直接、相談会とは関係ない準備。
先日のブログで、「子どもの言葉」募集と書きましたが、応募はまだ0です(・。・;
そこで、ふと徳永さんの本を取り出して、「癌の末期で死はそう遠くではないだろうなと感じておられると思われる患者さんたち」の言葉を拾ってみました。
◇
生きることの意味は、「今何がしたいですか?」の答えと同じではないが、一部重なることもあるだろう。
癌の末期で死はそう遠くではないだろうなと感じておられると思われる患者さんたちに、「今、一番何がしてみたいですか?」と聞いてみた。
長年にわたって、そんなことを聞いてみた。
聞いても叱られそうもない人を選んで聞いてみた。
「『へい、らっしゃい』、これが生きがいですわ」
肺癌で手術を受け、方肺になた七十歳の男性である。田舎の役場の隣りで食堂を営んでいた。…
「もう一度、お店のカウンターに立ちたい」と言った五十歳の胃癌の女性を思い出した。
…いよいよ店を閉じることになった時、ベッドに寝たままで点滴をぶら下げ、天井を見つめた時、口から出た台詞が「カウンターに立ちたい」だった。
「一番したいのは、寿司つまんでビールをグビと飲むことですな」
医学生のころの臨床実習での食道癌末期の男性の患者さんの弁である。
放射線科の助教授は、そういう人への放射線治療に力をそそいでいる人で、「根治はできなくても、寿司とビールがのどを通る、そういうことを可能にしてあげたい、日本人なんだから」と言った。…
「丸福のコーヒー、一杯飲みたいなあ」と言って意識がもうろうとなり、結局は飲めずに亡くなった小柄な老人があった。…
「何がしたいですか」
「そうですなあ、婦人会で行った温泉旅行、あれがもう一度してみたいです」
膵癌の七十八歳の女性。等のう病があり「食べりゃしません、もう食やしません」と言いながら果物や餅、和菓子に甘いコーヒーを飲んでは血糖値をキープしながら、癌の末期を迎えた。
食べられなくなって血糖はようやく正常となった。
「正常な血糖より、高うても食べとるころが幸せだった」とポツリとおっしゃった。
「弁当、作ったりたい、息子のね」と言った六十三歳の母親もあった。……
「大山が見たいです」と言った元高校の校長先生がいた。……
「日本海が見たいです」と言った四十二歳の主婦もあった。胆管癌の末期だった。…立ち上がれなくなってから、「海が見たい」と思った。横になったまま、小学六年生の一人息子と、ご主人が運転するワゴン車で海岸線をドライブされた。…「海の色が違いますね。鳥取のはね。深い青できれい」…
「何がしたいですか?」と聞くと、「田んぼの土踏んでみたい」と言ったおじいさんがいたのを思い出す。大抵の病気は、田の土を踏むと治ったのだそうだ。おじいさんを車に載せて、田舎の家まで送った。おじいさんはほんとに田へ降り、土を踏んだ。…
「一番何がしてみたいですか?」
「そうですね、道が歩ってみたいです」
そう答えられたおだやかな表情の婦人がいた。その人は膵癌の末期で、「こんな時代ですからテレビにも週刊誌にも癌のことはいっぱい、大体、自分でも分かります」と言われた。
「道を歩ってどこに?」と訊ねると、「スーパーです。主人の好きな物を買い、酒の肴を一品作ってやりたいです」と言われた。「できるでしょうか」とも。
…ぼくは車にその婦人を乗せて家へ行った。…砂利混じりのコンクリート道、脇に雑草が生えていて別に何でもない、よくある道。それを右に曲がってスーパーへ行った。…
◇
「尊厳死を、先生、尊厳死をよろしく頼みます」
余命の長くないことを知っての入院で、そう繰り返す七十八歳の肺癌のおじいさん。
…来る日も来る日も、「尊厳死を、見極めを」と繰り返し、目に涙をうかべるおじいさん。
…とっさにぼくは言ってはならないことを口にした。
「中野さん、死ぬくらいで泣かないでよ。階段からこけて膝擦りむいたり、パチンコで4万円負けたんなら泣いていいけどさ」…
「あと五、六年もしたら奥さんだってそっちに行かれるし、二、三十年したらぼくらもどっとそっちですよ」と言うと、超小柄な奥さんはしきりに手を横に振って「わしゃいきません、まだ、まだ」と抵抗された。
…夕方、…「先生」と中野さんは言った。「おかげさんで、気が、気が楽になりました」
やがて、目も開けなくなり、しゃべらず、何も食べなくなった。
奥さんがいう。孫娘が7月末に帰ってくるので、それまで生きさせてやってほしい、と。
「お孫さん、帰ってくるんだって。お孫さんの名前、分かる……?」耳元で大きな声で言ってみた。
「ゆ、ゆ、ゆか」
おじいちゃんに久しぶりに会った孫娘が夜中のロビーでぼくに訊ねた。
「四月に会った時に比べて、とってもやせていて。先生、おじいちゃん、治らないんですか? なんとかならないんですか?」
ぼくは答えた。
「ううん、おじいちゃん、もう死ぬ。あなたが、おじいちゃんの亡くなるのを見てあげて。おじいちゃん、あなたが一番好きだって」
「えっ、は、はい」と由香さんはためらいがちに答えた。
ちょっと訊ねてみたいと思ったことがあって由香さんに聞いてみた。
「おじいちゃん、何か言った?」
「ええ言いました」
「何て?」
「ゆか、お帰り。ゆか、勉強しょうるか」って言いました。
……生きる意味、何のために生きるか、その答えはいろいろだけれど、死を前にした人たちが口にするのは、ありふれた日常のことである。
何でもない暮らし、特別な意味があるとも思っていないあたりまえの一つ一つの日常の動作。
他界された人たちの言葉は、まさにそこに生きる意味を照らし出す。感謝。
(『死の文化を豊かに』徳永進 筑摩書房より)
◇
長い引用になりました。
付け加える言葉はありません。
ただ、私には、「みんなと一緒に学校にいきたい」という子どものことばと、ここに紹介した言葉がいつも心の同じ場所にあります。
「尊厳死を」と訴えるおじいさんの言葉を「自己決定」や「選択」として聞くのではなく、
「ゆか、おかえり」という日常のおじいさんの言葉に、耳を傾けられる人でいたいと思います。
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森 晴子
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