日常

齋藤孝「呼吸入門」

2012-08-30 23:43:06 | 
齋藤孝さんの「呼吸入門」角川文庫(2008/4/25) を読みました。

**************************************
<「BOOK」データベースより>
日本人は、心身を安定させる技としての息の仕方を忘れ、キレやすい身体になってしまった。今こそ、日本人の優れた呼吸の仕方を蘇らせよう。
丹田呼吸法、禅の瞑想といった高度な技、数千年の叡智を、誰にでもできるシンプルな「型」に凝縮した齋藤式呼吸法を実践することで、精神が安定し、集中力が増し、疲れにくくなる。
呼吸を通じて日本文化の真髄に迫る齋藤身体論の集大成。感動の名著、ついに文庫化。
<著者略歴>
齋藤/孝
1960年静岡県生まれ。
東京大学法学部卒。同大学教育学研究科博士課程を経て、明治大学文学部教授。
専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。
主著に、『身体感覚を取り戻す』(新潮学芸賞)、『声に出して読みたい日本語』(毎日出版文化賞特別賞)など多数
**************************************

自分は「集中」という状態の正体がなんなのか、この不可思議な状態を小学生の時から今も、考え続けています。しつこいですね。

というのも、勉強でも仕事でもなんでもそうですが、「集中」しているかどうかで、得られるものが全く違ってきます。心が上の空か、集中か、この状態さえ完全に理解できれば、勉強なんて簡単にできるのでは?と小学生の時に思ったのがきっかけなのです。

「集中」という状態。とにかく不思議です。
時を忘れるような感覚。時を超えるような感覚。一点を貫通しながら広い場所にいく感覚。自分の拡散した意識が一つの有機体にまとまっていく感覚。バラバラのものが一つのつながりとして複雑で機能的なネットワークとして動き出し結合し出す感覚。自分の血肉となっていく感覚。・・・・なんとも筆舌に尽くしがたい不思議な感覚なのです。


それはともかく。
「集中」を司るためには色んなポイントがあるように思えますが、その中に「呼吸」も大事な要素なのかもしれません。




「呼吸」は意識と無意識をつなぐもの。
普段は無意識に呼吸をしています。ふとした拍子に意識的に呼吸をする。
意識と無意識の架け橋となる「呼吸」を知ることは、意識と無意識の総体である「自分」を知るためにも、極めて大事なことだと感じています。

「自分」を、表から制御する「意識」と裏からこっそり制御する「無意識」。
ここに橋をかけて自由自在に行き来できれば、人はすごく自由になるのではないか、と感じます。





肺で行う「呼吸」は、生物が海から陸に上陸した宿命のようなものでしょう。

ちなみに、人間の60兆個の細胞それぞれにミトコンドリアという小器官があります。
このひとつひとつのミトコンドリアが行う「内呼吸」のおかげで、僕らはATPというエネルギーを合成し、こうして生きることができる。
ミトコンドリアが働かなくなると指一本動かせません。肺で呼吸ひとつできません。

リン・マーギュリスという学者が提唱した細胞内共生説によれば、細胞内にあるミトコンドリアは、元々は好気性細菌として独立に生きていた生命体。そのリケッチアに近いαプロテオバクテリアが真核細胞の中へと共生することで、ミトコンドリアという偉大な小器官ができたと考えられています。
【参考】
・ニック・レーン「ミトコンドリアが進化を決めた」みすず書房(2007/12/22)
・リン マーギュリス「共生生命体の30億年」草思社 (2000/08)



人間が生きていく上で大事な「内呼吸」を、細胞に入り込んできた好気性細菌が担当しているとは!不思議なものですね。

ミトコンドリアの「内呼吸」を制御するのは超上級者だけでしょうから、せめて「外呼吸」としての肺呼吸くらいは、自分の無意識だけにお任せするのではなく自分の意識でもうまくやりくりたいものです。




・・・・・・・・・・・
そんなこんなで手元にあった「呼吸入門」角川文庫(2008/4/25) を読了。気になった個所を引用。


----------------------------
・「息」は一つの身体文化
----------------------------
・<腰肚(こしはら)文化>を支えていたのは呼吸力
----------------------------
・息は身体と精神を結びつけるもの。息はからだとこころをつなぐ「道」
----------------------------
・結跏趺坐は意識を覚醒しておくための最良の座り方
----------------------------
・からだの使い方の基本は、基礎固めとして腰肚(こしはら)を安定させてぶれをとる。
その上に上半身は力を抜いた状態で置く。これが何千年と続いた精神をぶらさないための叡智だった。
----------------------------

→「丹田」というエネルギーセンターがあります。「腰がすわっている」などという場所です。
今は脳みそを酷使する時代になってしまい、お腹を大切に扱う文化が忘れかけられていますが、やはり人体の調和を考えるとき、この丹田というエネルギーセンターは外せません。


----------------------------
・始まりの礼は、頭を下げて腰を入れることで
「これからの時間を緊張感の高い神聖な時間にします。集中した時間にします。」
という学習の構えを作っていた。
----------------------------
・からだを真っ直ぐに立てるとそれだけで意識の覚醒作用がある。
----------------------------
・野口晴哉「健康生活の原理」
『私はお尻の穴を触ってみて、その人の決心の度合いを測定できます。
「こうする決心でいます」と言っても、お尻の穴に指がズブっと入るようでは実行はできないのです。』
----------------------------

→これはとてもよく分かる。野口晴哉先生はほんとすごいお方です。



----------------------------
・息の力は、息をどれだけ深く長く続ける事ができるか、息と動きをどれだけ連動させることができるか、に集約されます。
----------------------------
・呼吸と言うものがリズムよく流れだしたら、人間は疲れない。
----------------------------
・ピカソは長時間立ったまま書き続けた。
アトリエに入る時に靴を脱ぎ、その瞬間にそこに肉体も置いてきてしまうような感覚だった。
疲れを感じるのは肉体があるからであって、ここにからだがないと考えれば、どんなに長時間であろうと疲れはしない。
----------------------------

→人間の体は目に見える「肉体」だけから成立しているわけではありません。
この謎さえわかれば、いろんな謎が風解していきます。
「第二の身体」「サトルボディ」「アストラル体・エーテル体、メンタル体、コーザル体」・・・・
いろんな名前で呼ばれるものですが、このことはいづれちゃんと自分の考えをまとめたいです。




----------------------------
・人間と言うのは内と外とをはっきり分けることのできる存在ではない。
大きな世界と自分と言う存在はつながっているのだ、ということを呼吸が分からせてくれる。
----------------------------
・呼吸法の基本は赤ちゃんに戻ることだと古来から言われてきた。
呼吸でからだ全体が大きく波打つように上下する。
----------------------------
・自分の呼吸の波に自分自身を浸すようにする。
呼吸の波を感じ取り、息がゆっくり入ってきて、波が頂点に行ったらそれでゆっくり落ちて、吐き切ったら上がって来る。
呼吸を邪魔せず感じるだけ。これが基本の呼吸。
息はゆったりと全うさせる。決して途中で殺してしまわない。
----------------------------

→確かに赤ん坊の呼吸は身体全体を使ってしますよね。あの呼吸は確かに見ていても美しいです。
「初心に帰る」というか。Shunryu Suzukiが言う「Zen Mind, Beginner's Mind」のようなものでしょうか(確か、スティーブジョブズはこの本を愛読していましたよね)。
室伏選手も赤ん坊の身体操作を学んでいましたね。生まれたての赤ん坊には、色々と人間の秘密が隠れていそうです。




----------------------------
・<力みの避雷針>は、臍下丹田と足の親指の付け根。体に中心軸を作ると力が抜ける。
----------------------------
・地球の中心と自分の頭のてっぺんとが真っ直ぐにつながってくる垂直感を持ってみる。
地球の重力をしっかり感じつつ、意識を遠くに放つことにとって、自分の中心というものに線を引く。
この感覚を野口三千三は「重さに貞く(きく)」と表現している。
----------------------------
・自分のからだを内側に閉じたものという風にはしないで、地球の中心と言うものに開いていく。垂直な力の軸が自分の中心を貫いているとイメージする。
----------------------------
]
→クライミングをして重力に反する行為をするときに、「僕らは、日々地球の中心に向かって引き寄せられているんだな」ということをよく思います。



----------------------------
・斎藤式呼吸法は「3・2・15」。鼻から3秒息を吸い、2秒お腹に溜め、15秒かけて口からゆっくり吐く。
----------------------------
・禅のスタイルは捨てることにとって安定する。
蓄積して固めていく安定ではなく、あらゆるものを捨てることを基本にする。
身辺を簡素にしていくことで、常にエネルギーが入る器を用意する。
----------------------------
・捨てればスペースができ、そこが自然と満ちてくる。
その他力を信じる。吐けば自然の摂理で入って来ると信じる。
----------------------------
・吐くことを知らないから、あらゆることに執着ばかりが強くなる。
----------------------------

→吸ったり貯めたりするような方向性よりも、吐いたり執着しない方向性の方が、人間はより自由になれる気がします。


そういえば。
かなり以前に「呼吸」(2011-09-23)という内容でブログを書いたとき、加藤俊朗さんと谷川俊太郎さんの「呼吸の本」サンガ (2010/1/22) という、を紹介しました。

この本にも、
*********************************
呼吸ではとにかく吐くことに集中する。
吸うではなく吐く。
吸ってから吐くのではなく、吐いてから吸う。
まず、吐くことに集中。
「呼吸」という文字も、まず吐くことからはじまる。

お腹(古来から丹田と言われるものです)を意識して吐く。深く長く吐く。
吐くことに集中すれば、からだは自然に吸う。
*********************************
呼吸は口だけで呼吸するのではない。
お腹で吸うのであって、からだ全体で吸う。
具体的には足の裏を意識することだと。
足の裏で吸うイメージ。
*********************************
「息」という文字は<自らの心>と書く。
だから、「息」は自分の心の状態を表している。
*********************************
荘子
「衆人はのどをもって呼吸する。
 哲人は背骨をもって呼吸する。
 真人は踵をもって呼吸する。」
*********************************

とありました。物理学者の湯川秀樹先生も敬愛する荘子は、やはりすごいですね。





甲野善紀さんの「古武術からの発想」の中で、
整体の創始者、野口晴哉先生の言葉
(⇒甲野善紀「古武術からの発想」(2011-08-18))
==================
『人間は自由を強く要求している。それは不自由さが裡(うち)に潜んでいるということでもある。
戦時中、<特高警察解体>のニュースが流れたとき、急に肩の力が抜け、深く息ができるようになった。
そのとき、無意識のうちに気を張っていたのを自覚した。

すると、戦争の焼け跡が急に明るくなった。
そして、何か体の奥深くからフツフツと新しい力が湧いてきた。
それ以降、「自由」と言うものは、体で感じるものだと考えるようになった。

すべての人が、この深い息を体験し、自分の裡(うち)から湧き出てくる新鮮な力を自覚することを願うようになった。

どんなものでも、その人の深い息を妨げるものは正しくないと思う。
私は、深い息を可能にするために、潜在意識教育や整体操作を用いる。
これが整体指導というものなのです。』
==================


このことも大事なことですね。



口先だけや肺だけで呼吸するのではなく、身体全体で呼吸する。赤ん坊のように全身の筋肉や細胞を総動員させて、身体全て、自分すべてとダイアログをするように呼吸する。
イメージとしては、お腹全体で呼吸をする。踵を意識しながら呼吸をする。
踵を意識することで、地球や宇宙とつながっていることを意識できる。イメージできる。呼吸はそういう広い世界にまで通じていく。

呼吸では吸うよりも吐くこと。吐くことは、放出する、放射する、捨てる、与える・・・、大事なことを思い出させてくれる。何でも貯めすぎ、執着し過ぎ、・・・はよくない。
自分のエゴを捨てるように息を吐く。自ずから入ってくるものをありのまま受け入れれば、それが吸うことに通じている。入るべきものは勝手に入ってくる。
そして、「深い息」を日常的にできるようになったとき、僕らは色んなものから自由になれる。
そういうことなんでしょうかね。


僕らが生まれてから死ぬまで心臓が脈打つように、呼吸も絶え間なく続けている。
それだけに、呼吸は奥が深いです・・・。

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
呼吸&集中 (amyjumy)
2012-08-31 16:10:01
斉藤さんには子育て中、作品に大変お世話になりましたが・・・。呼吸についても鋭い洞察!
いなば先生の解説によって読むのと同じ効能が・・・

谷川俊太郎さん・加藤俊朗さんの『呼吸の本』は、よみました。まったくもって嬉しかったです。
自分を肯定してもらったような。
その後・・・横道にそれて、谷川さんが佐野洋子さんの二番目のご主人であったことに気持ちがいっちゃって一人で喜んでました。佐野さんの追悼集読んで、100万回生きた猫のイメージとのギャップに、まったく喜んでしまったのです。

話し戻して、呼吸。
丹田にたまってグルグル巻きになった気持ち(世間でよくないとされる気持ちや念)を、人間掃除機のように吸いとって、しかも自分も大丈夫だったらいいなと思って仕事してます。スキル研究中。
患者さんご自身に『呼吸の大切さ』とくのも大事ですね。
苦しいとき、つい深い有効な息してませんものね。
10月の健康講座、自分の当番なので取り上げてみます!ヒントをありがとうございます。

集中。
先生も探しておられましたか!
きっと、無意識にできていらっしゃるのでしょうけれど。
返信する
丹田 (いなば)
2012-09-04 18:48:06
>>amyjumy様
谷川俊太郎さん・加藤俊朗さんの『呼吸の本』も読まれたんですよね。
あれは読みやすくてシンプルでいい本でした。

自分も集中が切れそうな時とか想定外が起きたとき、深く息を吐いて精神と身体をシンクロさせるようにしています。そうしないと、二つのバランスがおかしい事になりますし。

昔の人は着物文化で丹田中心が当たり前だったんだと思うんですよね。
今は移動手段も車や電車が多いし、脳や小手先ばかり酷使する仕事が多くなっていますし。パソコンの姿勢って、もともとすごく不自然な気がするんですよねぇ。


意識と無意識をつなぐかけ橋である呼吸を整えていくと、それに応じて心も整って来るのが不思議なところです。人間やこの世界のいろんな仕組みやメカニズムには驚かされることが多いです。
返信する