「こんど、三女が遊びにくるって」
五女が唐突にいう。
「そう、久しぶりだね」と答えながら、どんな顔して会えばいいのか悩む…。
昼間ホームに寄ってから二人でカラオケに行くという。
私たちに電話がきたわけじゃないから、特に用があるということでもないらしい。
なんとなく落ち着かないままその日を迎えるが、何事もなく日が暮れる。
五女は出かけたままなので、外で待ち合わせたのかもしれない。
ちょっとほっとする。
ところが夜10時を回ったころ、二人で帰宅。
2年ぶりと思えないくらい、リビングで二人くつろいでいる。
「ひさしぶり。げんきそうだね…」
ありきたりの挨拶をして、私は部屋に戻る。
とくに話すこともないし、何よりここが、彼女にとって遊びにこれる程度の場所でいてくれることにほっとしていた。
少なくとも憎まれたままの場所ではない。
「ほら、三女が蹴った壁の穴、そのままだよ」
そう話したときも、ピンクのテープでふさいだ穴を見て、なつかしそうに笑っていた。
しばらくして、二人で階段を上がってくる音が聞こえた。
時間が遅いから泊っていきたいと言うんだろうと思った。
「三女が話したいことがあるんだって」
五女がいう。
「なに?」
「…」
らしくなくうつむいたまま、だまっている。
「どうした?」
「…あのときは…めいわくかけて…ごめんなさい」
「…なに言ってんの、謝らなきゃいけないのはおれの方だって。
いろんなこと、もっと待ってあげられればよかったのにな…」
あまりにまっすぐに謝られて、うろたえていた。
適当に笑いでごまかしてしまおうと思ったのだが、思いがけず彼女が泣きだした。
ずっと謝らなきゃって気になってた…。
いまはちゃんと仕事してるんだよ。
うん、聞いてるよ。がんばってるんだよね。
だから、もう気にしなくていいから。
あれから、いろんな仕事して、いろんな大人の人に会ったんだ。
あたし、18になったんだよ、大人になったの。
素直に謝れるようになったの。
昔は、絶対に謝れなかった。
(それはオレも同じ。自分が悪いって分かってても、意地でも頭を下げることができない子だった…。)
ホームに行って謝らなきゃってずっと思ってたけど、
なかなか来れなくて…。
そう言いながら、小さな子どものようにぼろぼろ涙がこぼれる。
私の方が間が持たない。
隣では五女がなんだか、にやついている。
分かったから、もう謝らなくていいからさ。
そのとき、彼女の口から思いがけないことばがもれる。
「でも…、あんなによくしてもらったのに…」
思わず抱きしめていた。
それ以上、泣かれるのは限界だった。
隣では五女がうれしそうに、にやついている。
「あんなによくしてもらったのに…」
後悔し続けた2年間の思いがすこしほどけた気がした。
たしかに私たちは、彼女を大切に思っていた。
待てなかったこともある。
がんばらせすぎてもいたのだろう。
ケンカもいっぱいした。
けれど、大切に思う気持ちはたしかにあった。
それはちゃんと伝わっていた。
それだけは、ちゃんと伝わっていてくれた。
救われたのは、私の方だった。
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