《安全を争う問いから降りる》③
《安全であると感じるとは何か》
今年一回目の相談会まであと一ヶ月。
『「安全である」と感じることは一人ひとり違う』について、丁寧に考えたいと思う。
たとえば、多くの人が「家の中」は「安全」だと感じている。
でも、「家の中」がもっとも「安全でない」と感じて生き延びる子もいる。私がホームで出会う子は、そういう子が多い。
いつも「45分座っていられるか」という言葉を聞くたび、その子たちも思い浮かぶ。
みんなが「安全」と思っていることを、「安全でない」を感じる子もいる。
『何を地獄と感じるかは、一人ひとり違う』。
□
「45分座っていられるか」とは、障害の有無や、コミュニケーション能力の話ではない。
「障害があるから」じゃなく、「子どもだから」。
「障害があるから」じゃなく、「はじめての体験だから」。
「障害があるから」じゃなく、「まだ慣れてないから」。
ホームの子にはいわゆる「障害」はない。あるのは「家」も「親」も「安全でない」というトラウマ体験。
一方で、私が出会ってきた障害のある子たちは、親に大切にされ守られてきた。教育委員会に逆らってでも、みんなと一緒にいられる安全を守られてきた。
どちらの場合も、学校が「安全でない」と感じるのは、「どうして、ちゃんとできないの?」というまなざしを浴びるときだった。
「みんなが、当たり前にできることが、どうしてあなたにはできないのか」
「みんなが、ちゃんと座っているのに、どうして45分座っていられないのか」
「みんなが、怖れていないのに、どうしてあなただけ耳をふさいで怖がっているのか」
「みんなが、一人でできることが、どうしてあなたはできないのか」
□
「家の中」が安全であることもあるし、そうでないこともある。「教室の中」が安全であることもあるし、そうでないこともある。
では、その「安全でない」家や「安全でない」教室と、別の場所を用意すればその子は安全か。
確かに一時的には安全にみえる。でも、その先を考えていく時に次の言葉が浮かぶ。
「俺ね、これまで生きてきたなかで、ここが一番暮らしやすかったと思っているんだよ」
「外では楽しいこと、なーんもなかった。外には一人も知り合いがおらんけど、刑務所はいっぱい友達ができるけん嬉しか。そいから、歌手が来る慰問が面白かたい」
「刑務所は安心。外は緊張するし、家は怖かった」(※)
『何を地獄と感じるかは、一人ひとり違う』。
それでも、私は、娑婆が安全な所であると思ってほしい。
その「はじまり」が、地域の保育園や小学校だと、私は思うのだけれど。これは、就学相談会のことばにはなじまないかなぁ。
(つづく)
※「累犯障害者」山本譲司 新潮社
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