彼を知的障害とは呼ばない(2)
「Jは怒らなかったんです」
母親はそう言った。
20回目の不合格の後も。
21回目の不合格の後も。
22回目の不合格の後も。
53人の定員が空いていて、たった一人だけ不合格にした受験生に向かって、「次もがんばってください」という副校長に、怒りをぶつけることを、彼はしなかった。
去年も、一昨年も、彼は怒った。
誠意のかけらもない対応に。
目の前のひとりの人間である彼をいないように扱う校長たちに、彼は全身で抗議した。
でも、今年受検した高校では、彼は怒らないのだという。
それは、どんな怒りの言葉より、悲しみの涙より、無力な私たちには辛い。
辛いが、大事なことがそこにある。
彼の「いま・ここ」にとって、「定員内不合格」という腐りきった儀式より、大切なことがあるのだ。
どんな差別を受けてもあきらめない意思があり、希望を見失わない彼がいる。
私たちは「障害者差別禁止条約」や「障害者差別解消法」を使いこなすことができないでいる。
きっと彼が条約や法律に「希望」という魂を入れて、校長や教育委員会に教えてあげる日がくるだろう。
私たちは、彼を「いない」ことにはさせない。絶対に。
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