昔、「教育の対象外」という言葉がありました。
その時代、教育の対象外の子どもは、どこで、何をしていたのでしょう。
「教育の対象外」という言葉があった時代、「対象外」の子どもたちは、就学猶予・免除と言う扱いが当然でした。
教育の対象外、それは、教育の敗北ということでした。
でも、多くの人はそう思っていませんでした。
敗北の学校教育の歴史が、明治以来100年以上も続きました。
その歴史の中に、統合教育の配慮の専門性はありませんでした。
何もない所に、モデルはありません。
1970年代、普通学級に障害児が入るようになり、「統合教育」や「共に学ぶ」と言われ始めたとき、どうしたらいいのかというモデルはありませんでした。
少なくとも、「誰も切らない、誰も見捨てない」ことに関して敗北の教育を受けてきた大人には、誰にも分からないことでした。
だから、学校はそれまで通りの一斉授業、集団授業に、「ついてこれるか」「他の子の迷惑にならないか」「担任一人では、手が回らない」、そういう基準で、受け入れの評価や、教育の善し悪しを考えていたのでした。
「障害があるのだから、健常児に合わせるのは無理がある」と考える良心的な教師でも、具体的にどうしたらと考えると、分からないことだらけでした。
「いるだけでいいのだろうか?」
その言葉は、分ける理由にも使われましたし、何か「教育的なことをしてあげたい」と考える教師もまたこの言葉で悩みを表現しました。
どちらにしても、当時の教師にとって、障害児の教育・配慮のモデルは、特殊教育であったり、その子の能力に合った教育という発想しかありませんでした。
分けることに反対する教師でも、自分の目の前にいる子どもが少しでも成長・発達するにはどうしたらと考えるとき、「その子一人に向き合い、丁寧に教えてあげたい」という、教育モデルのなかで考えるしかありませんでした。
「一人一人の能力に合った個別指導で丁寧に」、という特殊教育のやり方は、健常児の個別指導が有効だという経験からも、取り入れやすかったのでしょう。
でも、そうなると、結果的に普通学級のなかに、「一人特殊学級」が出来上がると言う形が見えてきます。そのことの問題は、小さくはないと意識されるようになりました。
一人に焦点を当てすぎることの落とし穴がここにはあります。
普通学級の配慮の専門性を考える時の基本は、ここにあります。
私たちが、「普通学級籍」という、子どもの居場所の根拠にこだわるのは、譲れない確かな思いがあるからです。
当初、普通学級での配慮を、試行錯誤で初めたころのモデルは、「健常児の集団教育」と「特殊教育」しかなかったということを、私たちは確認しておく必要があります。
(つづく)
※
「普通学級の配慮の専門性」は、今まで「介助の専門性」(ケアの専門性)として考えてきたことでした。
もともと、私が「介助員」として教室にいても、「先生」として教室にいても、私のすることは同じでした。ただ、今までの担任一人の体制で、介助員が配置されたときや親の付き添いがある場合の弊害を説明するために、あえて「介助の専門性」という言葉を使ってきました。
しかし、医療的ケアと言われてきた事柄さえ、教師にも認められるようになった今、「教師」も「介助員」も「看護師」も、どの職種であっても、普通学級という子ども集団の中での「配慮」については、同じ専門性が必要なのです。
また「介助の専門性」は「障害児には介助が必要」と受け取られることもあり、それを避けるためにも、しばらくは「普通学級の配慮の専門性」という言葉を使ってみます。
もっといい言葉があれば、すぐに取り替えます(^^)v
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