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PCとネットワークに関するニュースコラム.

HDDレスのノート型端末 FLORA Se210 登場

2005-02-16 09:38:02 | ハードウエア
 私はかつて,モバイルのノートパソコンを持ち歩き,喫茶店やファーストフード,果ては通勤の電車の中で,プログラムを作っていたことがある.このモバイル・プログラミングは,今思えば,割と快適だったが,困ったことがあった.それはトイレである.トイレに行く時に,ノートパソコンもいっしょに持って行くのが「すじ」なのだろうが,さすがに面倒だ.かといって,置いていけば,当然盗まれる可能性があるので,用を足していても気が気ではない.ただ当時,私のノートPCにはプログラムのソースのみが入っていた.そのため仮に盗まれたとしても,経済的には痛いが,FDに保存してあるバックアップをリストアすれば,プログラミングは続行できたので,さほど支障はなかっただろう.しかもプログラムは汎用性のないものだったので,犯人がソースを盗用したり,改変して使用する可能性はほとんどなかったのだ.

 しかし,今のモバイルノートの中には,顧客データベース等の大量の個人情報が入っている可能性がある.もちろんこれら重要情報の入ったモバイルノートについては,
  • 起動に関しては,USBキー・パスワード・バイオメトリックス認証を必要とする.
  • ファイルシステムとしてFATではなく,セキュリティの確保できるNTFSを採用する.
  • スクリーンセーバを活用し,解除にはパスワードを必要とするよう設定する.
  • 重要なファイルについては,バックアップを取り,パスワード・暗号化を施す.
などの最低限の対策は行っていると思う.

 しかし仮に,これらの対策を施してあったとして,モバイルノートを盗まれた場合,何らかのセキュリティホールを応用したり,ソーシャル・エンジニアリング等により,HDDに格納されている個人情報が引き出される可能性は否定できない.

 ユビキダス時代が現実のものとなりつつある現在,インターネットを巨大なHDDと見れば,モバイルノートにHDDを搭載する必然はなくなる.HDDレスのモバイルノートならば,このようなセキュリティ上の問題が少なくなるだけでなく,ノート自体をより小型化でき,製造コストが下げられ,バッテリーをより長持ちさせることもできるだろう.このようなHDDレスのノートに,何らかの理由でHDDが必要ならば,PCカードタイプのHDDやUSB外付けHDDを使用することもできるはずだ.

 シグマリオンIIIを除く最近の「HDDレスのノート型端末」と言えば,「Smart Display」が思いだされる.Windows CE.NETをOSとして採用していたこのSmart Displayが成功していれば,WindowsSerever 2003などのデスクトップサーバのクライアントノートとして改良され,今頃は定着していたのかもしれない.しかし実際には,このSmart Displayは大失敗に終わり,その後「HDDレスのノート型端末」については音沙汰がなくなった.

 ところが本日15日久々に,「HDDレスのノート端末」の新作が登場したとのニュースが入った.日立のFLORA Se210がそれだ.今回の「HDDレスのノート端末」FLORA Se210は,今までと異なり,OSとして組込用WindowsXPのWindows XP Embbededを採用しているWindows XP Embbededは,HDDを持たないPOS端末・ATM・STB(セットトップボックス)等に対して,PCで使用されているWindowsXPに近い機能と環境を提供するOSだ.このOSはWindows CE.NETのようなリアルタイムOSではなく,CPUもWindowsXPと同様にx86系に限られるが,Win32プログラミングモデルに基づいており,WindowsXP用アプリやその開発環境との親和性が高い.Windows CE.NETWindows XP Embbededの違いの詳細は,こちらを参照のこと.

 FLORA Se210の主なスペックは次の通り
  • CPU:Intel CeleronM 超低電圧版 373(1GHz)
  • メモリ:256MB
  • 画面:12.1型TFTカラーXGA,CRT(D-sub 15pin)
  • OS:Windows XP Embedded
  • 拡張スロット:PCカード TypeⅡx1 CardBus(指定通信カードのみ)
  • メモリカード: SD/MMC/メモリースティックx1(使用制限あり)
  • USB&IEEE1394:USB2.0x3(使用制限あり),IEEE1394x1(使用制限あり)
  • サイズ:275(W)×233(D)×23~30.7mm
  • 重量:約1.3kg

 モバイル環境におけるFLORA Se210の使用は,バイオメトリックス認証の後に、内部に組み込まれている日立製の通信ソフトにより,無線LANアダプタやPHSと言ったデバイスを使って,インターネットに接続することから始まる.次に,インターネット経由(VPN)で社内のデスクトップサーバ(プレゼンテーションサーバ)に接続し,サーバの提供するデスクトップを表示する.FLORA Se210のキーボードやパッドで,表示されたサーバー内部のデスクトップを,リモートコントロールすると言うわけで,コンセプト自体はXP Proの「リモートデスクトップ」や「VNC」と同じだ.ちなみに,FLORA Se210には,USBメモリ等の外部記憶へのファイル保存が制限されており,事実上,デスクトップサーバ上のファイルを,これら外部記憶にコピーできない.このような制限ももちろん,セキュリティを高めるためだ.

 日立ではFLORA Se210の単体販売は予定されておらず,日立オリジナルの通信ソフト(サーバ側も含む)やそのライセンス等といっしょに販売されるようだ.価格は1ユーザー当たり,最低26万円から.この価格設定から推測するとFLORA Se210が仮に単体発売されたとしても,価格はHDDを持つノートPC並みとなることが予想される.このようにFLORA Se210は,企業向けの高価なノート端末ではあるが,ユビキダス時代のモバイルハードウエアとして,非常に興味深い特徴を持っている.コンシュマー向けのカスタマイズド・バージョンなど,今後の展開に期待したい.