ワニなつノート

私のわたし

私のわたし


入学したときから、ずっとそばにいたお母さんが
いなくなったのをきっかけに、
「親とセットのわたし」が、ほどけた。


学校に入学してからも、家にいるときと同じように、
お母さんがそばにいてくれた。
学校に行くときも一緒。
授業中も、休み時間も、給食も一緒。
いつも近くにお母さんがいてくれて、
トイレに行きたくなれば、いつのまにか背中から声が聞こえ、
私が何か困って泣きそうになると、となりで声が聞こえた。

先生が何か話しかけているみたいだけど、よく聞こえない、
なにを言ってるんだろうなあと思っていると、
「次は体育だから着替えなきゃね」と声が聞こえ、
ああ、たいくかあと思う。

お友だちに何か聞かれて、
なんて言えばいいのかなーと、考えていると、
「それはね」と私の気持ちを
お母さんがちゃんと代わりに答えてくれる。
私は「うん、まあ、そんなもん」と思う。

「お母さんがいつもここにいる」は、
私にとって空気とおんなじ。
だって、生まれる前から一緒にいたんだから。

朝の通学途中の風景も、教室も、先生も、お友だちも、
机も、階段も、トイレも、着替えも給食も、
みーんなお母さんと二人で「わたし」だった。

わたしの体験は、二人一緒の体験だった。
入学式も。教室も。遠足も。プールも。運動会も。
お友だちも。



ある日、
生れる前からいつも一緒にいたお母さんがいなくなって、
「親とセットの私」が、ほどけた。
お母さんがいなくなって、私一人のわたしになった。

私がお母さんのおなかの中にまだいる感じのつづき、から、
この教室に、私が一人で生まれたみたいな感じ。

わたしが、わたしの身体と、わたしの心と、
私の目、私の声で、そして私のわたし一人で
この世界のすべてと向かい合う日々が始まった。

なにもかも、初めての体験。
見ること、聞くこと、触ること、
わたしが2年1組のわたしであること。

すべてが、初めての体験。
なんてステキなんだろ。
こうして、一人のわたしになって初めて、
わたしはわたしの等身大のわたしに出会う。

わたしは、いま、ここで、なにをしよう。
そうだ、お姉ちゃんの教室が、
この学校のどこかにあるはず…。
さがしてみよ。

ピアノの音が聞こえた部屋はどこだっけ。
探さなくちゃ。

トイレにいきたくなったら、
一人でどうしようかしら。

のどがかわいたときは、
そうだ、あそこに水道があった。

ブランコは校庭にある。

渡り廊下の先には、
静かで気持ちいい場所がある。

そうだ、私の好きな絵本も、どこかで見かけた。



そのうち、先生がわたしを探しにくるのに出会う。
お友だちがわたしを迎えにくるのに出会う。

そうか、先生は、お母さんじゃなくて、
わたしを探すことがあるのか。
先生は、私がわたし一人でも、ちゃんと見えるんだね。

私と同じだね。
お母さんがいなくなって、やっとわたしに会えたんだね。

ここにいるわたし。
がっこうにいるわたし。
だって、ここはがっこうだもんね。


お友だち…。

お友だちは、ずっと前からわたしを呼んでたな~。
わたしが振り向くと、お友だちはお母さんと話してた。
でも、もうお母さんはいないから、
わたしがお友だちと話さなくちゃ。

お友だち…。

いつも、朝いちばんに、呼んでくれるのはマキちゃん。
いちばんやさしい男の子は、たろくん。

お母さんとセットの「お友だち」も、
マキちゃんやたろくんにかわった。

わたしが私一人のわたしになると、
「お友だち」も、わたしのわたしだけのお友だちになるのかな。

わたしのじんせいも。

コメント一覧

yo
絵本のころは、教室の隣の部屋で、
介助のおばちゃんの膝に座ってたからね~(・_・;)
いまは、すっかり無口な中学生になっちゃったね~
(o|o)

合宿には、絵本のやっちゃんのファンの女の子が来るから、楽しみですね~~~(^^)v

やすハハ
そっか~、ヤスも小学校時代は介助の先生がいたから、中学でフリーになって、きっとこんな気持ちで、エンジョイしてるのかな。気がつきませんでした~。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「8才の子ども」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事