猿八座 渡部八太夫

古説経・古浄瑠璃の世界

忘れ去られた物語たち 39 古浄瑠璃 かばの御ぞうし②

2015年09月18日 18時35分38秒 | 忘れ去られた物語シリーズ

蒲の御曹司 ②

梶原景時は、まんまと蒲殿を大島に流してから、頼朝公の御前に上がり、事の次第を報告しました。聞いた頼朝は、
「蒲の妻子は如何いたした。生かしておいてはならん。」
と言うのでした。梶原は、早速に三百余騎を引き具して三河へと向かいました。蒲殿の居城を二重三重に取り囲むと、鬨の声を上げました。城内は、予期せぬ事に大混乱です。そこに当麻の太郎が憶せず、名乗って出ました。
「現在、我が君蒲殿は、頼朝公の名代として、都へ上がられた。いったいこの狼藉は、なんのつもりか。名を名乗れ。」
その時、梶原が言う様は、
「蒲殿は、義経と内通し、御謀反の心があることは、関東中の知るところだ。頼朝公の命令により、蒲殿は、最早既に、流人となられた。さあさあ、早く御台殿と公達を渡されよ。鎌倉まで連行するのが、この梶原の仕事じゃわい。」
しかし、そんな事に騙される当麻ではありません。
「何。さては、お前が讒言をして、蒲殿を討ったのだなあ。くそ、なんと口惜しい事か。ええ、そこで、暫く待っておれ、我等が手並みを見せてやるわい。」
と言うと、城内に駆け戻り、御台様と公達に事の次第を伝えるのでした。人々は、余りの事にわっとばかりに泣くばかりですが、当麻は、
「さあ、こうなっては、泣いても仕方ありません。皆様は、ここを落ち延びて、必ず未来でお家をご再興して下さい。」
と励まして、二人の兄に当麻の太郎が、御台様と三郎殿につげの刑部が、お供をして、裏門より、逃がすのでした。人々を落とした後、二人の武者は立ち帰って、大勢の中へと切り込んで行きました。戦は花を散らし、当麻の太郎重義の手に掛かって八十余騎。つげの刑部の手に掛かったのが、五十騎余り、やがて、二人は、城内に戻って、しばしの休息を取りました。当麻の太郎が、
「さあ、そろそろ、腹を切るか。」
と、言えば、つげの刑部は、
「いやいや、もうひと合戦。」
と言うのでした。「ようし。」と言うと、二人は再び切って出て、向かって来る者は、取って伏せ、生き首を引っこ抜いては、人礫(つぶて)に投げ散らすのでした。目を驚かせるばかりの活躍です。二人は、残党を四方に追い散らすと、今はもう、本望遂げたとばかりに、城内に戻りました。やがて、城郭に火を掛けると、二人は差し違えて、死んだのでした。この二人の活躍は、彼の樊噲もこうであっただろうと、褒めない者はありません。


つづく