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WaterMind PC Blog

PCとネットワークに関するニュースコラム.

改定!:「WiMAX IP携帯電話で通話料定額」への道

2005-02-14 20:41:26 | mobile
注:2005/2/12に書いたものですが,2005/2/14に加筆しました.
 
 「IP携帯電話で通話料定額」と聞くと,あの2chでも「祭り」となったmobdem事件を思い出される方が多いと思う.このmobdem事件以降,さすがに「通話料定額の携帯電話」というキャッチフレーズの詐欺行為は聞かなくなった.しかしご存じの通り,すでに固定電話のIP電話化はかなりのピッチで進んでおり,私の周りでもYahoo!のB.B.Phoneや,NTTのIP電話サービス等の固定IP電話のユーザーは多くなった.このように「電話のIP化」によるメリット,例えば「同じIP電話会社間ならば通話料無料」といったメリットが一般消費者に浸透するにつれ,当然の事ながら,「携帯電話のIP化」に対する期待も一般消費者間で高まってきていると思う.

 「携帯電話のIP化」と言えば,上記のmobdem事件以前に,鷹山(ようざん)という会社が名乗りを上げ,当時話題となった.「莫大なインフラ投資を必要とするであろうこの事業を,名もない(失礼!)一企業が,やり遂げるられるのか?」といった疑問が周囲からすぐにわき起こったが,その後鷹山は,モバイル通信事業の基礎ともなる「(PHS)基地局の確保」のため,潰れかけていたPHS事業「アステル東京」を買収し,対外的にこの事業に対する姿勢を示した.鷹山の予定では,PHSのISDN網を光ファイバー等に切替え,2003年秋にIP携帯電話事業をスタートする予定だったが,結局,それには至らず,その後音沙汰が無くなった(注:あったのかもしれないが,聞こえなかった).

 このような状態に陥ったのは,景気やインフラ投資の問題だけでなく,技術的な問題もあったからだと思う.現在のパソコン用無線LANの規格であるIEEE 802.11b等を利用した携帯IP端末などは,三菱子会社である「アイピートーク」などから発表され,数年前から存在するが,未だ現在の携帯電話にはほど遠く,コスト的にも安くはない.このように現在のIP携帯電話が使いにくいのは,元々屋内での使用を想定したIEEE 802.11b等を使用している上に,汎用のプロトコルではなく,独自のプロトコルを採用したためだ.このような制限のために,現在のIP携帯電話は,もっぱら,「内線携帯電話」として企業内で使用されている.言うまでもなく独自規格では,標準規格もしくはデファクトスタンダードに成らない限り,コストダウンは難しい.

 そんな状況下,ひさびさに鷹山=IP携帯電話に関するニュースが入ってきた.鷹山が,WiMAXを採用したIP携帯電話サービスを今年12月よりスタートさせるというのだ.しかも,固定IP電話と同様に,加入者同士の通話は無料で,月額料金は,なんと定額の3,000円!とのこと.詳細はこちら

 「WiMAX」とは,リンク先を読んで頂くとわかるが,今までのホットスポットとは全く異なり,1台のアンテナで半径6~10km(IEEE 802.16-2004)をカバーし、最大で75Mbpsの通信が可能にする大規模な無線LAN(W-MAN)のインフラ規格だ.WiMAXは,さらに細かい分類があり,アンテナ固定(FWA:Fixed Wireless Access)が前提となる「802.16-2004(802.16aと802.16dをまとめたもの)」と,モバイル端末向けのアンテナ移動が可能な「802.16e(基地局から半径2~4kmをカバーし、移動中通信速度は20Mbps程度)」に分かれる.詳しい情報は,IntelのWiMAXページ@ITの記事「2005年のワイヤレスの行方を占う」AirspanWiMAX Forum等を参照のこと.

 今回鷹山がサービス前のフィールドテストで採用するのは,前者の802.16-2004であり,別に設けられた固定APと無線で結ぶ.IP携帯端末は,その固定APとWi-Fi無線LANの801.11x(注:xの部分は不明)で接続する.つまりWiMAXは親局であり,IP携帯端末は直接親局と接続するのではなく,子局である固定APにWi-Fi接続されるわけだ.まとめると,今回の鷹山のIP携帯電話サービスは,WiMAXとWi-Fiのハイブリッド通信技術によるものだと言ってよい.詳しくは,こちらの図参照.以前から,WiMAX都市などの人口密集地には向かないと言われてきたが,それはWiMAXで直接接続する場合だった.今回のように,Wi-Fiとのハイブリッドの場合は,おそらくWiMAX親局とWi-FiのAPをうまく配置すれば,問題ないようにも思う.また使用されるWiMAX基地局も,都市部での使用のためにチューンされた基地局(「MicroMax」,後述)が採用されており,WiMAXの弱点をカバーしている.

 ただし,このハイブリッド方式にはいくつかの謎が残る.そもそもIP携帯電話を実現するためならば,現在所有しているアステルのISDN網をすべて光ファイバーに変え,PHSのCSをWi-FiのAPに変えてしまえば,技術的な問題はあるにしろ,,WiMAXを使わなくてもサービスが開始できそうにも思う.つまりWiMAXを採用する理由は,設備投資コストが安くなることぐらいしか思いつかないが,本当にそれがFAなのだろうか?また鷹山の資料(PDF)の中には,屋外の通信において「下り802.16(WiMAX),上り802.11(Wi-Fi)」という奇妙な記述も見られる.これは何を意味するのか?さらには今回使用される基地局が,単なる802.16-2004基地局ではないのも気になる.この基地局は「MicroMax」と呼ばれるAirspan社製のもので,5GHz帯を使用,802.16-2004規格よりも狭い半径4kmをカバーし,やはり802.16-2004よりも遅い50Mbpsの帯域幅を持つ.おそらく,都市部などの人口密集地で使用するために,セル(基地局のカバー半径)を小さくし,このようなスペックになったのだろう.つまりこの「MicroMax」基地局は,WiMAXとの互換性はあるものの,純粋なWiMAX基地局ではない.もしかすると,策定中の802.16eを先取りした拡張がなされ,端末のセル間移動に対応しているのかもしれないが,「MicroMax」に関しては情報がない.鷹山には,できるだけ早急に,さらに詳しい技術資料を提供してもらいたい.

 いずれにしても現在WiMAXは,携帯電話メーカーのNokiaがそのフォーラムから撤退したり,現行の携帯電話インフラを使い回せる高速無線通信規格HSDPAといった対抗規格を,ボーダフォンやdocomo,さらにはイーアクセスが採用したり,順風満帆ではないものの,確実に勢力を広げてきている.鷹山は,これらの標準規格(+α)を採用し,ついに現行の携帯電話に匹敵する,使い放題のIP携帯電話サービスを開始するわけだ.

 但しいきなり,現行の携帯電話並みのサービスが,今年の12月から開始されるはずもない.おそらく都内の,それもかなり狭いエリアでサービス開始となるのは当然のことだろう.その後レベルを現在の携帯電話並みに上げるためには,まず通話エリアを確保するために,WiMAX基地局及びAPを現行携帯電話会社並みに建設していく必要がある.すでにPHS事業の買収によって,ある程度の基地用地や電信柱は確保されているものと思われるが,いずれにしても,かなりの体力が会社に求められる.さらに端末についても,現在,海外製の試作端末しか発表されていないようだ.以前のIP携帯電話で問題だった,電力消費の激しい無線LANアダプタによるバッテリ消費問題も解決されているかどうか不明だ.そして最大の問題は,本当に5GHz帯の使用許可がこの日本でおりるのかということだ.

 このようにWiMAXによるIP携帯電話で,携帯電話に取って代われるほどのサービスを行うためには,様々な障害が山積している.フィールドテストはクリアできるだろうが,本サービス開始後,これらの障害を鷹山一社と提携一社(BELL NET)だけで,すべて乗り越えられるのだろうか?また,競合他社が,この動きを黙って見ているのだろうか?

 いずれにしても「WiMAX IP携帯電話で通話料定額」への道は,まさに「鷹」の住む険しい「山」道だとは言えるだろう.