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ミステリとかロックとかお笑いとかサッカーのこと。

中町信『模倣の殺意』創元推理文庫

2005年07月18日 | reading
ネタバレ注意。

さんざん叙述トリックの存在について示唆され、煽られて(まあだから読もうと思ったんだけど)、いざ読んでみたら二人の人物の視点で交互に物語が語られる。ときたら時系列錯誤だとさすがに気付きます。もう十年もミステリオタクやってるんだもん俺…。発表時点での状況を考えれば評価すべきだとは思うが、新鮮味もカタルシスもまるでなかった。
佳多山大地が『十角館の殺人』(どうでもいいけど俺のパソコン「かく」で変換すると真っ先に「カく」って出るんだけど…俺使わないよそんな下品な言葉)を指して述べた、《326pの最後の一行――、その目眩く驚きの強度》(『本格ミステリ・クロニクル300』)という言葉に象徴される、「見せ方」をこそ、新本格というジャンルはずっと磨き続けてきたように思われる。それすらも頭打ちになってきた状況で、これを復刊するという行為は史料的な価値をしか持ち得ないのではないか。なんか売れてるみたいだけど。いや、別に批判されるべきことでもないですけどね。
時系列錯誤のキモとなる「名前の同一性」が安易だけど、これは去年出た敬愛する某作家の某大作もそうだったなあ、と思い返せば新本格との差異論もあまり意味をなしませんね…。この色気に乏しい、ストイシズムに満ちた作品に洗練をまで求めるのは酷だと思う。しかし解説で触れられてる改稿前のバージョンで、冒頭いきなり坂井正夫が二人いるって展開の方が面白いと思えるのは、スレたミステリ読みの歪んだ見方でしょうか。

作品の評価はC。

4488449018模倣の殺意
中町 信

東京創元社 2004-08-13
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