LANケーブルを屋外配線しなければならないケースは,以前よりかなり減ってきた.これは無線LANが一般的になってきたからだ.無線LANの場合,同じ距離ならば,障害物の多い屋内よりも,障害物の少ない屋外の方が電波状況がよい場合が多い.そのため,2つの建物間がそれほどの距離がなく,なおかつ障害物も少なければ,
アクセスポイント間のブリッジ接続が可能な無線LANアクセスポイントのみで,2つの建物のLANを
ブリッジ接続できる.また2つの建物間がかなり離れている場合でも,
屋外用指向性アンテナを使用すれば,1.5km~3kmほどの遠距離まで電波を飛ばし,LAN間を接続することも可能だ.また2つ以上の建物のLANを無線LANで接続することも
屋外アンテナあればできる.
このように建物間のLAN間接続については,コストの問題はあるものの,無線LANでほとんどの場合解決できると思われる.しかしながら,セキュリティ・帯域幅・安定性では,無線より有線の方が断然有利であることは,否めない.また企業ではない一般家庭における建物間通信は,コストが重視されるため,無線LANの導入がコスト的に無理な場合もあるかと思う.そうなると,建物間にLANケーブルを敷設することになるが,これがわりと面倒だ.
一般的にLANケーブルの本格的な屋外敷設の場合,空中を行くか,地中を行くかと言うことになると思う.地中ならば,
VE電線管などを地中に埋設し,そこに
屋外用のLANケーブルを
通線工具を使って,引っ張り込むと言うことになるだろう.
屋外用のLANケーブルは,通常のLANケーブルとは異なり,シース(被覆)が二重になっており,外部シースは耐水・耐紫外線・耐寒性を持っている.ちなみに,通常のLANケーブルを屋外に敷設すると,最終的にはシースが硬化し,バリバリにひび割れてしまうそうだ.
このため,LANケーブルを仮に空中架設する場合でも,
屋外用のLANケーブルならば,裸のままで架設しても,それほど問題はないはずだ.ただこの空中架線の場合,雷対策が必要になると思われるが,
屋外用のLANケーブルには,ドレインワイヤーがLANケーブル内に入っているものもあり,仮にLANケーブルに雷が落ちても,このドレインワイヤーが接地(アース)されていれば,雷を地面に逃がすことができるようになっている.
さてこの建物間の有線LAN間接続に置いて,もう一つの難関がある.それは,屋外から屋内へのLANケーブルの引き込みだ.何らかの穴が建物の外壁に空いていれば,そこにLANケーブルを通すことも可能な場合もあるだろう.だが,そのような適当な穴がない場合は,建物に穴を開けなければならない.日曜大工が得意な方なら,腕の見せ所だろうが,穴あけはできたら避けたい人がほとんどだろう.このような問題を解決する,ちょっとおもしろいLANケーブルが
エレコムから新発売されたという
ニュースが入ってきた.
エレコムのLANケーブルLD-VAPF/BKは,屋外仕様のCat.5eケーブルだ.芯線は単芯のため,やや曲げにくいケーブルかと思われる.
いままでのCat.5eの屋外用LANケーブルの場合,ケーブルのみが販売されるの通常で,コネクタがついていないものが多かった.本製品は,ケーブルのみでも発売されるが,両端にコネクタを付けたものも発売される.ケーブルのみの場合は,別途コネクタを購入し,
ケーブルストリッパーや,
圧着(かしめ)工具を用いて,シースをむいてコネクタを付けなければならない.なお詳しいLANケーブルの自作方法は,
こちら.一般家庭のユーザーにとって,両端コネクタ付きのケーブルは,ケーブルの長さが余ったり,逆に足りなくなったりする可能性はあるものの,便利ではあるだろう.ただこの手の製品については,今までも別メーカより購入できた.おもしろいのは次の2つの製品だ.
高耐久すきま用アルミ強化フラットLANケーブルLD-VAPF/SV05は,サッシ窓のすきまを使って,屋外から屋内にLANケーブルを引き込むためのCat.5eケーブルだ.非常に薄く,アルミテープで強化してあるため,サッシ窓を閉じてもケーブルにダメージを与えないようだ.これは先日発売された,
NTT-ATの「
LAN用すき間ケーブル」とほぼ同じ仕様だが,「
LAN用すき間ケーブル」はCat.5ケーブルで,ケーブル先端の片方がモジュラージャック(メス)になっていた.LD-VAPF/SV05は,ケーブルの両端にコネクタがついているが,これはもう一つ新製品の仕様が前提となっているためだ.
もう一つの新製品とは,屋外対応RJ-45中継コネクタLD-VAPF/RJ45WPのことだ.これは上記の2製品(屋外用LANケーブルとサッシ用LANケーブル)を屋外で接続するコネクタ(メス-メス)で,2個入りだ.一つは,屋外用,もう一つが屋内用と言うことだろう.基本的には通常売っている中継コネクタと同等のようだが,もしかしたらコネクタ自身が防水や耐候などの屋外仕様なのかもしれない.コネクタ部の防水処理のために
自己融着テープが2本ついている.これで接続した2本のLANケーブルと中継コネクタ全体を,ぐるぐる巻きにして,防水処理を行うことになる.
以上,これらの新製品を組み合わせれば,屋外にLANケーブルを(簡易)敷設し,さらに建物に穴を開けずに,そのケーブルを屋外から屋内に引き込むことができる.特に1000BASE-T(ギガビットイーサネット)に対応した製品群であるため,無線LANによるソリューションに対するアドバンテージもあるかと思う.ただ気になる点がいくつかある.
まず,最初に屋外用LANケーブルの雷対策だ.
富士電線の屋外用LANケーブルなどは,先ほど述べたように,ドレインワイヤーによって,落雷を地面に逃がすことができるようになっている.ただ,この製品のユーザーは一般家庭が前提となっており,高度な敷設技術を必要とする空中架線などに,この製品が使用されることはないと思われる.いずれにしてもこの製品については,埋設か,地面にそのまま置いたほうが無難だろう.
第2に気になるのは,すきま用ケーブルの屋外にさらされる部分の強度だ.見たところ屋外仕様にはなっていないように見える.中継コネクタに付属している自己融着テープで,その部分全体を巻いてしまえば問題ないのかもしれないが…
第3に気になるのは,2つの中継コネクタを用いる点だ.この中継コネクタ部分は,外部の電気的ノイズを拾いやすいとされている.従って環境によっては,この中継コネクタのために,通信速度が落ちてしまう可能性もあるだろう.
気になる最後の点は,屋外における中継コネクタの耐性だ.自己融着テープで巻いてしまえば,防水については問題ないと思われるが,夏の暑さや直射日光,さらには寒さといった耐候性はあるのだろうか?
これらの疑問に関しては,使用環境にもよると思われるので,実際に長期間これらの製品を使ってみなければ,答えは出ないのかもしれない.ただ,雷については十分な注意が必要だと思われるため,少なくともこの屋外用LANケーブルを空中架線に使用するのは避けた方がよいと思う.基本的にこれらの製品は,一般家庭において,ユーザーが簡単にLANケーブルを屋外敷設する為の簡易製品と考えるべきだ.企業などにおける本格的なLANケーブル屋外敷設については,やはり工事としてプロに頼み,それなりの資金をかけるのは当然のことだろう.