元気に生きてるよ~

SNSに疲れ勝手に独り言をつぶやく場!
海に留まらず、多趣味になりつつ 
書く内容は、ほぼ日記と化しています。

美味かったが・・・

2008-09-23 10:19:09 | 日記・エッセイ・コラム

第1章 心弾んだのは、言うまでもない

マイクはいつもより入念にバックの中身を確認した。その中身は、3層に分かれており、1層ごとにきちんと役割分担がされていた。本日のミッションには欠かせないアイテムが彼の計算尽くされた時間軸により、一寸の狂いも無く、その役割を遂行するために静かにその時を待っていた。そして、一番内側を再度確かめるのであった。

地下鉄を降り、地上に出て、最初に目にした風景は、茹だる様な暑さから身を守るために銀杏並木の下をその順序良く並んだ幹と平行して歩く人々であって、何処でも見られる真夏の光景である。
街行く人々にとってそれぞれ起こる出来事は有意義なものであるにも係らず、暑さのせいで、うつむきながらまっすぐと歩を進めている。極薄番手の海外の一流コットンYシャツも、日本の気候による大量の汗は吸収できない。肌が透けるほど放出する汗は真夏の猛暑を余計に際立たせた。
マイクは待合せの時間より少し早く目的地に到着すると回りよりも少しでも居心地の良い場所を探してあたりを歩いてみた。そして直ぐに心地良い場所を見つけると、ゆっくりとシャツの裾を丁寧にデニムに滑り込ませた。
次にポケットに手を入れ、マルボロに手が届く。「トントン」と音をたて一本取り出し口元に運ぶ。待合せ時間を10分後に迎えるほんの一瞬の出来事である。

「予約していたマイクです。」
「お待ち申し上げておりました。さあ、こちらへどうぞ。」
窓からは、まだ十分に熱を蓄えた夕日から点々と日差しが地面とうつむき歩く人の肌を攻撃する様子が写る。
銀杏の太い幹の隙間から赤茶のレンガは日中蓄えた熱を放出するのに躍起になっているようだ。ここに入る前にレストランの全体をこの赤茶のレンガが覆っている。目の前のオープンウィンドウは、テラスで食事をする男女の会話を遮断する。これから起こる惨劇など想像もしていないだろう。

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第2章 仕組まれた罠

マイクは今日のミッションの必要性と原因について考えていた。それは、数週間前の六本木での夜の出来事である。

汗を拭うナプキンを何度か交換し、静かに息を整え冷えたシャンパンを口へ運ぶと、マイクは目の前に突如現れたクロフクに目をやった。
「ワタナベ様。少々、お時間を頂いてよろしいでしょうか。」
突然の申し出に多少の迷いは感じたが、直ぐにそれに従った。

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80年代のユーロビート。マイクにとって思い出の曲であるデュランヂュランのワイルドボーイが店内の隅々まで鳴り響く中、二人は出口へと向った。途中、肩越しに、熱気とタバコの煙が通り抜けるのを感じた。無我夢中で音楽に合わせて踊る人々の間をぬって歩くのは容易なものではない。クロフクはマイクの手首を掴みマイクはこれから起きる何かを想像しながら、ただただクロフクの行動にしたがっていた。
重い扉を抜け階段を下り、外の空気を胸いっぱいに吸う。首都高3号線からの騒音が向かいのティーキューブに反響して鼓膜を刺激する。それは正面に立つクロフクとその横に寄り添う二人の女性の言葉を遮る。マイクはクロフクの口元に再度、集中した。
「こちらの、お客様が、何か御用があるようです。」

そうマイクに告げると、クロフクは静かにその場を立ち去った。



その後、マイクはその女性と二言三言言葉を交わし、別かれた。

右手の携帯がブルブルと震え、彼女のアドレスが強引に入力されていた。かなり、酒が進んでいたのであろう。

最悪の事態への序章。後になってマイクはその時の彼女等の特徴について一切覚えていない事を後悔する破目に遭うのであった。

第3章 最初に断るべきだった

マイクのテーブルに「マグロとアボカド、トマトソースの冷製フェデリーニ」運ばれてきた。アルデンテよりも幾分時間をかけて茹でられたパスタは、その日のお薦めワインによく合った。二人はしばしの会話とこの時期にあったイタリアンを堪能していた。陶器と銀食器が擦れる音があたりを充満する。

ただ、そんな時間は、 思った以上に早く過ぎて行くものだ。もともと、テーブルの両脇に揃えられた銀食器は内側へと向っており、あと一つ一番小さな物を残すのみとなっていた。

使い込んだスピードスターは21時45分を少し回っていた。他のテーブルから聞こえてくるにぎやかな会話が少しずつ減っていく。マイクはそろそろ、その時が近づくのを今までの経験から感じ取った。

そして、直ぐにその時はやって来た。

化粧室に席を立った彼女が奥の角を曲がるのを確認すると、同時にマイクは銃口にサイレンサーを装着した。

だが既に、本番を迎えるこの時になって、マイクは動揺していた。
わざわざ、45口径をも勝るこの武器を、あの女に使うべきなのか。

今日の再会まではこのカートリッジの中すべてが空になること、一発残らず撃ち切る事はやむを得ない事と信じてやまなかった。
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合コン!

2008-09-20 17:10:19 | 日記・エッセイ・コラム
「ねえ、ワタナベ君、お肉は、女の子に焼いてもらって、召し上がるのと、
あなたが焼いてさしあげるのとでは、どちらが好みかしら。」

マキさんは、箸を置き両肘をテーブルにつき小さな手を組みながら僕に聞いた。そして、僕の目を真剣に見ながら彼女の中で期待する答えが返ってくるのを待った。
「そんなこと、あまり考えたこと無いよ。」 と反射的に答えてみるものの、頭の中では、両方について考えをめぐらせて見た。

箸に彼女の大好物のタンシオをとり、「もういい具合に焼けたよ。」と小さな口に丁寧に運ぶ姿。そして彼女の薄い唇に少量の肉汁が付着し、ナプキンでぬぐう光景を思い浮かべていた。 もう一方の、彼女に焼いてもらう光景は不思議と思い浮かばなかった。
「再来週の木曜日、ちょっとした飲み会があるのですが、仕事帰りにこちらに寄ることできますか。」と以前のお世話になっていた会社の友人から連絡がきた。
彼は、東京の一流大学を卒業し、京都のこれもまた一流の大学院を卒業した、いわゆるエリートと言う肩書きを持つ青年で、仕事において僕がもっとも信頼を置いてる中の一人である。
「その日は、休みなんだ。仕事帰りと言う訳には行かないが、銀崎くんの誘いじゃ断るわけにも行きませんね。喜んで出席させていただきます。」僕は、直ぐにスケジュール表をチェックしそのページに赤く記しをつけた。
サーフィンから帰ってきた僕は、今日のこれからの準備に取り掛かった。場所が場所なだけにあまりにもラフな格好は慎んだほうが好いだろう。クロークの中から、落ち着いた濃紺のベロアのジャケットと薄いブルーストライプシャツを取り出し、穿き古したディーゼルのジーンズに合わせた。僕はクロケットアンドジョーズのスェードを履き足早に家をあとにした。
日中は待ちに待っていた春の陽気が、西から足早にやってくるのを実感できる陽気で、夕方になっても三寒四温と言う言葉をわすれさせるには十分な気温を維持していた。花粉症に悩む日光のサルの映像が面白おかしく紹介されるのにもってこいの日である。

八重洲口を出て、左手を見ながら宝町方面に向かい、一つ目のにぎやかな路地を入っていく。ここまでは、銀崎君からの招待メールで確認はしてあった。この時間の八重洲の繁華街は、周辺で働くビジネスマンやOLが明日への仕事の活力の源となる場所なのであろう。
そして、忙しい日本の象徴でもあるかのように景色がめまぐるしく変わっていく様子を見ることができた。
「まだ、ちょっと早かったですね。」僕は店の心地の良い雰囲気に満足しながら銀崎くんの言葉に耳を傾けた。焼肉屋特有の煙はいがいと気にかからなかった。「こちらも、同じ名前で渡邉さん。」先にお店に到着していた、銀崎くんの知人を紹介してくれた。
彼は35才で、以前まで銀崎くんと同じ会社に働いていたいわゆる先輩にあたる方だ。
今は、会社を一人で経営しているとは言うものの、アイロン糊の利いた彼のYシャツから会社が成功へ向かっている事が想像できた。
「こんばんは。渡邉と申します。同じ渡邉で覚えやすくて、また、親近感が沸き今夜は楽しめそうな気がします。どうぞヨロシク。」
そして、僕らは軽く会釈をし名詞の交換を済ませた。
「何か先に飲みましょうか。」との問いかけに僕は、メニューから、「生ビールを」と答えた。
すきっ腹の生ビールは、枯れる寸前の砂漠の大木が、突然のスコールで大地ごと十分な水分を補給するようなものである。
「うまいですね。」僕は彼にそう告げると、今日の良い友を連れてきてくれた銀崎くんにも同意を強要した。

「遅くなってすみません。」
見知らぬ女性が銀崎くんに話しかけてきた。
「あ、こんばんは。はじめまして。マキです。で、こちらがストウさんとジュンコちゃん。」彼女の性格がこの一言で理解できた。 俗に言う仕切り屋さん。
その後も彼女と他の二人の女性との出会いを、そして会社での立場をポップコーン製造機のような勢いで説明した。

「ドルチェバンクのアセットマネジメント部で、資産運用のお手伝いをさせていただいてます。」誇らしげに話すと、話題を次へと変えた。
「次は白ワインを頂こうかしら。」マキさんのお話は尽きることが無く、僕に話しかけたり、渡邉さんに話しかけたりした。
その度に、回答はするものの、こんな答えで良かったのか毎度心配させられた。
僕はこのポップコーン製造機は、何年製のものであろうか。と不思議に思ったみた。ただ、女性に年齢を聞くのも失礼かと思い心にしまった。
「ねえ、ワタナベ君、お肉は、女の子に焼いてもらって、召し上がるのと、
あなたが焼いてさしあげるのとでは、どちらが好みかしら。」 との問い。
その後もいくつかの質疑応答がくりかえされた。
コースも最後のデザートに進み「杏仁豆腐かコーヒーがセットとなっておりますが、どちらを召し上がりますか。」 の店員の問いにマキさんが「私はコーヒーを頂くは。」と答え、僕の顔を覗き込んだ。間髪いれずに「杏仁豆腐を」と答え、彼女の視線をさえぎった。
こうして、歓談は進み和やかな雰囲気の中、時間は過ぎていった。

今日の締めくくりとしては最高の質問って、なんだろう。
僕は答えを出すのに時間がかかり、結果的に彼女の質問が先となり最後となったことを今でも後悔はしていない。
「ねえねえ、ワタナベくん。芸能人だと、どんなタイプが好き。」

「海老ちゃん。」

想像はしていなかったが、彼女を黙らせるにはちょうど良い回答だったようである。
「ふん。若くてかわいこちゃんね。」こうして、ポップコーン製造機は、がらがらと音はたてながら一日の長い仕事をおえた。
僕は、仕事後の手入れもせず、また油も差さずにほっておいた。

八重洲の交差点からパシフィックセンチュリーが、八重洲だけでなく丸の内、有楽町、日本橋方面を見下ろしている。
僕らの姿も見ていたのかな。ふと、心によぎる。
東京駅へ向かう際、僕はストウさんと夜の八重洲口を歩いていた。
「今日は海の帰りにわざわざご苦労さまです。大分お疲れのようですが。」と気遣いをしてくれた。
僕は、「うん。でも休みはいつもこんな感じだよ。」と答え、次回の再開の約束もしないまま切符売り場へと足をはこんだ。
時計は12時を少し回っていた。

自宅へ到着したのは、1時を少し回ったころだ。
僕は、Donald Fagen のCDを取り出しセットした。睡魔が真冬のオンショアの海に白兎を思わせる波のように、次から次へと押し寄せてやってきた。僕は、夕食の余韻を楽しめるよういつもと同じくして歯を磨かず、布団に入った。

Nightflyと言う曲が心地よく毛布の隙間から聞こえてくる。
僕は、さっき食べた焼肉を食した後のおならの臭さで、気絶した。
終わり

夏の思い出

2008-09-16 12:30:04 | 日記・エッセイ・コラム

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そっけない内容のメールが、どこかの得体の知れないプロバイダーを経由して僕のアウトルックに届いたのは先月26日のことだった。

そして気付いたのは1日遅れの翌朝の事だった。

前夜の酒がまだ抜けきらない二日酔いの中、目を擦りながら、それが重要なメールと確信を持つまでに一杯の引き立てコーヒーと数本のマルボロが必要だった。



「さっき日本に着いた。家で27時間テレビ観てる」


??
来た来た!

本当に帰ってきやがった。

さとが。

数千キロの距離が、今この瞬間、数キロに。

急にカレーが食べたくなった。

「メールじゃなく、電話をよこせ。」

僕は、動揺を隠して手短にキーボードを叩いた。

ここ数日間の複雑な思いは何処にいったのだろう。

3年近く前の道玄坂での大喧嘩以来の再開。

さとは、その数ヵ月後に、自分の夢を実現するために海を渡った。

後で、知ることだが、日本へ帰る前にスリランカを旅して来たらしいのだが、何かの手違いでスリランカからのメールが届かず、正確な帰国時間は僕には知らされていなかった。






突然鳴った見覚えの無い携帯番号からの着信は、夏の予定変更を余儀なくされる前触れだった。

「今何してる?」

以前と何も変わっていない口調は、懐かしささえ思い起こさせ、3年間の何か退屈なリズムを、リセットさせてくれそうな予感がした。要するに、なにかポカンと空いた深い小さな穴に、さとの声、電話の向こうの存在がコルクの栓となって塞がってくれるような気がした。



インド洋に浮かぶ無数の環礁の上で、自分の夢を叶える為に移り住んだ生活は、現地の人にも引けをとらない程に、さとの肌を小麦色に変えていた。以前と同じ最初ツンとした表情は、目が合うと一瞬にして満面の笑みへと変わる。異常に白く映る前歯が印象的だが、それは僕を見る海とは無関係の友人が普段感じている感覚と同じことだと思う。モルジブから帰国後、直ぐに美容室に行ったと話していたが、3年かけて痛めた前髪は、そう簡単には、他の個所と同色にはならないようだ。そして、3年ぶりにファンデーションを塗られた結果、皮膚呼吸ができないと嘆いていた。



会話はお互いの3年間の出来事を、目次でもあるかのように整理整頓され、次から次へと順序良く語られていく。写真や本、携帯電話やお土産などを会話の途中に挟んで続く二人だけの時間は、永遠に続くのであろうかと思えてならない。

もちろん、テーブルの上には彼女の大好きなチョコレート系のスィーツとコーヒーが並び、頼みすぎて食べきれない皿は当たり前のように僕の陣地へとスライドさせる。3年前の日常とまったく変わらない光景だ。

「俺はこんなにくえねーよ。」

「うるせ~!もったいね~から残すんじゃね~」

「お前が頼んだんだろう。水どこだ?」

「なんで?」

「流し込むしかね~だろ」



以前はこんな時間にスィーツが食べられる店なんてこの辺には無かった気がする。
さとの欲求を満たす場合は必ずと言って良いほど、ガソリン代の他に700円の首都高速代が必要だった。
恵比寿、目黒、麻布十番、飯倉、青山、六本木etc.

「休みはいつ」

「有給あるから、お前が日本にいる間は全部休みだ。」

「そんなにいらね~」

「他に予定でもあるのか」

「あるに決まってるだろ。何年ぶりに帰って来たと思ってんだ。」

「知らね」

「全然、連絡くれ無かったしね」

「するわけね~だろ」

・・・

「とにかく、一杯遊ぼう」

「うん」



さとは、久々の親孝行も含め、3週間ほど日本に居る。
あっという間の夏はこうして始まり、沢山の思い出を残して、過ぎ去って行くのだろうと僕は思った。




僕にも言える事だけど、今回のハードスケジュールが祟って遊びすぎによる疲労から、一瞬の気の緩みで重い瞼がふさがって意識を失う姿を何度見た事のだろう。

何日も期待して車を走らせてはみても、一向にたどり着かないパーフェクトウェーブ。

それでも、海が好きなさとは文句を言わなかった。

〔帰国中のやりたい事リスト〕に揚げられていたBBQは、強風の中の実行ではあったけどすごく喜んでくれた。

浴衣は着慣れているはずなのに、1時間もかかった事には、あきれてしまった。
「お前、国籍変えろ」と言ってしまった事については正直、反省している。

数日前の板橋のタンクローリー事故は連日、予想を超える大渋滞を巻き起こし、僕等の大切な行事を予想もしていないものへと変えてしまった。首都高の渋滞情報を見て、目的地方面とは逆の中央環状線経由で、新木場へ向うルートに変更したのだったが、途中の小菅において、今まで見たことも無い看板に掲載された所要時間を目の当たりにし、再び向島線で箱崎へ進路変更。その後も車窓の動くスピードに変化は無く、いらいらする僕に向ってさとは言った。

「湘南はもう無理だよ。寝坊したあたし達が悪いんだよ。」

どうせ波は無いだろうと、高をくくって睡眠時間を長く取ったツケがこんな所でやってきた。

この時の残念そうな表情が後になって響いてくることに、この時点では知る由も無かった。

「解った。鎌倉デラセーラとコクリコはキャンセルしよう。すまん。その代わり、他にやりたいこと全部言え。」

コクリコのクレープに大盛りの生クリームをお願いして、鎌倉散策するのが、僕らの湘南サーフィンの常であった。それと、今回はちゃんとしたイタリアンを食べたいとのさとの希望で、湘南の海が一望できるレストランへ行くのが目的だった。

「鎌倉も浅草も、海の有る無しを除けば、あまり変わらないよ。」

バックミラーにはアサヒビール本社の金色のモニュメントが写り、炎天下の中、今にも爆発しそうなくらいに、輝いていた。もちろん、爆発炎上なんて言葉は今日この場は禁句である。


浅草では、お土産を買うのに、仲見世通りを端から端まで見て回った。
足袋を履いた若いアンちゃんが人力車での観光案内を勧める。

僕等の中で、到着先が竹芝である船の話は良くない。考えすぎだと思うけど、3年前に逆戻りする可能性を秘めている。

写真も沢山撮った。
アイス最中をシェアして頬張るも、直ぐに溶けてしまい、交互に指がベトベトになった。
駐車場に置き去りにした車の天井のサーフボードに塗られたワックスも同じ状態になっていることは後になって知った。

銀座の行きつけのお寿司屋さんに連れて行き、たらふく夏の旬を味合わせた。
「どうだ。」

「こんなところにしょっちゅう来てんのか」

「月一の、密かな楽しみだよ」

「味は」
「緊張したけど、すごい美味かった」

「イタリアンは別の日に行こう」
「うん」

「日本もいいだろ~」

「・・・」




僕の夏が終わる。

401
電光掲示板がガラガラ音をたてて、出発便を知らせている。

スリランカ航空。

毎度の事だけど、飛行機のでかさにはいつも驚かされる。

そんな会話にお互いはしゃいでいたのはついさっきの事で、今はもう既に会話も減り、お互いがひとつひとつの言葉を選んでいた。
出発ロビーは、色々な言語が飛び交っていて、笑っている人もいれば、なにやら不機嫌そうに時計を何度も眺めているビジネスマンの姿を目にすることもあった。

日本は長期休暇の真っ只中である。左手にスーツケースを持ち、右手にはチケットを掴む姿は、もうこの時間になって見慣れてきた。初めての海外旅行を目前にうれしさを体全体で表現する子供達は、いい加減うざい。


僕とさとは手荷物に大きな違いがあった。
さとには航空チケットが握られているが、僕の手にはそれは握られていない。
辛うじて共通の持ち物は真っ黒に日焼けしたお互いの手。

この後直ぐにそれぞれ別の役割を果すのであろう。


3週間前からこの日


ビーチクリーニング

2008-09-08 22:51:10 | サーフィン

テトラ脇に大きく吸い寄せられる小さなうねりは、左右に逃げ場を失い縦へとそのパワーを伝える。期待薄な小さなうねりでさえも浅瀬に近づけばそれなりの曲線を描きやがてしぶきをあげサーファーを満足させてくれる。数日間続いた停滞中の低気圧は今はもう移動し、新たに関東地方を覆った高気圧は平日休みの僕等にファインウェーブを届けてくれた。

船引き網漁で大漁を求める漁船はたまにファインウェーブを粉々に粉砕してはみるものの、やがてナブラを求めてここを去るのも時間の問題だろう。

たまにはいつもと違うルートを選択し、いつもと違う車で海に向ってみても、求めるものはいつもと一緒で、感じる感覚にも違いは無い。但し、それなりの満足を得るためには、国道51号線は期待度を測るテルモメーターに置き換え、北から南へ移動を重ねその日の最高の目盛を示す。

日の出間近の日差しは、一週間ぶりのたるんだ筋肉には程よい即効薬のようで、少し眠気を含んだ全身をゆっくりとほぐしてくれる。ほのかに香る潮のアロマが全開の窓から入り込み、Tシャツで覆われない箇所に湿り気を与えた。海を目の前に我慢ができる限界である。

僕等は、そんなゆっくりと流れる時間を缶コーヒーをすすりながら過ごした後に、今年最後になるかもしれない海水パンツに足を通した。

・・・・・・

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朝一のファインウェーブを楽しみ、浜ビールを堪能し、やがては忘れてはしまうであろう今日半日の素晴らしい余韻を味わう最中、ここ数年で一番心に残る出来事が起きた。

ウェーブのかかった黒髪を後にかき上げながらペットボトルの真水を浴びる女性は何処の海でも見られる光景で何も珍しい物ではない。
その後、下半分だけ着替えを済ませた彼女は、ペディキュアが施された小さな指をビーサンに滑り込ませると、赤いステージアのトランクを静かに閉じた。リアウィンドウには大きなHOLLYのステッカー。

サーフボードを車に置いたまま、海岸に再び歩き出すその子が取った行動に自然と目が行く。

良く見ると砂浜に向う彼女の左手にはポリ袋が握られており、周りをキョロキョロとした後におもむろにしゃがみ込むと、本来の自然と砂浜には無用の空き缶やペットボトルを拾うのであった。

誰にも強要することなく、手助けを求めるでもなく、ただ、淡々と当たり前のように行われたその子の行動は、素敵!としか言い様がない・・・

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あ~あ。ありゃー、手伝うべきだったな~

あれから、何故か今この時間も何か罪悪感を感じております。



いい波を味わった後なだけに・・・


おわり