Hideと「娑婆の自由度」
先日、久しぶりにHideの生活についての話し合いに参加しました。
3年前の「ほうきと生米」事件以来、少しずつ彼のまわりの状況は改善されてきました。
特にこの1,2年は、事業所の担当者や介助者が変わりつつありました。
生米事件のときやそれ以前、Hideは「暴れる・危険な障害者」として語られていました。
話し合いに参加するたび、「どこの誰の話をしているんだろう?」と私は感じていました。
私が知っている6歳から二十歳過ぎまでのどのHideも、そこにはいませんでした。
事件後も、虐待防止のため、安全確保のためといい、介助者一人では無理なので二人体制が必要と言われたときも、「いったい、どこの誰の話をしているのか」と思いました。
あれから三年。
今回、他の事業所に一日体験に行ったときの報告がありました。
Hideが他の作業所を体験するのは初めてのことでした。
◇
《新しい施設・建物にスムーズに入ることができました。
ローズマリーの葉をちぎる作業も40分近く座って参加。
ちょっとあきてぼーっとすることがあったが、「いいよ。好きにしていいよ」と声をかけると、他の人がやっているのを見て楽しんでいる…。
駅前掃除の時も、走りだしたりすることもなく、バスや工事現場など《外部刺激》が強い場所でも気にすることもなく…。
「そこのゴミ拾って」というと拾ってくれる。
一人でちょっと先に行ってしまう時も、声をかけるとすぐに戻ってくる…。
狭い車の中で、大声を出す人がいても問題なし…。
近くをドタバタ走り回る人がいても気にしない…。
昼食時、先に食べようとしたときも、「みんなで一緒に食べるから待ってて」と声をかけるとちゃんと待っていてくれる…。
食べかけのものを、そっともどす…。
こだわりや拒否が少ない。利用者や職員の動きをよく見ている。
その他いろいろ…。》
そこには、私が小さいころから知っているHideの姿がありました。
自立生活を始めた事業所で、いつごろからかすれ違いはじめ、いつの間にか「大変な障害者・暴れる障害者」のように扱われてきた姿が、そこには微塵もありませんでした。
その作業所の方は、結論として、Hideさんがどの施設でも受け入れ可能だと思いますと話されました。
「どこじゃなきゃだめとか、選ぶ方ではないのかな…」
私は報告を聞きながら、そこで長所・特徴としてあげられていることは、どれも「普通学級」にいたからこそ、Hideが自分のものにしてきたのだと感じていました。
自分の生きるスタイル、生きる術として、Hide自身が学んできたことです。
とくに、「Hideさんは、職員の言うことを聞いてくれる、耳をかしてくれる方なので…」という言葉を聞いた時、「ああ、こんなふうに、ふつうに扱ってくれるから、普通学級で学んだことをそのまま表現できるのだな」とも思いました。
また、そのことが、ほうきと生米事件の前後、Hideの周囲にもっともかけていた態度だったのだと思います。
◇
今回、Hideと出会ってからの二十数年を振り返って、「ふつう学級とは、娑婆の自由度を学ぶところ」なんだということを思いました。
小学校の6年間、中学校の3年間。高校の4年間で学んできたもの。
娑婆の自由度。
この世界での、自らの身の処し方。合わせ方。適応の仕方。
どれくらい自由にしていいのか
どらくらい我が儘でいいのか
どれくらいありのままでいいのか。
みんな、どれくらいの自由なら許されるのか。
自分はどのような管理の目で見られているのか。
みんな、どれくらいの反抗(抵抗)、我が儘が許されるのか、許されないのか。
この世界で、子どもでいることは、どの程度不自由なのか。
大人の言うことをどれくらい聞かなきゃいけないのか。
そのなかで、自分はどう自由を使って過ごすのか。
学ぶものは、自由度を図り、自分の適応力を鍛え、その中で自分らしさを出す折り合いをつけること。
今まで、こんなふうに考えたことはなかったけれど、Hideは普通学級の中で、普通の暮らしのなかで、いろんなことを体験し、学んできたのだと思いました。
子ども時代の普通学級の意味が、卒業して10数年が過ぎて、こんなにも鮮やかに手に取るように分かるのは感動でした。
まだ、うまく言葉にならないのですが、「娑婆の自由度」について、しばらくこだわってみたいと思います。
※ 「ほうきと生米」については、以下を参照してください。
http://sun.ap.teacup.com/applet/waninatu/msgcate28/archive?b=21
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