2010年7月21日(水)
ああ、暑い・・。朝から汗だくで、もう夏バテをしているウィステです・・。
でも、「夏は厳しい」って言われたハハは、今のところ元気で、ベッドで
歌を歌っています。(^^)
そこで、ハハについてのエッセイを一つ・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
抱き枕
母の病室を訪れると、ベッドサイドの物入れに青いビニール袋が下げられている。開けてみると、
ピンクのブタの形をした母の抱き枕が出てきた。
「あら、ブタさんが……。どうしたんだろう」
と見せたが、母は、見ているのか、いないのか、「ああ、そう」と、言うばかりだ。
これは、もう三年ほど前になるか、母が老人ホームに入居したての頃、ホームからクリスマスプレゼント
として貰ったものだ。まだ元気だった父は、包み紙から出てきたブタをにこにこと見ていたっけ……。
私は、職員さんの手前、
「あら、可愛い。良いもの貰ったわね」
とは言ったものの、
――いやに子供っぽい物にしたのねえ。若い職員さんが考えたのかしら。ブタの枕を喜ぶほど母が
子供返りをしているわけでもないのに……。
と少し引っかかったのだった。
母は、老人ホームに暮らして二度目の夏に体調を崩し、提携しているこの病院に入院した。
ブタの抱き枕も身の回りの品として病室へ運ばれ、母のベッドに入れられた。
それは、可愛いぬいぐるみのようで、母の側にあるとちょっとほっとするので、見舞いに行く度に、
「ブタさんは~?」
と、聞いては、足元に転がっているブタの抱き枕を母の顔の側に寝かせ直したりした。
もっとも、母はそれほどブタに興味を示さなかったのだが。
よく見ると、手にした青いビニール袋の内側にも、取り出したブタにも、白く細かい粒々がくっついている。
どうやら抱き枕の中味らしい。縫い目を辿ると、ほつれた箇所があり、そこから零れ出しているようだ。
それで、家に持ち帰ってくださいということなのだろう。確かに、ブタの生地はあちこち毛羽立ち、
赤黒い汚れも点々と付き、ずいぶんくたびれていた。改めて、入院してもう一年半以上も過ぎてしまったのだと感じる。
老人ホームに居た頃は時折り、父が一人暮らす家に母を連れて行くこともできた。母は居間で、老犬のポチを
いとしそうに撫でたものだった。だが、母の入院後数ヶ月で父が亡くなると、母を病院の外へ連れて行く機会も
めっきりと減った。それどころか、次第にベッドに横たわり、点滴を受けていることが多くなった。
そんなとき、母の腕を固定するためか、腕の内側にはピンクのブタが挟みこまれている。それは、子供が寝るときに
ブタのぬいぐるみを抱きかかえている姿に似ていた。
ブタから白い粒々がぱらぱらっと床にも零れ落ちて私が焦っていると、丁度部屋に入ってきた看護師さんが、
「ああ、おじょうちゃん、ほつれてきたのよね。お母さん、このブタさんを、おじょうちゃんって呼んでいるんですよ」
と、母に笑顔を向けた。
――おじょうちゃんか……。いつの間にか、ブタさんを可愛がっていたのかな?
けれども、生地に母の血が点々と染み付いたこのブタの枕を、家で洗ってどれほど痕が取れるものか、
それよりはこれは引退させて、母には代わりに新しくさっぱりとした抱き枕を買ってあげようと思いついた。
そこでスーパーに出かけてみたが、赤ちゃん専門のテナントの赤ちゃん用ぬいぐるみは、鼻や目の周りが
固いのが気になる。おもちゃ売り場のぬいぐるみは、持ってみると案外重い。寝具売り場には普通の枕しか
置いていない。老人ホームの職員さんは、いったい何処で抱き枕を買ったのだろうと訝しく思っていると、
クッション売り場で『くまクッション』を見つけた。六十センチほどのクッションなのでこれまでのブタより
大きくなるが、持ってみても軽く、目を閉じて眠っている顔も、うつ伏せ寝の形も可愛い。
これなら抱き枕の代わりになりそうだ。なにより、ぬいぐるみより手触りがふわふわと柔らかいのが
気に入って買い求めた。
早速病室に持って行き、『くまクッション』を袋から取り出した。とたんに、
「あら~、可愛い」
と声をあげたのは、隣りのベッドのシーツ交換に来ていた看護助手さんで、母は『くまクッション』を
ぼんやり見ているだけだった。せっかく買って来たのに……。
そういえば色がベージュ色で似ているしと、私は、
「ほら、ポチだよ……」
と、目の前にかざしてみた。すると、母は、
「まあ、ポチ」
と、嬉しそうに『ポチ』に目をやった。私は、「そうだよ、ほら」と、頷きながら、『ポチ』を、
母の肩先に寄り添うように横たえた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今日のポチ・・ダンスサークルから戻ったら、足が痛くなっていたので、インドメタシン・ローションを
塗ったんだけれど、ちょっとソファーでくつろいでいるポチの鼻に近づけたら、顔を背けて、
たたっと遠くのソファーに逃げていったわ・・・。(^^;)
ああ、暑い・・。朝から汗だくで、もう夏バテをしているウィステです・・。
でも、「夏は厳しい」って言われたハハは、今のところ元気で、ベッドで
歌を歌っています。(^^)
そこで、ハハについてのエッセイを一つ・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
抱き枕
母の病室を訪れると、ベッドサイドの物入れに青いビニール袋が下げられている。開けてみると、
ピンクのブタの形をした母の抱き枕が出てきた。
「あら、ブタさんが……。どうしたんだろう」
と見せたが、母は、見ているのか、いないのか、「ああ、そう」と、言うばかりだ。
これは、もう三年ほど前になるか、母が老人ホームに入居したての頃、ホームからクリスマスプレゼント
として貰ったものだ。まだ元気だった父は、包み紙から出てきたブタをにこにこと見ていたっけ……。
私は、職員さんの手前、
「あら、可愛い。良いもの貰ったわね」
とは言ったものの、
――いやに子供っぽい物にしたのねえ。若い職員さんが考えたのかしら。ブタの枕を喜ぶほど母が
子供返りをしているわけでもないのに……。
と少し引っかかったのだった。
母は、老人ホームに暮らして二度目の夏に体調を崩し、提携しているこの病院に入院した。
ブタの抱き枕も身の回りの品として病室へ運ばれ、母のベッドに入れられた。
それは、可愛いぬいぐるみのようで、母の側にあるとちょっとほっとするので、見舞いに行く度に、
「ブタさんは~?」
と、聞いては、足元に転がっているブタの抱き枕を母の顔の側に寝かせ直したりした。
もっとも、母はそれほどブタに興味を示さなかったのだが。
よく見ると、手にした青いビニール袋の内側にも、取り出したブタにも、白く細かい粒々がくっついている。
どうやら抱き枕の中味らしい。縫い目を辿ると、ほつれた箇所があり、そこから零れ出しているようだ。
それで、家に持ち帰ってくださいということなのだろう。確かに、ブタの生地はあちこち毛羽立ち、
赤黒い汚れも点々と付き、ずいぶんくたびれていた。改めて、入院してもう一年半以上も過ぎてしまったのだと感じる。
老人ホームに居た頃は時折り、父が一人暮らす家に母を連れて行くこともできた。母は居間で、老犬のポチを
いとしそうに撫でたものだった。だが、母の入院後数ヶ月で父が亡くなると、母を病院の外へ連れて行く機会も
めっきりと減った。それどころか、次第にベッドに横たわり、点滴を受けていることが多くなった。
そんなとき、母の腕を固定するためか、腕の内側にはピンクのブタが挟みこまれている。それは、子供が寝るときに
ブタのぬいぐるみを抱きかかえている姿に似ていた。
ブタから白い粒々がぱらぱらっと床にも零れ落ちて私が焦っていると、丁度部屋に入ってきた看護師さんが、
「ああ、おじょうちゃん、ほつれてきたのよね。お母さん、このブタさんを、おじょうちゃんって呼んでいるんですよ」
と、母に笑顔を向けた。
――おじょうちゃんか……。いつの間にか、ブタさんを可愛がっていたのかな?
けれども、生地に母の血が点々と染み付いたこのブタの枕を、家で洗ってどれほど痕が取れるものか、
それよりはこれは引退させて、母には代わりに新しくさっぱりとした抱き枕を買ってあげようと思いついた。
そこでスーパーに出かけてみたが、赤ちゃん専門のテナントの赤ちゃん用ぬいぐるみは、鼻や目の周りが
固いのが気になる。おもちゃ売り場のぬいぐるみは、持ってみると案外重い。寝具売り場には普通の枕しか
置いていない。老人ホームの職員さんは、いったい何処で抱き枕を買ったのだろうと訝しく思っていると、
クッション売り場で『くまクッション』を見つけた。六十センチほどのクッションなのでこれまでのブタより
大きくなるが、持ってみても軽く、目を閉じて眠っている顔も、うつ伏せ寝の形も可愛い。
これなら抱き枕の代わりになりそうだ。なにより、ぬいぐるみより手触りがふわふわと柔らかいのが
気に入って買い求めた。
早速病室に持って行き、『くまクッション』を袋から取り出した。とたんに、
「あら~、可愛い」
と声をあげたのは、隣りのベッドのシーツ交換に来ていた看護助手さんで、母は『くまクッション』を
ぼんやり見ているだけだった。せっかく買って来たのに……。
そういえば色がベージュ色で似ているしと、私は、
「ほら、ポチだよ……」
と、目の前にかざしてみた。すると、母は、
「まあ、ポチ」
と、嬉しそうに『ポチ』に目をやった。私は、「そうだよ、ほら」と、頷きながら、『ポチ』を、
母の肩先に寄り添うように横たえた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今日のポチ・・ダンスサークルから戻ったら、足が痛くなっていたので、インドメタシン・ローションを
塗ったんだけれど、ちょっとソファーでくつろいでいるポチの鼻に近づけたら、顔を背けて、
たたっと遠くのソファーに逃げていったわ・・・。(^^;)