urt's nest

ミステリとかロックとかお笑いとかサッカーのこと。

城平京『名探偵に薔薇を』創元推理文庫

2006年07月30日 | reading
ネタバレ注意。

なんだこのカッコつけた文章!

《街は不夜とはいえ、場所によっては先見えぬ澱みがあり、時によっては人寄らぬ風穴がある。(中略)たとえ煌々と明かり射し、騒々しく人の満つる所であっても、その気になれば懐に刃呑み、知れず死をもたらすこと困難ではない。街とはそういうものである。三橋は自分でも神経質とは思いながらタクシーに乗った。》(59p)

単にタクシー乗るだけの描写に、これだけスカした言葉並べる必要がありますか? 解説によれば、「擬古的な文体」(?)の採用は意図的なものらしいけど、俺には効果的どころか鼻について仕方がなかったです。
真相は、それじたい取り出せば魅力的なプロット。でも指摘されてる通り、前例があるんだよな…しかも遥かに達成の高い前例が。創元推理文庫の日本の女性作家の作品で、俺のフェイバリットの一つだけど、卓抜な人物造型で「このプロット」を見事に深めていた。その点、この作品のキャラクタ造型の薄っぺらさ…特に「名探偵」瀬川みゆきの安いトラウマと鼻につくストイシズム…はそのアイデアを活かしきれていない。てか「名探偵」の造型に多くを背負う以上、完全に殺してしまってると思う。ロジックや手がかりの出し方もあまりに恣意的だし(まあ恣意なんだけどね)、家族の愁嘆場は茶番的に過ぎる(まあ茶番なんだけどね)。《「恭子! お前が悪いんじゃない! 私が、私が悪いんだ!」》(245p)とかやり始めた時は鼻から盛大に息が漏れた。一章ラストでの「名探偵」氏の説教なんて、活字倶楽部の名台詞特集でも始まったかと思ってしまいましたわ。
…しかしこの、ロジックめかした単なる心理分析の饒舌とか、「心不全にしか見えない万能の毒薬」…「小人地獄」の設定など、こないだ終わった某マンガ作品を彷彿とさせますな。最近この作家は『スパイラル』などでのマンガ原作者としての活動がメインのようなので…まさか、ガ(以下略)。

作品の評価はCマイナス。

名探偵に薔薇を名探偵に薔薇を
城平 京

東京創元社 1998-07
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