urt's nest

ミステリとかロックとかお笑いとかサッカーのこと。

有栖川有栖『海のある奈良に死す』角川文庫

2005年10月25日 | reading
ネタバレ注意。

ブログ開設以来、本のランク付けで最低ランクであるDを未だ付けていないので、なにかDの付きそうな本をミス研諸氏に尋ねたところ、推薦を受けたのがこの本でした。日頃から有栖川作品に厳しい僕のこと、否が上にも期待は高まろうというものです。

結果はまず置いておいて、感想から。

えーとね、メイントリックが二つほどあるのですが、どちらもトリックとして成立していないと思うのです。まずタイトルにも用いられているアリバイトリックについてですが、「被害者が旅行の目的地を周囲に思わせぶりに仄めかす」ことが根幹をなしていて、そんな蓋然性に頼り切ったものの割に、被害者の部屋にガイドブックを置いておくなど、せせこましい割に危険の高い偽装工作が必要。で、サブリミナルとか使ったビデオにしても、蓋然性への依存は言うに及ばず。まあこっちはちょっとプロバビリティの犯罪っぽいのでまだ許せますが、無理ありすぎ。明白すぎる証拠が残りすぎ。そして推理が思いつき。そしてこの二者のトリックが徹底的に乖離している。地形に関するオチも含めて、こういう無理線のトリックを使うなら、もっとカリカチュアされた世界観で使うべきだと思うのですが、中途半端なリアリズム志向で、トラベルミステリになってるので作品全体になんともイヤな違和感が漂ってます。もっと地に足の付いたロジックモノを書けばいいのに。各地の伝説がいくつか引用されたりしてますが、それもまったくこなれていません。結果として登場人物の血縁の話もなんとも落ち着きの悪いものになってしまっています。まあこれは、穴吹というキャラクタがまったく魅力的に描けていないことも一因となってはいるでしょうが。若書きであることもあるでしょうが、はっきり言ってしまいましょう。筆力がなさすぎです。枝葉の部分でも、余計な描写、余計な思考が鼻に付きました(たとえば145pの比喩、《まるでマジック・マッシュルームで悪酔いしたアンディ・ウォーホルがデザインしたかのよう》とか、ヤバいんですけど)。
また言動の矛盾やってるとか、「ブレインストーミング」って意味分かってるのかとか、アリスが捜査に駆り立てられる動機の説明イラネとか、なんでこんな無味乾燥な男二人の関係が人気を博して、あまつさえ性的なファンタジーの対象になったりするんだとか、細かい不満もたくさんありましたがいちいち挙げてても意味ないのでやめましょう。小早川さんの言ってた「俊英」の話は、読んでて笑えたので、その瞬間だけは愉快でした。

作品の評価はD。おめでとうございます!

えーと…感じ悪いので言っとくと、『幻想運河』とか『幽霊刑事』とか、好きな作品もあるんですよ、一応。

4041913020海のある奈良に死す
有栖川 有栖

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2 コメント

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Unknown (sin)
2005-10-27 21:52:40
D評価おめでとうございます(?)ブログの後半読むと火村シリーズが嫌いなようで。やはり火山とか孤島とか村に閉じ込められるべきなんでしょうか。
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そちらこそおめでとうございます。 (urt)
2005-10-28 00:48:36
短編には好きなのあるよ。それに俺『月光ゲーム』が受け付けないです。『双頭の悪魔』は名作と思うけど。『孤島パズル』にも悪い印象ないけど読んだの中坊の頃だしなあ。

こう言ったらなんだけど、下手な小説家は嫌いです。有栖川はたまに下手だと思います。

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