ワニなつノート

【か】  「関係」が見える子どもたち (その2)

【か】  「関係」が見える子どもたち (その2)


15年位前の、定時制高校の教室。
クラスにRiという女の子がいました。
ほとんどしゃべらず、字も書きませんでした。

ある日、同じクラスの男の子が不思議そうに聞いてきました。

「Riは、どうして先生のときは違うんだ?」

「違う? 何が?」

「……何がっていうか、なんか違うんだよ」

「他の授業はもっとまじめに受けてるの?」

「そうじゃないけど」

彼はいつも一番後ろの席で、
授業中ずっと寝ているような生徒でした。
その彼が、いかにも不思議そうに聞いてくるのです。

「俺さまが偉いからじゃん」
そういうと、あきれた顔をして、
「そうじゃなくてさ」と、ちゃんとした返事を要求します。

そこで、ふと、彼が「何を見て、そう思うのか」、
逆に興味がわきました。
話しぶりから、ずっと気になっていたんだけど…
という感じが伝わってきました。

「他の先生のときと何が違う?
俺の授業のときだって、Riはプリントにぐじゃぐじゃかいて
ゴミ箱に捨ててるだけじゃん。
他の授業だって似たようなもんじゃないの?」

「そうじゃなくて、なんていうか、違うんだよ」

「だから、どういうとこが?」

「…先生が黒板消せっていうと、Riはちゃんと消すじゃん」

「他の先生は、Riが黒板消せるって知らないんじゃないの?」

「んー、っていうか、他の先生が何か言っても、
Riはぜんぜん聞いてないっていうか…。
だけど、先生の言うことは聞くんだよな」

「だから、偉い先生のいうことは聞くんだって」

「はいはい」

彼が疲れた顔をするので、私はRiに声をかけました。

「Ri、吉野君のバカって言っていいよ」

素直なRiは、吉野君と反対の方向を向いて、
「ヨシノクン、バカ」といいます。

吉野君は、ムキになって、
「Ri、先生のバカって言え」というのですが、Riは知らんふり。

「お前のいうことなんか、聞くわけないじゃん。
俺様みたいな偉い先生のいうことじゃなきゃ」

     □    □    □


本当は、私は、彼の言っている意味がすぐに分かりました。

私は、Riが6歳のときから知っていました。
だから、Riの態度が、他の先生のときは違うのは
あたり前のことでした。

でも、そんな事情を、生徒たちは誰も知らないはずでした。
しかも、私の授業は週に2時間くらいしかないのです。

それでも、やはり、彼には、
「関係」が確かに見えていたのです。

小学校に入る前に出会っていたこと。
小学校で、2年間同じ教室で過ごしてきたこと。
私が生まれて初めて書いた「要望書」もRiのものでした。
Riが全日制高校を受験したときの介助者も私でした。

そうしたことを教室で話したことはありません。
でも、吉野君には、「違い」が見えたのです。
その違いが気になり、知りたがっていた吉野君を、
私は今もすごいなあと思います。
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