンスをくれませんか?
あれから一時間かけて、なんとか部長を説得して、大幅な値引きが出来ました!」
気安い若者言葉にも戸惑ったし、私の電話からわずか一時間半で五十万円下げてきた粘りに、
私は固まってしまった。以前の彼との雑談で、A社は現況のフローリングを剥がしてやり直す
「新規張り」、対するB社は剥がさず、上に新たに張る「重ね張り」と話していた。
その時、彼は、「重ね張り工法だと、フローリングだけで四十万円は安くなりますが、でも……」
と、新規張りの良さを語っていた。断ったときに、
「B社のほうにしました」
とだけ言えば良かったのに、長年の付き合いのあるB社の女性の営業さんの頑張りが嬉しく、
彼とのやりとりで、
「○十万円も差があったから」
と、つい口を滑らせてしまった。まさか値段を合わせてくるとは思わなかったのだが、
無茶とも思える値引きは、
『購入したマンションはA社が作った建物で、現在もグループ企業が管理している上に、
今住んでいる私の家もA社を通じて売り出しているための特別サービス』だと言うのだ。
なんとしてもこの仕事を取りたいという姿勢で押してくる。私は、むしろ引き気味で、
お得なサービスと思ったわけではないが、まさにその「自宅の売却」というおお事で今後も
A社と繋がりがあるという点が頭をかすめて断りがたく、新しい見積もり書を受け取ってしまった。
家に入り、一人になると、
―――どうしよう。どうして受け取っちゃったのかしら?
と、決めたことをひっくり返すかもしれない不安がせり上がってきた。急いでB社の営業さんに
電話して、
「こんなことしてしまったけれど、どうしたら良いかしら?」
と、相談したかったのだけれど、生憎、彼女は今日は会社を休んでいる。そのためにまだB社に
返事をしていなかった隙に起きた出来事なのだ。こんな時に頼りになるのは、やはり、娘だと、
すぐに電話で泣きついた。
娘の「あれまあ」というのんびりした口調に、ほっと肩の力が抜ける。二人で相談し、
『見積もりにカーテンの分が入っていなかったので、改めて、カーテン代込みの見積もりを
両社に出してもらってから決めよう』
としたけれど、心の波立ちはなかなか収まらない。
二男にも電話で事情を話すと、
「後から値引きしてくるなんて、良くあることだから、気にしなくて良いよ。それから、
断るときは、高い、安いじゃなくて、『こっちが気に入ったから』にするんだよ。気に入ったものは
しょうがないんだから」
と、アドバイスしてくれた。こちらに戻ったときは、ゴロゴロしているばかりなのに、こうなると、
ベテランの仕事人間になったなあと、頼もしい。
それでも、気持ちが落ち着かないので、友人たちに電話で話を聞いてもらっていると、
「長年の信頼関係のある方が、先に安い見積もりを提示してくれたんでしょ。何、やっているの。
そっちを選ばなくちゃ。私はそうして周りの人を選んできたわよ」
と、私のあいまいさを語気鋭く指摘する人もいて、受話器を持ったまま頭を竦めざるを得なかった。
なかでも、次の日に、お茶をした友人が、可笑しそうに、
「あなた、良い顔しちゃったんだ。相見積もりって、両方に良い顔は出来ないんだよ」
と、言ってくれた言葉が、『それやったんだ』と、すとんと腑に落ちた。
三日後、B社の営業さんに会った時には、落ち着いた口調で説明できた。彼女は、
「そこまでの値引きをするなんて、最初の値段はなんだったんだということですよ」
と、苦笑しつつも、カーテンの見積もりを「頑張りますね」と、受けてくれた。さらに、
「重ね張り工法もまったく問題ないですし、フローリングの素材も上質で、こちらは、
“ワックスがけをしなくて良い品質”ですから」
と、彼女が続けたとき、ピンと閃いた。以前の説明の時にはうっかり流してしまったが、
これは、手抜き主婦の私にとっては、とても大事なことなのだ。
後日、カーテン代込みの見積もりも両社同額で出たが、フローリングの品質の差で私の心は
決まっていた。A社に、電話し、「今回はB社にする」と言った際には、
「これで一生、ワックスがけをしなくて済むと思うと、B社のフローリングが良いです」
と、うきうきした口調で付け加えた。
さあ、これから、私は、私の主婦度を見抜いて、新居のフローリングを選んでくれたB社の営業さんと
タッグを組んで、リフォーム工事を進めていく。
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リフォームの済んだ新居。今はとっても綺麗です。
フローリングは、重ね張りにした部屋のほうが、クッション性が良いわ。
もともと絨毯だった部屋は、絨毯を剥がして、新規張りになったけれど、そっちのクッション性と
はっきり違うもの。重ね張りにして良かったよ。
さて、いろいろ汚れる前に、早くお友達、見に来て~。