urt's nest

ミステリとかロックとかお笑いとかサッカーのこと。

伊坂幸太郎『死神の精度』文藝春秋

2006年02月02日 | reading
ネタバレ注意。

近く死を迎える「予定の」人間の周囲に出没し、その死が「可」か「見送り」かの判断を下す「死神」を主人公にした連作短編集。
ドライでクールで端から見たら天然な死神の視線が、物語に独特のオフビート感を演出。それは特長。しかし、各話の題材も豊富ではあるが目を見張るようなプロットの妙もなく、連作としての面白みも感じられなかった。せいぜいBってとこだな…と思っていた。ラストの一編、「死神対老女」を読むまでは。

落涙しました。場末の喫茶店で。

この短編の中心的なプロットもそれ自体で十分感動的で、「日常の謎」に類するものとして理想的なフォルムを持っていると思います。しかしまさかいままでチラリともそんな気配を見せなかったのに、ここでこう繋げて連作としての仕掛けを魅せるとは! 完全に予想外だった。してやられました。冷静に考えれば結構な力技だけど、これを成立させるのが「死神」の中心配置だよなあ。オフビートな小説としての面白さも、ミスリードとして機能してもいます。この企みを覆い隠すという意味で。考えてみれば時系列回りはこの人の得意技だったね。骨格にも表層にも、伊坂エッセンスはよく抽出されていると思います。ピザの話とか、本格としての志向もそれなりに感じられるのも好ましいところ。

《ドアをまっすぐ眺めながら、藤田がこの部屋に飛び込んでくるのを待つ。何を期待しているわけでもないのだが私の頭の中では、ブラウン・シュガーもしくはロックス・オフのイントロが流れはじめていた。あの能天気ながらも毅然としたロックンロールの響きに合わせて、藤田は現れるだろう。愚かな、剛毅さを漂わせて、やってくる。そして、死なない。》(「死神と藤田」76-77p)

って文章がかっこいいこの短編もそうだけど、連作仕掛けに繋がらない短編は埋没してしまって、それは減点材料かな、と。読み終えて得られる感動は一級品ですが。
ベストはやはり「死神と老女」と、死神のフィルターとしての機能が一番活きてる「恋愛で死神」。吹雪の山荘モノってことで期待してた「吹雪に死神」は今ひとつでした。

作品の評価はAマイナス。

死神の精度死神の精度
伊坂 幸太郎

文藝春秋 2005-06-28
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2 コメント

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 (pokan)
2006-02-05 19:26:15
これまだ読んでなかった~

なんか影響されてしまったので読んでみるね!
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Unknown (urt)
2006-02-05 22:22:53
『オーデュボンの祈り』読んだ時にはこんな大物になるとは予想できんかったなー。

また感想聞かせておくれよ。
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